52話 新人ちゃん、胸に続きお尻も見られる!
――桃華視点
お昼ご飯、ちょっと食べ過ぎちゃったかも……でも美味しかったぁ~!
お腹も満足したし隣には葵先輩。うう~幸せ過ぎるかも! でも残念なのはさっきまでは人でいっぱいだった館内が今はそれほどでも無くなっている事。どうやらお天気が回復したからみなさん外に行ったみたい。
もう! これじゃあ、はぐれないようにという口実が使えないよ! 手を繋げないよぉ、うう、お天気の意地悪ぅ……。
でも店舗内は比較的入りやすくて助かるのは助かるかも。あ、あの雑貨屋さん可愛い!
「葵先輩! あのお店行きましょう! あ、あっちのお店もいいですね!」
「はは、大丈夫ですよ、そんなに急がなくても。お店は逃げませんから」
うう、ちょっとテンション上がり過ぎて恥ずかしい所見せちゃった。
「あ、あんなところにアザラシちゃんのお店が。こ、こんなとこにあったんだ~。わあ~奇遇だなぁ~」
うふっ、多分知ってましたね。はい、そのお店から行きましょう。私も好きになりましたから!
館内をぐるりと一周し、葵先輩から外に出て見ないかと声がかかった。館内の中からも見えてはいたけど折角だし外にも出て見たい。
葵先輩が扉を開けると潮風の匂いが微かに漂ってきた。泳ぐ海じゃないけど、やっぱり海を見ると気分が上がちゃ――うわぁ!!
「わあ~、船ですぅ!」
建物の中からは死角になっていたので見えなかったが大きな船が停泊していた。思わず手すりのある所まで小走りで行き、船を眺めた。
「葵先輩! 見て下さい~! うわあ~煙突から煙出ましたよ~!」
振り返ると葵先輩は何やら慌てて目線を逸らすような態度を取った。
「どうしました?」
「いえ! ほら船ですよ! すげえ~ぱねえ~! 船ぇ~!」
相当焦っているような……でも目線がちょっと下だったような、あ! お尻! うう、見てたんですねぇ、見、見せるような服ではあるんですが、やっぱり恥ずかしいですぅ。こんな大きなお尻……。もう、顔が火照っちゃいますよぉ! ほんとえっちなんですからぁ……。
火照った顔を冷やす為に海を眺めてた。でも隣に葵先輩が来たから余計に赤くなっちゃた……。うう、海にダイブしたい気分ですよぉ。
なんとか顔の火照りも収まったので葵先輩は休憩しましょうと空いているベンチを探してくれた。いつも気遣いしてくれてとっても優しい人……。
ベンチに座ると先程買ってくれた飲み物を戴いた。何から何まですみません、お礼を述べると笑顔で『いえいえ』と返してくれたんだけど、その少し後に暗い表情になったのを私は見逃さなかった。
「どうされました? 何か元気が無いみたいですが……私とじゃ、つまらないですか……?」
私、面白いお話とかも出来ないし、子供みたいにはしゃいじゃうし……そんな子の相手疲れますよね。
「いえ! 俺は鈴宮さんとこんな風におでかけ出来て幸せですよ。あ、あの、先程は、その胸を見つめ過ぎてしまって、申し訳ありません!」
し、幸せ!? む、胸の件はいいんですよ、むしろ私、ちょっと嬉しくなりましたから!
「えっ!? あ、い、いえ……ちょ、ちょっと恥ずかしかっただけで。あ、葵先輩になら、その、べ、別に……むしろ見て貰える為に頑張ってますぅ……」
最後の方は自分で喋っていても聞き取れるかどうかの声だったから多分聞こえていないと思う……。ふと目線を下げると、葵先輩の手がベンチに……手、触りたいなぁ……。
その思いと行動が何故か自然に連動した。そっと私は無意識に葵先輩の手と自分の手を重ねた。
わ~た~しぃ!! なんか周りにカップルさん多いし、ついっ!
