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第二十一話【模擬戦・弐】

 鐘の音が鳴り響いた数秒後、試合場へと向かう。

 

 俺を含めた受験者五十人はそれぞれ緊張しているのだろう、無言で足を進める。

 

 すると遠くに教師たちの姿が見えて来た。

 とりあえず気を付けておいた方がいいのは、魔法使い系の先生たちだな。


 説明会で熟睡していた俺を起こして来た体格がよくて強面な先生は、圧がすごいけどまあ大丈夫だろう。

 物理ダメージには少々自信がある。


 やがて一定の距離に到着すると、どこからともなく大きな声が聞こえて来る。


『はい、それでは続けて受験番号501番から550番までの模擬戦をスタートします。用意はいいですか?』


 実はさっき他の受験者が話していた会話がたまたま聞こえて来たんだけど、どうやらこういう迫力のある声はとある魔法を使って音量を上げているらしい。

 街中に響き渡る正午の鐘もその魔法が使われているみたいだぜ?

 

 また、時間を正確に測る魔法もあるという。

 いやー、人の会話って勉強になるなぁ~。

 

『三‥‥‥二‥‥‥一‥‥‥開始です!!』


 その言葉と共に受験者四十九人が一斉に動き出す。

 

 教師十人と俺は、開始地点に立ち止まったままだ。

 

 そう、五分間生き残るにはこれが一番効率がよい。

 

 たくさんの受験者はそれぞれ教師十人に対してド派手な魔法を放っていく。

 間近で見ると本当に迫力がすごいな。

 あれを撃ったりするのってどんな感覚なんだろう。

 

 教師陣は魔法の壁を張ったり、木刀を使用したりして、それらの魔法をかき消している。

 普通にすごいけど‥‥‥魔法って木刀程度の武器で消せるんだ。

 あの程度なら直接体でくらっても大丈夫そうだぜ。

 

 因みに俺は準備室にあった木刀を持って来ていない。

 わざわざ得意な剣術を披露しなくても、逃げていればいいだけの話だし。

 

 とそこで数人の受験者が、教師の手加減をしているであろう攻撃魔法によって地面に倒れた。

 

 それに気付いた周りに待機している白い服の教師たちは、その子たちを回収すると出口に向かって走っていく。

 

 そんな様子を見ていた、その時。

 

 教師の一人が、のんびりしていた俺の存在に気付いたらしく、ゆっくりと近付いて来始めた。


 あの人、どこかで見たことあるな‥‥‥って、説明会で寝ていた俺を起こしてくれた人か。


 体格がよくて強面な男性教師は、木刀を片手に歩いて来ている。

 

 よし、まずはゆっくりめに移動して逃げよう。

 そう考え斜め前方向に向かって足を進める。

 

 すると強面教師は進行方向を変え、少しペースを上げて来た。

 やばい、このままだと正面からぶつかるな。

 

 流石に、素手で木刀を受け止めたらおかしいと思われそうだ。

 

 ということで俺も少しだけペースを上げると、更に横へ進行方向を変える。

 

 これで向こう側へ抜けられると思った‥‥‥んだけど、あの人またペースを上げて俺が正面へ来るようにしやがった。


 きりがなさそうなので、自分が出せる速度の約七割を使用し、横の壁際まで寄って走る。

 

 これでもう片側へは移動出来なくなったな。

 でもまあ大丈夫だろう。

 と思っていた矢先。

 

 男性教師は体中に白色のオーラを纏わせ、ものすごい速度で移動を始めると壁際を走っている俺の正面へと来た。


 もう距離がかなり縮まっていて、目の前だ。

 

 えっ、何そのオーラ。

 身体強化とかそんな感じの魔法っすか?

 

 俺は正面からぶつかり合うのを避ける為、今自分が出せる全速力で壁際とは反対方向の斜め前へ進みだし、強面教師の横を通り過ぎていく。


「あ!?」


 後ろから驚いたような声が聞こえて来たが、放っておこう。

 

 続けて更に斜め方向へ進みながら、他の教師や受験者の横を通り過ぎて準備室の反対方向へと移動した。

 

 ふぅ、ここまで来ればしばらくは大丈夫だろう。

 そう考え後ろを振り向いてみると。

 

 目の前にさっきの強面教師が迫っていて、俺に向けて木刀を振り下ろして来ていた。


「うわっ!!」


 突然のことに思わず声を上げてしまいつつも、横ステップをし危機一髪で躱す。


 あっぶねぇ。

 この人、ずっと俺について来てたのかよ。

 想像以上に速いじゃん。


「お前、よく見るとあの説明会で寝ていたやつか」


 男性教師は振り下ろした木刀を元の位置に戻しつつもそんなことを言った。

 やっぱり俺の悪印象は覚えられているらしい。


「あ、はい」

「今のを躱すとはなかなかやるじゃねぇか」

「いえ、たまたまですよ。死んだかと思いました」

「へっ、言ってろ」


 相手は再び俺に向かって何度も木刀を振って来る。

 

 正直言って親父との戦いに慣れすぎているせいで、剣のスピードが遅く感じる。

 そしてかなり単調だ。

 よく観察してみると同じ動きしかしていない。


 俺はしゃがんだり、横ステップやジャンプをしたりして次々と迫って来る木刀を躱していった。


「おい、お前‥‥‥何者だ?」


 あら、俺が普通ではないと思われたかな?

