第二十五話【レインVSチンラ】
「そこまで! ゼブルス選手のギブアップにより、勝者アラース選手!」
審判が大きい声でそう言うと正面の入り口から二人の男性が出て来て、敗北者であるゼブルスを運んで行く。
おそらく準備室方向にある治療室へ向かっているのだろう。
アラースは真顔で正面の入り口から退出していく。
‥‥‥一瞬だったな。
正直言って俺はゼブルスさんが勝つかと思っていた。
魔法使いにはあんな戦い方をするやつもいるんだな。
「レインくんや、どうだったかね?」
ソファーに座っているおじいさんが俺の顔色を窺うようにそう聞いて来た。
「素直にすごかったです」
「じゃろ? わしはこれを楽しみに生きとるからな。さてと、じゃあお前さんも準備室へ向かいなさい。今見た通りどんな魔法を使っても構わんし、武器を使用してもいい。これはな、簡単に言うと喧嘩じゃよ。‥‥‥どんな戦いをするのか楽しみにしとるからな?」
‥‥‥やばい、緊張してきた。
俺、なんの武器も持って来てないし‥‥‥大丈夫かな?
いや、実践こそ最高の筋トレ。
ここで頑張らずに、いつやるんだ。
俺は絶対成長してやる。
そしていつか親父を超えて見せる!
「はい、見ていてください。すぐに一位になりますよ」
「ほほほ、久しぶりにいいタマが見つかったもんじゃ」
俺はおじいさんの部屋をあとにし、その準備室とやらへ向かう。
正面入り口の扉を横切り、先程チンラさんが進んで行った方へ向かうと、トイレのドアと治療室が一つ、準備室の部屋が二つある。
これってどっちに入ってもいいのかな?
見た感じ男女の表記はないけど。
何故二つあるのかと疑問に思っていると、片方が開いた。
中から出て来たのはさっき試合場で戦っていた女魔術師だ。
服装が布の服に変わっている。
彼女は俺の顔を一目見て、何も言わずに去っていく。
関わって来る気はないらしい。
だが一つ言えるのは結構美人だったぜ。
俺は、女魔術師が出て来た方の部屋の中へと入る。
‥‥‥うわぁ。
ものすごく広いやん。
この面積からして、数人が一緒に使ったりもするのかな?
ロッカーも結構な数があるし。
俺は準備室の広さに驚きつつも服を脱いでいく。
やがて上半身だけ裸になると、端っこのロッカーにその服と大事な鞄をしまい、ちゃんと鍵をする。
ロッカーの鍵はズボンのポケットに入れておけば大丈夫だろう。
そしてすぐに準備室から出て、正面の入り口へと向かう。
もうすでに正面の扉前には、丸坊主の審判とチンラさんがいた。
黄色の服を着ている審判は俺の姿を見ると呟く。
「あ、今呼びに行こうと思っていたのですが‥‥‥あなたが新人のレインさんで間違いないですか?」
「あ、はい。そうです」
「分かりました。それではお互い準備の方は大丈夫でしょうか?」
「はい」
「勿論だぜ、こら」
俺とチンラさんがそれぞれ返事をすると審判は一度首を縦に振り、正面の入り口を開ける。
そして俺を含めた三人は砂の試合場へと足を踏み入れる。
俺は緊張の足取りで壁際へと寄った。
審判は壁についているはしごを使って上の足場まで登り、口を開く。
「それではこれより、第150位選手レインVS第50位選手チンラの試合を開始します! 片方がギブアップをするか動かなくなった時点で終了です」
俺は第150位か。
つまり今現在裏闘技場選手の人数は150人ということになる。
意外と少ないんだな。
てか、目の前にいるチンラさんの武器が凄いんだけど‥‥‥。
まず両手に鉄の剣を持っていて、ズボンにはナイフが一つ取り付けられている。
対して俺は上半身裸。素手。
こりゃー本気で行かないと斬られるな。
