第二十話【模擬戦・壱】
この闘技場は見た感じ円形で、砂の地面を囲むようにして観客席があるのだ。
おいおい、広すぎだろ。
アラストル学園まじでどうなってんだよ。
果たしてこの観客席にどのくらいの人数が入れるのか、まるで見当がつかねぇな。
やがて全員が番号順に席へ座ると、体の細い男性教師が大きい声で話し始める。
「はい、みんな席に着いたね? じゃあ受験番号51番から100番の子は僕について来て。で、それ以外の子は他の子の模擬戦をよく見て観察しておくこと」
その言葉と同時に数人の受験者が「はい」と返事をし、男性教師の後ろについて行く。
俺は席に座ったまま砂の試合場を眺める。
ふむ、あそこなら存分に暴れられそうだな。
‥‥‥てか、この模擬戦ガチで行かないとまじでやばいかもしれない。
ちょっと今までの試験を振り返ってみよう。
まず試験についての説明会。
算数以外ほぼ全部分からなかった。
大陸名とか国の地域の名称とか知る訳ねぇだろ。
生まれてこの方あの森から出たことないんだから。
あと一般常識レベルの礼儀作法なんて知る訳ねぇだろ。
生まれてこの方、森の中で生きて来たんだから。
あと魔法についての問題‥‥‥ふざけてんのかよ!
俺は魔力なんて持っていないし、そもそも一度もこの目で見たことねぇよ。
挙句の果てに魔方式を書けってどういうことだ、馬鹿野郎! 俺は魔法とは無縁の平民だっつってんだろ。
あと騎士道についての問題‥‥‥一対一で模擬戦をする時の作法なんて知る訳ねぇだろ、この野郎。
親父は開始直後に攻撃して来ていやがったからな。
作法もくそもねぇよ。
うん、つまり色々とやばい。
次に魔力検査。
結果は教えてもらえなかったのだが、言わずもがな最低レベルだ。
だって魔力が宿らないと言われている平民だもん。
普通にやばい。
つまりこのままだと落ちる可能性しかないのである。
ということはだ。
フォレスト家の血を引いていると思われないレベルの力で教師たちと戦い、なおかつダメージをくらったら一定以上のダメージで痛いふりをする。
だが今までの試験を覆すくらい目立たないといけない。
‥‥‥いや、ものすごく難しいやん。
でもまあ、やるしかないよな?
よし、ちょっと模擬戦のルールを再度確認しておくか。
まず模擬戦は受験者約五十人が一斉に行う。それに対し教師は十人。
制限時間は五分だが、受験者が全員戦闘不能になった時点で終了。
武器は学校側が用意した木刀のみ使用可能。
受験者、教師共に死亡につながるような攻撃は禁止。
また、ある程度のダメージであれば模擬戦が終了後、保健室の先生によって治療してもらえる為存分に戦ってもよい。
教師陣は全員実力者なので出し惜しみや遠慮は一切しないこと。
因みに教師陣は最初の三分間程度は手加減するが、それ以降の二分間は受験者が死なないレベルで攻撃していく。
不正が発覚した場合その受験者は失格。
もし仮に五分間戦い続け、最後まで試合場に立っていられた受験者がいた場合、筆記試験の結果はどうであれとりあえず合格が決定する。
一番合格出来そうな方法は、五分間試合場の中で立ち続けるということだ。
だが、それは教師十人に対して子供一人が対等に行動していると考えていいだろう。
つまり明らかに普通ではないと思われるのは間違いない。
確実に目立つ。
でもこれしか方法がないのも事実だ。
‥‥‥よし、やるか。
絶対に五分間逃げ切ってやる。
なるべく教師の攻撃が当たらないようにするぜ。
その後、俺は観客席から何度も模擬戦の様子を見ていった。
色んな種類の生徒がいるから意外と暇じゃないな。
てかやっぱり教師と受験者は実力差が離れすぎている。
教師が手加減してくれている三分間戦い続けていた子も何人かはいたが、残りの二分でボコボコにされていた。
あと生まれて初めて魔法というものを見たけど、すごいな。
見た目がものすごく派手だし、何より格好いい。
ほとんどのやつが使っているということは、この受験者はほぼ全員が貴族なのだろう。
‥‥‥俺って魔法をくらっても平気なのかな?
魔力がないから魔法の防御壁みたいなやつとか出せないし、直接受けないといけないよな。
やっぱり一度くらい受けてみたいな。
機会をうかがってやってみるか‥‥‥。
「次に受験番号501番から550番の人は僕について来てください」
模擬戦を見ながら考え事をしていると、教師の声が聞こえて来た。
お、とうとう俺の番か。
頑張るぞ!