 ちょっと誤魔化しておくか。


「どこにでもいるただの平民ですよ」


 そう答えると、男性教師の木刀のスピードが少し上がった。


「嘘つけ。普通の奴が俺の剣技を躱せるはずがねぇ」


 あらま、見破られちゃったわ。

 しょうがない、逃げよう。


 俺は横から足のつま先辺りに迫って来ている木刀をジャンプして避けると、そのまま別の方向へ向かって走る。

 

 ふむ。

 少し遠くには、別の教師と受験者数人がやりあっているな。

 よしあそこを突っ切るぞ。

 

 人という障害物を使用して、後ろから追って来ている強面野郎から逃げてやるぜ。

 

 俺は、受験者三人と教師の放った炎のような魔法の間を通り抜けると、そのまま別の受験者へと向かう。

 

 そこで少し後ろを振り返ってみると、強面教師は若干俺に遅れを取りつつもしっかりと追いかけて来てやがる。

 ‥‥‥ん?

 

 あれ?

 

 俺って‥‥‥二人に追いかけられていたっけ?

 

 なんかさっき別の受験者と魔法の撃ち合いをしていた魔法使いっぽい服装の教師が、強面野郎の後ろにいるんだけど!?

 おーん? まさかの敵を増やしてしまったパターン?

 

 ておい、なんか撃って来たぁ!?

 

 魔法使い教師さんは、走っている俺に向かって風の刃みたいな攻撃魔法を撃って来やがった。

 

 ‥‥‥どうしよう。

 

 俺は走りながら悩む。

 

 う~ん。

 

 魔法っていうものを一度はくらってみたいんだよな。

 

 でもそれでもし俺にダメージがないことが分かったら、かなり目立つだろうし。

 

 えぇっと、じゃあとりあえず今回は躱すか。


 俺は進行方向を横に変えて風の刃を無視すると、別の受験者たちの元へと向かう。

 

 

 少しして‥‥‥。

 

 

 ‥‥‥。

 

 おーん?

 

 なんか追いかけて来ている教師の数が七人に増えているんだが?

 

 だんだん厳しくなって来たな。

 飛んでくる攻撃魔法の数がやばい。

 

 因みに受験者は全員で約十人ほど残っている。

 

『開始から三分が経過しました。残り時間は二分となります。教師陣は受験者が死なない程度に本気を出してください』


 そんな声が聞こえて来た。

 おぉ、とうとう始まったな。

 

 俺は壁際に寄って、後ろから来ている教師から逃げ続ける。

 

 すると、背後からものすごく大きな音が聞こえて来た。

 急いで振り向いてみると‥‥‥竜巻のようなものが見える。

 いや、こっちに向かって来とるやん。

 誰だよあんな大きいの出したやつ。

 絶対殺しに来てるだろ。

 

 てか横に移動しても、もう間に合わないと思うんだが‥‥‥。

 うん、入るしかないな。


 俺は素直に竜巻の中へ飲み込まれた。


 その刹那、呼吸が乱れ、体中に衝撃を感じる。

 風圧により俺は上空へと持ち上げられ、身動きが取れない。

 確かにすごい攻撃だ。

 

 ‥‥‥でも、俺にダメージを与えたいならこんなに軽い攻撃じゃ駄目だぜ?

 

 やがて竜巻が収まり俺は重力によって地面へと落ちた。

 

 一応受け身を取ろうとしたが直前で体のバランスを崩してしまい、砂の上に横たわってしまう。

 

 俺は急いで立ち上がると、再び走り出した。

 腕や体などを確認した限りどこにも出血は見られない。

 ただ単に教師の魔法が弱いだけなのか、それともまだ手加減してくれているのか。

 

 ‥‥‥て、あっ!!

 

 今気付いたけど、これってやばくない?

 

 俺、あんなに大きな竜巻に巻き込まれた直後に無傷で走っているんだが。

 

「な、なんで」


 後ろから女性のそんな声が聞こえて来る。

 おそらく先程竜巻を出した人だろう。

 

 とその時、この試合場の数か所で同時に強力で大きな魔法が使用され、受験者は俺を除いて全員戦闘不能になったらしく、周りに待機していた白服の教師たちに運ばれていく。


 おい、俺一人かよ。

 

『残り制限時間一分』

読んでくださりありがとうございます。

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