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44話 結城先輩、幼児モードの秘密

 ――葵視点


 和夫はジムの練習を途中で切り上げ、そのまま家に戻り料理をたくさん用意してくれた。てっきり彼女でも居るのかと思っていたが全部自分で用意し管理していた事を知った時は驚いた。


 そんな和夫の愛が詰まった大量のタッパの入ったカバンを持ち、翌日に結城先輩の元を訪れた。だが、玄関のチャイムを鳴らしても一向に返事は無い。


「留守、じゃないよな」


 ドアノブに手をかけるとやはりドアは開いた。戸締りはきちんとしましょうね……。


「結城先輩~、坂上で~す。入りますよ~」


 部屋はまたカーテンを閉められており、薄暗い。全く、困ったものだ。


 テーブルを見ると昨日のうどんを食べた後がそのままになっており、それ以外のものを食べた痕跡も無い。折角いろいろ買って来てあるのに……。


「もう……結城先輩! 何処ですか~」


 もちろん返事も無くこの前に居た部屋の片隅に目をやると……居た。そこがベストポジなんだろうか……。


「結城先輩、今日は知り合いに頼んで栄養満点の――」


「来るなって言っただろ!」


 声を荒げられた。昨日とは違って感情を剥き出しにしている。情緒不安定なんだろうか。


「何なんだ!? 私は何も頼んでいない! もうほっておいてくれ!」


 弱々しい姿だか、明らかに敵意を剥き出しにしている。これは参った……相当病んでいるな。こういう時って何が一番効果的だったけ……。


「仕事は上手くいかない、努力しても努力しても足りない! それでも頑張った! でも誰も近寄らないし、認めてくれない! もう誰とも話なんかしたくないんだよぉ!」


「努力してるの見てましたし、知ってましたよ? 俺は」


 その言葉に感情の波が収まったのか静かになった。


 正直、カウンセリングの知識や技術なんかは俺は持ち合わせていない。でも結城先輩の仕事振りは一番間近で見て来た。


「お前に何が……それにどうとでも言えるさ、そんな事は!」


 ほう、俺の仕事に対する観察力を舐めていますね? いいでしょう!


「じゃあ、遠慮なく言わせてもらいますね。まず、課長の朝のスタートはメールチェックに始まり、依頼されている企画書に目を通し、不具合の経過の確認をされてますね。それらが終われば資料作成を手掛けていって。あ、その際に気付いたんですが、グラフの色合いは見やすくていいですね。俺なんて原色でしか作ったこと無かったから結城先輩の資料が見やすくて驚きましたよ。俺も真似させてもらいますね。それと――」


 その後延々と結城先輩の仕事振りを伝えた。


「――といった所ですね。圧倒的な物量をこなしておられましたが、箇所個所の重複してる部分や遠回りしている部分がありますし、周りに気を使い過ぎて時間をロスしてる部分も……って結城先輩!?」


 いきなり抱きつかれた。どうやらシャツの下には何も付けていないみたいだ……初体験の柔らかさだ……。


「ひぐっ、こんな、こんな近くに……私の事を……見て」


 嗚咽を漏らしながら言葉を紡いでいる……。


「結城先輩は頑張り過ぎですよ、全力疾走で完走は出来ません。抜く時は抜きましょう! 思いっ切り!」


「……じゃあ、頭、撫でて」


 はい? 今の流れでその要求はおかしく無いですか? 


 立場が変わって俺が躊躇していると涙を流しながら俺を見て来て言った。


「撫でてよ~! よしよしってして欲しいのぉ~」


 結城先輩……課長が立ち直った瞬間であり、幼児モードが生まれた瞬間だった。どうやら……地は相当甘えたのようだった……。




 その後は毎日通い、和夫の料理もあってか一週間ほどで体調も良くなり、肌艶とも麗しい女性に戻った。流石はイケメン和夫! 今度飲みにでも連れて行ってやらねば。


 そして結城先輩は俺の指摘した点をしっかり内容を吟味していた。空回りが無くなると前進する推進力は半端じゃ無く、むしろ会社で仕事はしていないけど、結城先輩と話しているだけで軽く1年分ぐらいの知識は付いたんじゃないかと思う。


 やっぱりこの人凄いわ……。




「どお~? 私、綺麗になった~?」


 順調なリハビリのおかげで心身ともに回復し、明日から会社に出社する事になった前日の夜、何を考えてるのかいきなり下着姿を披露してきた。恥ずかしさ全開の俺に対し、幼児モード中の結城先輩は何一つ臆することなく自分の体を見せて来た。


 正直、ここまでのポテンシャルを持っているとは思わなかった。初めて結城先輩の家に来た時とはまるで別人。長い黒髪は艶が戻り、サラサラのストレートヘアになり、肌にも張りが戻っている。そして……なんですかそのスタイルの良さは!? フィギアですか!? 胸有り、くびれあり、小尻……まさにゲームのメインヒロインだ。


「ちょ! な、何考えてるんですか!? 早く服着て下さい!」


 お、落ち着け、自分の理性を抑え込むんだ! このままでは押し倒してゴールインてしまう! というよりこれは誘ってるんじゃないか!? 