急に手を置かれて驚いたのか葵先輩はこちらを見た。さっきから胸の鼓動が早くなって恥ずかしいんだけど葵先輩から目が離せない。
あろうことか、私はそのまま目を閉じ、唇を少し尖らせた……ダメ! 葵先輩はキスが怖いって言ってたのに! 私から誘ってどうするの!? でも、雰囲気が……経験無いけど、体が自然に……。
どうしよう、どうしよう……恥ずかしい、怖い、でも欲しい……心臓爆発しちゃいそうですぅ……。
「す、鈴宮さん!? 折角ですから船の近くまで行ってみましょう! ほ、ほら!」
葵先輩は私の手を取り席を立った。少し安堵感がこみ上げて来た。
「は、はい! そ、そうですね! はひゅう……」
一気に気が抜けた……なんで私あんな事しちゃったんだろう……。先輩が嫌がる事を……。
その後は二人一緒に休日を楽しみ、帰路に着いた。道中、このまま大人の階段を登る可能性を考えていたけど、葵先輩に『今日はこの辺りにしましょう』と声をかけられた。
悲しかった。一秒でも長く一緒に居たい。でもその後すぐに『今度は一緒にご飯に行きましょう』と誘ってくれた。
次がある……この事が嬉しくてたまらなかった。ここで強引にお願いするよりも次に繋げた方がいいに決まってる。
えへへ、嬉しいなぁ~!
葵先輩と分かれて家に帰って来た。玄関には女性の靴が並んでいた。多分沙織のものだと思う。とりあえず部屋に戻り、着替えながら今日の出来事を思い出した。
「今日はいっぱい手を繋げたなぁ~。でもキス迫っちゃったのは大失敗……」
葵先輩のトラウマかぁ……それにしても私最近大胆になってる……。自分でもびっくりするぐらい。
ちょうど着替え終わったところでノックの音が聞こえた。
「姉ちゃん、ちょっといいか?」
「桃華ちゃん~、あけて~」
何気にお家デートしているカップルだ……。
「で! どうだった? 思ったより早く帰ってきたみたいけど」
部屋に招くや否やいきなり今日の出来事を聞き出そうとする沙織、そして隣に座る咲矢。なんか私、誰かしらに報告させらているような気がする。
「う、うん。失敗もしちゃったけど、いつも以上に急接近出来た、かな?」
『おおっ!』
二人見事に声を揃えた。仲いいですね……。
「そうかそうか、俺もコーデした甲斐があると言うもんだ。まあ、姉ちゃんの事だから最後までは行ってないだろうけど、キスのひとつやふたつは――」
「そ、そんなのしてないよ!?」
『えっ?』
再び部屋に響くハーモニー。ねえ、練習してるの?
「でもさっき急接近って……ね、ねえ、どんな事があったの?」
「ど、どんなって……て、手を繋いだ……よ?」
二人して口が開いたままだった。ちょっと変な顔だよ? 特に沙織、折角の美人が台無しだからやめた方がいいと思う。
「よ、よ、よ……」
よよよ? なに?
「幼稚園児か!?」
ひ、酷いっ! 私、精一杯頑張ったのにぃ!
