59話 守られてばかりじゃありません
――桃華視点
この前のお泊りセットと同じ量の荷物を持って待ち合わせである駅の前に来た。この日のコーデも咲矢にばっちりお願いした。
『キャンプとは言ってもコテージだろ? なら、おしゃれしても大丈夫だ。遂に夏の白色ワンピース&麦わら帽子を解禁させる時が来たな!』
なんて言ってたけど……ちょっとキャンプに行く格好とはかけ離れてるような……。それに私、背が小さいからあまりこういった服は似合わないと思ってるんだけど。
でもここは咲矢のセンスを信じたい。いままで一度も外れた事無かったし。
「おはようございます! 晴れて良かったですね! それに、その、今日も可愛らしいですね!」
Tシャツ姿の葵先輩……しっかりとした筋肉が逞しいです! と、ところで今、可愛らしいって言ってくれました!? 咲矢! やっぱりあんた凄いよ! こんなに弟を誇らしく思った事無いよ!
「お、おはようございます! か、可愛いです……か」
お天気もいいし、服装もいきなり褒められるし……今日はなんていい日なんだろう!
「うわあ、桃華ちゃん、かっわいい! それにおっきな荷物を持って……これはこれは? ムフフな感じ?」
うん、ありがと! 清音ちゃん……ええっ!? どうしてここに居るの!?
「清音ちゃん!? ど、どうしたの!? バイトは?」
「今からだよ~、そ・れ・よ・り・も! 随分仲良くなったみたいだねぇ~、ねえねえ、お話聞かせてよ~」
そ、そうだね、ここは駅前だし天下の往来だもんね……。でも今からキャンプに行くからお話はちょっと……。
「おい、清音、あそこで彼氏が見てるぞ?」
「ひゃい!? ど、どこ!?」
「嘘だ」
何気に酷いような……でもあの反応、上手く行ってるみたいだね! それとあの男の子と付き合ったんだね、私も嬉しいよ!
少しの間清音ちゃんと葵先輩のやり取りを見ていたんだけど、どうやら本当に遅刻しそうになったみたいで走って行っちゃった。
キャンプのお土産話は……良い報告が出来るといいな。
「相変わらず元気いっぱいですね! あ、教官さん!」
すれ違うかのように教官さんがこちらに来てくれた。最近見なかったけどどうしたんだろう。
「おはようございます。今日は店長さんとキャンプですね。お気を付けて!」
『お気を付けて』
あ、大学生さん達も! 暑い中ご苦労様です! そっか、今日は店長さんも一緒にキャンプに行くからお見送りに来てくれたんだ!
「うふっ、ありがとうございます」
私も真似をして敬礼をしてみた。なんかカッコいいかも! あれ? 葵先輩がこちらを見てる?
「ん? どうしまし――きゃっ!」
私、脇上げて!? ワンピースだから見えちゃう!?
「……えっちなんですから」
ついポロリと出てしまった。でも、葵先輩になら見られても……いつも私もいろいろと見られてますし。す、少しぐらいは。
恥ずかしいけどもぐっと耐えている所に梓先輩の声が届いた。手を振りながらこちらに向かって来る姿はいつも見るスーツ姿とは一変して夏ガール! とっても可愛らしいですぅ……ん、葵先輩! 梓先輩の脇見てます!?
「また見てるんですか……」
誰でもいいんですね! そうですよね、じゃないと私なんて――
「いっ、違います! 鈴宮さんは特別です! だから見てしまって、その――」
それ、本当ですか!?
「私、だからですか……じゃ、じゃあいいです……」
特別、特別、特別……こ、これって。ちゃんと私の事を見てくれているって事ですよね! そ、それは純粋に嬉しいです!
その後、梓先輩に冷やかされたりしたけど、なんかそれも少し心地良かったりした。えへっ、楽しいなぁ~!
店長さんと教官さんが挨拶を交わし終わると車まで案内してくれた。お二人は仲良いんですね!
「うわぁ……」
これが私の感想だった、迷彩柄で統一された車なんだけど、なんか強そうだし、おっきいなあ……。
「見た目はあれだけど乗り心地と収納力、そして防御力は抜群よ! さあ、乗った乗った!」
「え? 梓先輩が運転するんですか?」
こんな大きな車を梓先輩が!? とうより免許持ってたんですね。後、防御力ってなんでしょうか。固いって事でしょうか?