真剣相手なんて親父ともやったことねぇよ。
「それでは始め!!」
そんな声が響いたのと同時に、チンラさんが近付いて来る。
「素手とは余裕じゃねぇか!? こら」
そう言いながら右手の剣を振って来た。
「好きで素手でやってないですよ! てっきり武器は用意されているものだとばかり思っていたからね」
俺はそう答えて後ろにステップし躱した。
「はっ、考えがあめぇな。こら」
「そんなの分かってますよ」
よし、とりあえず相手の剣を盗むか。
そう考え拳を構える。
その瞬間、相手は再び剣を振って来る。
これくらいなら見切れるぜ。
親父の剣に比べたら遅すぎる。
俺は地面すれすれまでしゃがみ、ギリギリの距離で避けると、地面を蹴って腹にパンチをお見舞いした。
チンラさんは「うっ!! こら」と声を漏らすが、すぐに剣を薙ぎ払って来る。
流石に撃たれ強いな。
「死ね、こら」
チンラさんが大きめの声でそう言いながら横に剣を振って来たので、俺はジャンプをして飛び越え、今度は相手の顔面にキックを入れた。
それにより相手は一瞬怯む。
そのチャンスを逃すまいと、地面に着地したのと同時に相手の懐に入り、手刀で横腹にダメージを与えつつも相手が左手に持っていた鉄の剣を奪った。
「よっしゃ」
「ぐはっ。くそ、こら」
よし、得意な剣技で行くぜ。
俺は右手で剣を構え、左手を後ろに下げる。
刃物同士で戦う時、使わない方の手を下げるのは当然。
前に出していたら斬ってくださいと言っているのと一緒だ。
相手もそれが分かっているらしく、気を取り直すと同じように左手を後ろへ下げた。
「行くぜ?」
「ああ、来てみやがれ、こら」
俺は普通に鉄の剣を斜めに振り下ろす。
それをガードしようと相手は剣を振り上げようとするが、俺の速度には間に合わなかったらしく、肩に剣が直接当たった。
「はっ!?」
えっ、刃が通らない。
「驚いたか? 俺手作りの鉄製シャツだぜ。こら」
ちゃんと上着は破れている。
しかしその中で止まった。
何だよ鉄製のシャツって‥‥‥。
よく着れたな。
鉄となると確かに斬れない。
だが上からダメージを与えることは可能だ。
鉄という物質は案外衝撃を通しやすいからな。
その証拠に、俺の剣をくらって一瞬痛そうな表情をしていた。
それに腕や足ががら空きだ。
斬り取ってしまったら可哀そうだから、そんなことしないけど。
俺は鉄製のシャツに刃を当てる為に、早めの速度で相手の背後に周り、剣を何度も背中にぶち当てた。
ガンガンッという鈍い音が響く。
それを阻止しようとチンラさんは振り返りながら剣を振るって来るが、そんなのは想定済みだ。
ものすごい勢いで剣同士を衝突させる。
それにより相手は思わず剣を手放してしまう。
俺は普通に手に持っているが、自分から手放す。
剣を使ったらすぐに終わりそうだし、素手の勝負の方が楽しそうだ。
チンラさんは手放した鉄の剣を拾おうとするが、そんなことはさせない。
横腹に飛び膝蹴りを入れる。すると相手は吹っ飛んで剣から遠く離れた。
こいつ、大したことないわ。
正直言って先程の女魔術師アラートさんの方が手強そうだぜ。
俺は走って、倒れている相手の片足に乗ると、腹を何度も殴る。
「ぐ、げほっ! こら」
やはり効いている。
てかこんな状況になっても語尾に「こら」を付ける精神は、素直にすごいと思う。
「まだまだぁ!」
「ごほっ、あ、あそこを見ろ、女魔法使いのスカートが捲れて‥‥‥ぐはっ、やがるぜ? こら」
なんだって!?
さっきの美人アラートさんのかい?
俺は拳を止め、急いで後ろを振り返った。
読んでくださりありがとうございます。




