60話 キャンプ、スタート!
――桃華視点
「葵先輩っ!」
先に車に乗り込んだ葵先輩の横に詰め寄った。
「ど、どうしました? これぐらい大丈夫ですから」
恐らくキャンプが中止にならないように我慢してくれているのだと思う。でもそのまま放置しておく訳にはいきません!
「シャツを……脱いで下さい!」
「え?」
素っ頓狂な声が上がった。真夏の車の中はエンジンをかけていない状態だととても暑いですね。でも暑さでおかしくなった訳ではありませんから。
「早く脱いで下さい!」
「はいっ!?」
慌てて脱いでくれた、その肩には青い痣が見えた……痛そうですぅ。でも、私のせいでしてしまった怪我ですもんね。ちゃんと私がケアします!
先程店長さんにお願いして出してもらった小さめの保冷剤をハンカチで包み、そっと葵先輩の肩に置いた。
「っつ……あ、あの」
「ダメです。病院に行ってくれないなら私が横でアイシングしておきます!」
少し内出血して腫れもある。今はちゃんと冷やしておかないと。それに舐めてもこの怪我は治りませんからね! 包丁で手を切った時といい治療方法が雑過ぎますよ!
「流石は桃華ちゃん、わがままな葵をそうやって押さえといて~」
「的確な治療法だ」
エンジンがかかり涼しい風が車の中に送られてきた。今は葵先輩、裸だし冷えちゃう……え? 裸? 胸丸見え、逞しいからだぁ~!?
気が動転して思わず保冷剤を置いた肩に力をかけてしまった。
「きゃあっ!! えっちですうぅ~!!」
「ぐあああっ! 鈴宮さんっ!? そこ痛いとこ!」
「ちょ、ちょっと桃華ちゃん!?」
「何をやってるんだ、嬢ちゃん……」
結局シャツは着てもらい、中に手を添える事で収まった。ごめんなさい、葵先輩……。
一時間ほど車を走らせ、辺りの風景はもはや緑一色となり、道幅も狭く、急こう配になって来た。
「もう一山超えたら到着だからね~、この先はちょっと急なカーブが多いからね~」
確かにうねうね道で山を登ってると言う感じ。でも私は今それどころじゃない。さっきからずっと葵先輩の肩に手を置いてる。保冷剤越しだけど男の人の服に手を入れてるなんてすごく妙な気分になっちゃう……。
「どうですか? 痛みの方は?」
「ええ、大丈夫です、ありがとうございます」
肩を覗かしてもらうと悪化もしていないし、腫れも引いた感じがする。
……おっぱい見えちゃった。
「じゃ、じゃあ、今度は暖めますね!」
私、欲求不満なのかな、さっきから意識がそっちばっかり……ダメダメ! こんなんじゃ気持ち悪がられて嫌われちゃう! それよりも腫れが引いたなら次は暖めて血行を促進させなきゃ。学生時代陸上部のマネージャーやってて良かった!
「温めるといっても……いいっ!?」
保冷剤を持っていない方の手を葵先輩の肩に当てた……うう冷たい。ほんとは蒸しタオルとかがあればいいんだけど。
「だ、大丈夫ですから――」
「大丈夫じゃないですっ! 触られるのは嫌かもしれませんが……我慢して下さい……」
ベタベタ触られて気持ち悪いですよね……でもこれは医療行為なので許して下さい。でも、不謹慎なのですが、私、ちょっと嬉しんです……。
「……はい。じゃあそっちの手を貸して下さい」
葵先輩が私の手を取って……あ、暖かい……。
「ずっと冷やしてくれてましたもんね、こっちの手は俺が暖めておきます。嫌かも知れませんが我慢して下さいね。おあいこです」
にっこり笑ってくれた。と、蕩けそうですぅ~、体温上昇しちゃいますよぉ! あ、でもそれでいいのかな?
「あの~、私達居るんですけど~、車内でのイチャイチャはお控え下さ~い」
「……ふん」
「えっ!? あっ、そ、そんなつもりじゃ!」
「あだだだっ! 鈴宮さん!? 二回目! 二回目ですよぉ!?」
また、やっちゃった……私のばかぁ……。
「はい、急カーブだよ~」
不意にかけられた言葉の次の瞬間、体が大きく振られ葵先輩の方に傾きくっついてしまった。
「だ、大丈夫ですか? 結構急ですから気を付け――」
今度は逆の方向に揺られ、密着状態になってしまった……む、胸があ、当たって……恥ずかしい! で、でも、今日の私は違いますよ!?