「俺が運転技術を仕込んだからな」
なるほど、店長さんが梓先輩に教えたんですね、きっと手取り足取り……。なんか変な感じになってるような……。
「まあね、でもあっちの技術はまだまだ私の方が上だけどね!」
むふっ!? そ、それってあれじゃないですか!? こめ銃でも出て来た奴ですよね!? 固くて、手取り足取りって……はわわっ、私ったら何を考えて! 恥ずかしいっ! 破廉恥ですよ! 梓先輩!
「おい、梓! 浮かれ過ぎだぞ! 店長はともかくこっちには純情な鈴宮さんがいるんだぞ!」
「えへへ、ごめんごめん。だって楽しみなんだもん! さあ、出発よ!」
すみません、葵先輩……私、少しえっちな事考えてました……。そんなに純情じゃないかもですぅ……。
あんまり車には乗らないんだけど、梓先輩の運転は静かでとても乗り心地が良かった。周りの景色も街から山へとのどかな物に変わっていっている。
田園風景にそびえたつ山がこんな近くに……このままあの山の中に入って行くだよね! なんかそれだけでわくわくしちゃう!
「桃華ちゃん、大丈夫? 疲れてない? この先の道の駅でちょっと休憩するから」
「あ、はい! 大丈夫です」
とはいっても少しおトイレしたくなって来ちゃったのでちょうど良かった!
程なくして休憩場所に辿り着き、車から降りた。周りが山に囲まれた場所だけど、結構車も人も多いみたい。
「じゃあ私、お手洗いに行ってきますね」
声をかけておトイレの方に足を向けた。
おトイレから出て来て少し周りの景色を眺めた。自然がいっぱいだぁ、こんな所に来たのなんて林間学習とか以来かな?
「ひゅ~、可愛いらしい姉ちゃんじゃん」
その声に背筋が凍り付いた。二人組の男の方が声をかけて来た。店長さんに比べたら随分小さく感じるけど、それでも普通の人と比べたら随分と大きい……。
「友達とかとキャンプにでも行くのか? ちょっと話でもしていかないか? 夜とか暇?」
首を左右に振りながら後ずさった。やだよぉ……まただよぉ……葵先輩ぃ。
心の中で叫んだ祈りは思いのほか早く成就された。葵先輩が来てくれた!
「あ、葵せんぱぁい……」
「はい、葵先輩です。何処のどなたか存じませんがやめていただけませんかね?」
素早く私の前に入り込んで来て騒ぎを起こさないような口調で相手にはなしてくれた。やっぱりかっこいいです……。
「なんだ、男か? ひょろっこい兄ちゃんだな?」
「ああ、この子の彼氏だ。悪いがどいてくれないか?」
い、今、彼氏って! あわわわっ、この場を収める為の嘘ですけど嬉しいで――葵先輩っ!?
いきなり葵先輩の肩に男の人の手がかかった。明らかに力が込めらているのが後ろから見ていても良く分かる。
「おい、痛いんだが?」
「おお、そりゃあ悪かったな、お前があまりにも貧相だからじゃねえか? 俺にとったら軽く撫でただけだが?」
やめて下さい! そんなの撫でてるなんて言いません! 思いっ切り掴んでるじゃないですか!
「……その手を離せ、今なら許してやる」
「かっこつけんなよ、兄ちゃん?」
やだぁ、今からずっと、ずっと楽しみにしていたキャンプに行くのぉ。邪魔しないでよぉ……。
あ、手を離し……葵先輩ダメです! そんな事したらキャンプが楽しめなくなりますよぉ!
「おい……何してやがる」
低い声と共に男の人が持ち上がたった? 店長さんが片手で……頭を付かんでるぅ!?
更に突っかかっていったもう一人の人も……ああ、なんか店長さんの手の中でもがいてる……。店長さんってほんとに人なんですか?
でも、良かった……あのままじゃ葵先輩が。どうしよう、凄く悲しくなって来ちゃった……でもありがとうございます、葵先輩、店長さぁん。
「ちょっと! 大丈夫!? 葵に桃華ちゃん!」
「梓せんぱぁ~い……」
梓先輩も来てくれて胸に飛び込んだ。うう、怖かったですぅ……。
「大丈夫か、葵」
「ええ、大した事ありま――つつ」
葵先輩の声に体を返して見ると、悲痛な表情を浮かべ肩を押さえている葵先輩が映った。
「葵先輩っ!? 肩!? 見せて下さい!」
梓先輩から離れ、葵先輩の元に駆け寄った。肩口からTシャツをめくると内出血した肩が見えた。
「ひぐっ! あ、青くなってますぅ……」
私のせいで、また……。梓先輩から病院へ行くように声がかかったけど、葵先輩は頑なに拒否して車の方に走って行った。
……分かりました。私がなんとかします!




