第十九話【入学試験】
俺はベンチの背もたれにもたれ掛かり、いつの間にか目を閉じていた。
少しして‥‥‥。
ゴォォォン! ゴォォォン! という重たい音が頭の中に響いて来る。
目を開けると、アスファルトの上をたくさんの人が歩いていた。
俺と同じくらいの年齢であろう人間や、獣人、兎人、その他など。
そしてそれらの保護者だと思われる背の高い方々。
そのどれもが、吸い込まれるように門の中へと入っていく。
まだ受付までは十分程度あるはずだけど、まあこういうのは早く行っておいて損はないし俺も行くか。
ということで、一度大きなあくびをして木のベンチから立ち上がると、人だかりに紛れ込んで門の中へと進む。
いや、人数多すぎだろ!
いくら親を連れている人がいると言っても、どんだけだよ。
やがて学園の敷地内へ入ると、とある一つのテントの前に大行列が出来ていたので俺もそこに並ぶ。
これ、全部で何人いるんだろう。
てかそもそもどのくらいの人数が合格するんだろうな。
まじで何も知らないわ。
数分後‥‥‥。
行列が少しずつ前に進みだしたので、受付が開始したっぽい。
あー、なんか緊張して来たわ。
周りの受験者やその保護者は、ほぼ全員綺麗でおしゃれな格好をしている。
それに対し俺はいつも通りの布製の服装。
体中の傷跡が隠せるから便利でいいんだけど、この状況だったら場違い感半端ねぇな。
ふーがわりーのぉ。
その後順番が回って来た為、受付で「受験番号505。レイン=アルトリアです」と言って、受付のお姉さんに説明された通りに校内へ進んで行く。
そして体育館みたいな建物の中へ入り、自分の受験番号が書かれた紙の貼ってある椅子へと座った。
因みに受験者の保護者は受付が終わると我が子に「頑張ってね~」や「ファイト!」などの熱い声援を送った後、門の外へと帰っていった。
‥‥‥どいつもこいつも過保護じゃのぉ。
俺の親なんて受付に来ないどころか、家からも出て来やがらねぇ。
挙句の果てに学校の話をして来たのが、入学試験の三日前。
おーん?
もう少し過保護でもいいんじゃないのかね?
いくら俺に前世の記憶があるとはいえ、この世界と全く違う知識や思い出しかない訳だし‥‥‥とにかく昨日このアラストル街に着いた時はまじで不安だったわ。
唯一救いだったのが、フォード=アルトリアさんの存在。
あの人がいなかったら俺、普通に迷子の子猫ちゃんになっていたと思うぞ。
他人であるフォードさんの方が父親らしいとはどういうことだね?
心の中で文句を言いつつも、俺は他の受験者が揃うのを待つ。
それにしてもさ、この学園‥‥‥綺麗で大きすぎだわ。
今俺がいるこの体育館もものすごく広い。
果たしてここまでの面積は必要なのかね?
‥‥‥てかまた眠たくなって来たわ。
でも流石に試験で寝たらやばいだろ。
‥‥‥いや、まだあまり椅子は埋まってないし、説明とかが始まるのはもう少しあとだろ。
つまり少しなら寝てもいいということだ。
て、おい!
何自分を正当化させようとしてんだよ!
もし寝たりして試験に落ちたりでもしたら、親父と死んだお母さんとティアに顔向け出来ないわ。
だから絶対寝るなよ、俺!
‥‥‥あ~、でもちょっとだけ目を閉じてみようかな。
うん、冗談のつもりで閉じるだけ。
つまり寝る気なんてミジンコの全長並みにないわ。
‥‥‥。
俺は眠りについた。
それからどのくらいの時間が経っただろうか。
突然肩に何かが当たったような感覚がした。
「───番、起きなさい」
そんな声が聞こえて来る。
ふと目を開けてみると斜め前に、きちんとした服装をしていて体格がよく強面な男性が真顔でこちらを見て来ている。
「受験番号505番、起きろ!」
‥‥‥うわっ、やべぇ。
「す、すみません」
俺は勢いよく椅子から立ち上がり周りを見渡した。
するとこの建物の出口辺りに大人数の列がある。
強面な男性は俺を睨んできながらその列を指さした。
「早くあの列の五番目に並べ」
「あ、はい! すみませんでした」
大声で謝り、急いで空いている列の真ん中に入り込んだ。
この列は十人でその全員が俺の方を見て笑ってやがる。
列の先頭にいる受験者は、俺が到着したのを確認して笑いながら外へ向かって歩き出した。
俺は前の受験者たちについて行く。
いや、これは本気でやばい。
今の状況からしてもう説明は終わったっぽいし。
‥‥‥俺、何も聞いてないぜ?
てかさっきの教師であろう男性、絶対怒ってたよな?
下手したら目をつけられた可能性がある。
いや、百パーセント目をつけられただろう。
これは受験に落ちたかもしれん。
後悔をしつつも校内を歩いていき、綺麗で長い廊下を進み、やがて一つの教室に辿り着いた。
俺たちの列はその教室へと入っていく。
うわぁ、めっちゃ広いやん。
軽く百人以上は入れそうだ。
この教室は後ろへ行くほど長い机の位置が高くなり、逆に教卓と黒板が一番下の位置にある。
受験番号501番から510番の俺たちがこの教室に一番乗りということは、一つの教室に大体百人ずつほど集められているのだろう。
よく見ると教卓には眼鏡を掛けている大人しそうな女性教師が立っている。
その後、この教室にたくさんの受験者が揃うまで待ち筆記試験を受けたあと、別の狭い部屋に移動し、そこの教室でクリスタルのような丸くて綺麗な玉に手のひらを当て魔力検査を行った。
そして今現在、校舎の隣にあるめちゃくちゃ広い闘技場の入り口に、俺を含めた受験者全員が集められ模擬戦の説明を聞いている所です。
「───以上でルール説明を終わります。何か質問はありますか?」
闘技場の扉の目の前に立っている女教師の一人が、全員に聞こえるような大きい声でそう言ったが、誰も手を挙げない。
まあ仮に分からないことがあっても、全く知り合いのいないこの状況で手を挙げられる奴なんてそうそういないよな。
「じゃあ今から教師VS受験者の模擬戦を開始する。最初に受験番号1番から50番の人は私について来てください。またそれ以外の受験者はあちらにいる男性の先生に従って観客席へと移動するように」
女教師が指をさした先には体が細くておっとりしている男性教師が立っている。
ということで出番ではない俺は、他の受験者と共に男性教師について行き、とても広い観客席へと移動した。
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