 美人でスタイル抜群、そして下着姿……も、もう無理です……結城先輩っ! 


「あお君のおかげだよ……だ~い好きぃ~! これから一緒に頑張ろうね~」


 一気に感情が押し戻った。好きと言ってくれた。けどこれは違う。幼児モードだからだ。実際の言葉は『感謝』だろう……はは、危うく先輩に飛びついてしまう所だった。


「……もう、周りが勘違いしますから。そんな好きとか言わないで下さい」


「え~っ、でもいろいろ教えてくれたのは、あお君だからぁ~」


 足を崩し床に指をくるくるとまわしくねくねしている。あのね、幼児はそんな仕草しませんから!


「それね!? そういう言動は絶対ダメですからね! 完全に周りが誤解しますからね! 会社では無しですからね、そういうの!」


「お仕事中はしないけど~それ以外はするぅ~。だってこれはあお君言ったよ~、思いっ切り抜けって。これ、とっても楽なんだぁ~!」


 確かに言いましたけどここまで極端になるとは思ってませんでしたからね……。


「えへ! あお君、だ~い好きぃ~!」


 下着姿のままで絡みついて来た……拷問ですよ? これは……。


「本気でやめて下さい……セクハラですよ……」


 俺、やっぱり転職しようかな……。後、DVD買って帰るか……。







「あおく~ん! お~い! 聞こえてますかぁ~」


「あ、はい! すみません」


 結城先輩……いや課長はこちらを見て手を振っている。なんか昔の事を思い出してまった。


 つい、さっきのくねくねしている姿が昔の課長とタブってしまった……。


「さ、さて! もう大丈夫でしょ! さあ、帰りますよ! 明日もお仕事ですからね!」


「くかあ~くかあ~」


「あから様な寝たふりしない! はい、行きますよ!」


 布団を引っぺがし、無理やり部屋の外に送り出した……ほんと疲れる……。




「やだよ~、あおくぅ~ん! 帰りたく無いよぉ! もっと遊びたいよぉ~、あお君の言う事なんでも聞くからぁ~」


「お願いだから静かにしてくれませんか!? 完全に俺が糞外道になってますから! 違いますからね! この人、俺の上司で付き合ってもいませんからね! 純粋に遊びをねだってるだけですから、やましい事一切無いですから!」


 駅の改札の前で誤解を与えないように、周りの目に向け大声で叫ぶ羽目に……一体何の罰ゲームだ、これ。それでもなんとか無理やり改札を潜らせ強制送還する事が出来た……もう、本気で苦手だ、あの人……。


 時刻を確認する為にスマホを見ると画面の左上にメールにマークがある事に気付いた。スワイプして画面を操作し、一瞬固まった。送信元は……鈴宮さん!?


 ひ、開けるのが怖い……な、なんて書いてあるんだろうか。『このパワハラ先輩』とか『今度お会いするのは法廷ですね』とかだったらどうしよう……。


 違うんですよ、鈴宮さん! 俺は泣かすつもりなんてなかったんですよ! 俺、そんな怖い顔してましたぁ!? そ、そうか! この眼鏡が威圧的なんですね! コンタクトに変えますから! 昔ボクシングしてた時コンタクトでしたし!


 やっと課長を送り出して息をつく暇も無く法廷への案内状が届くとは……。このままじゃ俺も引き籠っちゃうよ……。


 散々脳内でごちゃごちゃ考えたが、それでは何も解決にならない。もう清水の舞台から飛び降りる覚悟でメールを開けた。


『今度、おでかけしませんか?』


 法廷へ一緒に行ってくれるのだろうか? いやいや、それは無いだろう。会うのは法廷内であり、道中仲良しこよしで法廷に赴く被告と原告なんてあり得ないな。全く、どうかしてるぜ、俺。


「まじかぁ!!??」


 流石に駅員さんに怒られた……すみません……。



いつもご愛読ありがとうございます!

じわじわとブクマと評価頂いており、改めてお礼申し上げます!

葵のもっといいとこ見てみたいっ!

桃華のもっと可愛いとこ見てみたいっ!

とご要望の読者様! お任せ下さい、これから徐々に距離が詰まる……予定、のような気がします(笑)


桃華「ブクマ、評価、感想、お待ちしておりますぅ!」営業すまいる o(^o^)o


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