思わず肩から手を離し葵先輩の腕に絡みついた。も、もちろん胸を押し当てて……葵先輩が誉めてくれた胸を。
「んはっ!? 鈴宮さん!? そ、その、あ、当たって――」
「……当ててるんですぅ」
梓先輩達に聞こえないように小さく呟いた。そこから先は葵先輩は固まってしまい何も喋らなくなってしまった。
失敗だったかな……積極的過ぎたかも……でも、私、今日は頑張るって決めたもん!
キャンプ場に着くまで掴んだ腕は離さなかった。
キャンプ場に着くとコテージの横に車を止め、目の間に広がる景色と一晩お世話になるコテージを見て子供のようにテンションが上がった。
「うわあっ! 見て下さい! 山ですぅ、あ、川もあるんですね! それにオシャレなコテージですぅ」
もう興奮が冷め止まない。見るもの見るものに反応してしまう。
「どう? いいところでしょ。さ、荷物を下ろして早速BBQと行きましょうか!」
「ごほん、店長、俺も荷物持ちますよ?」
「何を言ってる、お前は嬢ちゃんに肩を見て貰っておけ。まあ、的確な応急処置のおかげで大した事にはならなさそうだがな」
はっ! 浮かれてる場合じゃない! 蒸しタオル蒸しタオル! 途中から腕組んでて肩見て無かったし……。
急いでコテージの中に入り、店長さんが運んでくれた荷物からタオルを取り出しお湯に浸した。うん、給湯器も家にあるのと同じタイプだ……ほんと山の中にお家を立てた感じなんですね。
タオルをお湯に漬けている間に回り見渡すと、ウッドデッキにリビング、2階にはルーフもあるのかな? それに冷蔵庫もレンジもテレビもある。デッキでは3人が楽しそうに話をしている様子が見える……あ、もうお酒飲んでる!
「もう、怪我してる時にお酒はダメですよ! といっても我慢は出来なさそうですね」
「はは、すみません、鈴宮さん。なんかこんな楽しいキャンプ、俺初めてで……あ、あれ、涙が……」
梓先輩……いままでどんな所に葵先輩を連れて行っていたんですか。泣いちゃってますよ?
「とりあえずこのタオルをどうぞ。肩に当てておくと血行が良くなって痛みも落ち着きますから」
暖めたタオルを肩口から傷跡に沿わしてそっと置いた。ちょっとシャツが濡れちゃうかも知れないけど今の気候なら大丈夫と思う。目の前の川で泳いでる人も居るぐらいだし。
「じゃあ、私動きやすい恰好に着替えて来ますね」
流石にBBQするのに真っ白なワンピースは何かと不便。咲矢からも着いたら着替えるように言われてたし。
とはいえ1階じゃ丸見えになってしまうので、2階のルーフに上がって着替えることにした。
「うわ~、ここで寝るんだぁ。思ったより広い~」
つい声に出しちゃうのは解放感から来るものだと思う。そんな中、着替えている途中で梓先輩も2階に上がって来て周りを見渡していた。
「それにして桃華ちゃんは車内でイチャコラしてたわね~、お姉さん、悶々としちゃったよ~?」
「そ、そ、そんな事は……す、すみません」
うう、イチャイチャ、してました……。
「いい感じね、その調子で頑張って」
小さく耳元で囁いてくれた……梓先輩も応援してくれてる。
「お~い、店長がもう炭を熾してくれたぞ! まずは腹ごしらえといこうぜ? 店長、お疲れ~!」
声がかかり2階から降りてウッドデッキの方を見ると、二人で乾杯して美味しそうにお酒を飲んでいる姿が映った。なんかあんな笑ってる葵先輩って見るの初めてかも……私と居る時には出さない顔ですね……。
「なあに、しょげてるの! 大丈夫、桃華ちゃんはあの笑顔も独り占め出来るよ。さ、私達も行きましょう!」
梓先輩には筒抜けだ……はい、私、頑張ります! その為にも栄養補給ですね!
炭の匂いとお肉の焼ける香ばしい漂ってきた。まずは、いっただきま~す!