近くの椅子に座っていた俺を含む五十人はその場に立ち上がると、教師に案内されてものすごく広い準備室へと向かった。
準備室の中はたくさんのロッカーがある。
俺は中に入ると、ロッカーの中に用意されていた受験番号の書かれている大きなバッヂを手に取り、肩にかけていた鞄を中にしまってちゃんと鍵をかける。
てか戦闘用の服とか用意されていないのな。
てっきり体操服とかがロッカーの中にあるのかと思ったけど、自分の服で戦わないといけないのかよ。
そういえば今まで模擬戦をしていた受験者はみんな違う服装だった。
‥‥‥今現在この一枚しかないし、街で買わないといけないな。
また暇な時間があったら、それらしいお店を探しておこうっと。
「なぁ、貧乏ちびくん?」
まあお金はまだたくさんあるし、そのくらいの出費なら大丈夫か。
学園の寮があるから部屋代も浮くしな。
「おーい?」
さてと、そろそろ出番だろうし精一杯頑張って来よう。
「君のことだよ?」
突然肩をポンポンと触られた。
「ん?」
振り向いてみると、三人の男の子がいた。
金髪の子が一人と緑色の髪が一人と赤髪の子が一人。
そのどれもがめちゃくちゃ豪華な格好をしてやがる。
典型的ないじめっ子パターンの奴だな。
というかさっきの貧乏ちびって俺のことかね?
三人は俺を真顔で見て来ている。
まず最初に、中心にいる赤髪の子が口を開いた。
「なぁ、お前平民だろ? 汚い身なりだな」
「そうだけど。どうかした?」
「いや、別にいいけど少なくとも俺たちの邪魔にならないように気を付けてな? こっちは本気でSクラス狙っているから」
「ああ、了解」
別に相手にする気もない。
適当に返事をして別の場所を向くと、三人は俺の視界の方に移動して来やがった。
今度は金髪くんが喋り始める。
「おい、平民でこの入試に受かるのは絶望的だと思うぜ? それにお前、説明会で寝てたろ? うん、無理」
「そうか。なら君らの合格枠が一つ増えるから、それはそれでいいと思うぞ?」
こいつら何が言いたいんだ?
「ならさ、帰ってくれない? 真面目にしない奴って見ててイラつくからさ」
「しょうもないことを言う暇があったら集中しておいた方がいいと思うぞ? 教師って結構強いみたいだし」
わざわざそう忠告してあげると、金髪の子が怒った表情で何かを言おうとしたが、それを赤髪の子が止めた。
そして赤髪は俺の方を向く。
「何でもいいけどさ、模擬戦では俺たちの近くに立つなよ? 魔法で殺しちゃったらいけないしな」
「「はは」」
おぉ、また大きく出たな。
でも自信があるのはいいことだ。
「気を付けておくよ」
言いたい奴には言わせておけばいいや。
どっちにしても口では何とでも言えるし、模擬戦が始まったら分かる。
最後まで生き残るのは俺だ。
毎日死ぬほど鍛えているこの体を駆使して、五分間逃げ切ってやるぜ!
俺の返答に三人はあまり納得がいってないようだが、「ふんっ」と言って冷静を保ちつつも俺の元を離れて行った。
素直に言うことを聞こうとしているのに納得しないって‥‥‥じゃあ俺はどうしろと?
反抗したらどうせ言い返して来るだろうし。
生理でイラついているのかね?
それとも更年期なのかね?
とそこで、教師の一人がこの広い準備室に入って来た。
「よし、それじゃあみんな、各自のロッカーの中に入っていた番号の書かれているバッチを服の胸辺りにつけてくれ。もうそろそろ始まるからな」
「「「はーい」」」
俺は周りに便乗するように小さい声で返事をしておくと、バッヂを汚れた服に取り付けておいた。
そしてその場に立ったまま出番を待つ。
すると、試合場の方から大きな鐘の音が鳴った。
模擬戦終了の合図である。
この長さからして、今回も五分間耐えきった奴はいないらしい。
どうやら模擬戦が終わった後は別の出口から出るみたいで、そこに保健室の優秀な回復役が待っているのだとか。
「おーし。全員俺について来い」
鐘の音が鳴り響いた数秒後、教師が大きい声でそう言って、試合場へと入って行く。
読んでくださりありがとうございます。