「沙織さん、姉ちゃんからすればきっと死に物狂いで出した結果なんだよ……」
沙織の肩に手を置いて静かに頷いている。自然なボディータッチだね。ほんとこの子はませてるんだから。
「で、でも、キスはしようとはしたんだよ!? で、でも葵先輩がちょっと……」
「へえ~、その人、葵って言うんだ~」
誘導尋問!? 名前知られちゃった……ま、まあダメな事はないんだけど……。
「でも、その葵さんって人も桃華に負けず劣らずの恋愛初心者だね。女の子に恥をかかせちゃって」
少し、変な気持ちになった。葵先輩は悪くない。私がトラウマを知っててやらかした行為なのに。
「違うもん! 葵先輩はキスが怖いだけだもん! 私が強引に誘っただけだもん!」
あ……言わなくて良い事まで言ちゃった……。
「成程ね……確かにそれは……」
「ああ……完全なトラウマだな」
二人して神妙な面持ちで私に話してくれた。結局事の経緯を伝える羽目になった。私ってほんと押しに弱い……。
でも、この際二人にアドバイスしてもらおう。二人は既に、その、愛し合ってる仲だし……。
「あ、あのね、二人はどうしたらいいと思う?」
「実の弟にそんな事を聞くか?」
うう、確かに……でも藁にもすがりたいの……。
「じゃあ、私と咲矢君の話でもいい? というかそれしか経験無いし……」
頬を染めて俯く沙織に、照れ臭く明後日の方向を向き頭をかいている咲矢。結構この二人も私と変わらない気がする。
「私も咲矢君も経験が無くて。でもキスの方法は2つだと思う。自分からするか、相手からしてもらうかのね」
ふむふむ、論理的な考えだね。今日の私は葵先輩を待っていたと言う事になるね。
「基本は男性からのアプローチ待ちだとは思うけど、そういう過去があるなら……桃華から行くべきだと思う」
ええ~っ!? わ、私からぁ!? 無理無理っ! そんな事が出来たらこんなに悩んだりしないよ! 手を繋ぐだけで精いっぱいだよぉ……。
そんな私の狼狽える姿を見て咲矢が少し身を乗り出して続けた。
「その人のトラウマを治せるのは……姉ちゃんだけだ」
その言葉は深く胸に突き刺さった。私が、葵先輩を治す? 考えてもみなかった。
「流石咲矢君、私もそう思う」
どうやら沙織も同じ事を考えていたみたい。そっか、今の葵先輩に対して待っててもきっと今日みたいにはぐらかされちゃう。それじゃあ何時まで経ってもトラウマは治らないのかも。
「それにね、葵さんも嫌じゃ無いと思うんだ。出来る事ならキスしたいと思ってる筈だよ? 言動を聞いてるとね」
「そ、そうかな? その点についてはあまり自信無いけど……で、でも、私、キスなんてした事無いから……」
しゅんと頭を下げて床に視界を落とした。キスしようにもやり方が分からないよ……待つ事は出来たけど、自分からなんて……。
「……一回だけ見て見る? 私と咲矢君のを……」
「えっ? な、なに言ってるんですか、沙織さん!?」
耳を疑うような言葉が聞こえた。でも沙織は少し顔を赤らめさせてはいるけど冗談を言っている顔じゃない事は見て取れる。私の為に、実演しようとしてくれてる?
「い、言っておくけど、すごく恥ずかしんだからね! い、一回だけだからちゃんと良く聞いて、しっかり見ててね! さ、咲矢君!」
「は、はい!」
二人は向き直り、見つめ合った。
「い、いい? まずは雰囲気よ。既に経験していたから分かると思うけど、そんな雰囲気に辿り着く事がスタートライン」
胸の前に手を握りしめ、懸命に頷いた。その感覚なら今日体験した。あの感じだね。
「次に……少し体を当てる。まだしっかり目は開いててね」
沙織と咲矢が軽くくっついた。ホ、ホールドだね……。
「その後、一言だけ葵さんに伝えて。桃華の想いを……『咲矢君、好き……』」
そのままゆっくりと腕を回し唇が重なった。決してそこに強引さは無く、見ていてもどこか神秘的な物を感じ、邪な感情は一切出てこなかった。
「素敵……」
思わず声が出てしまった。その後しばらくすると二人は離れた。
「キスが終わったら……告白して……ああ、恥ずかしいぃぃ!!」
沙織が両手で顔を隠して地面に伏せてしまった。咲矢も照れている様子が見える。
「こ、これが俺と沙織さんの初めてのキスだ……って言わすなよ!」
自分から言ったんでしょうが……。でも凄い、私が思っていたキスと全然違ってた。これが両想いの人達がするキスかぁ……。
「まさか実の姉にこんな所を見せる羽目になろうとは……ほんと、いい友達を持ったな、姉ちゃんは」
「うん! あ、ありがとう、二人共。私、頑張るよ!」
私の声に二人は顔を赤らめながら微笑んでくれた。でも冷静に考えると人の部屋で弟と友達がイチャイチャって……こんな事もあるんだなぁ……。




