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34話 あの日

 

 ――桃華視点


 前を歩く葵先輩の両手には二個づつ買い物袋が持たれていている。食材の量もそれなりだったけど、葵先輩のビールや飲み物も多く買ったのでかなりの重量になってると思う。


 それに引き換え私は何も持っていない……葵先輩が『いいからいいから、家もすぐそこだし』と言って持たせてくれなかった。相変わらずの優しさですぅ……。



 マンションに着き、両手のふさがってる葵先輩に変わり部屋の鍵を開け、葵先輩はそのままキッチンに向かい、買って来た食材達を置いた。


 その時に見えたんだけど、手に跡がくっきりと付いていた……うう、やっぱり重かったんじゃないですかぁ、無理しちゃダメですよお!


「大丈夫ですか? 結構な荷物でしたけど……」


「ええ、大丈夫ですよ! 昔鍛えてましたから! 遺産が残ってるんで」


 ど、どうりで細身なのにがっしりとした感じが……。でも過去形で今は遺産なんですね、お仕事に割合を切り替えたのかな……?


 とりあえず冷蔵庫に食材達を直していかないと。飲み物はここで、うわぁ~お酒一杯買いましたね……そしてお肉はここにと。


「さあてと、何をお手伝いすればいいですか?」


 ちょうど冷蔵庫に食材を直し終わった所に葵先輩の声がかかったので、振り返ると先程まで着ていたシャツではなく白色のノースリーブ姿になっていた。


 少し盛り上がった胸板が見えた。腕の方も引き締まってて筋肉がある。店長さんとはまた違った逞しさ……。


 えっと先程のシャツは何処に? 


 そのまま見上げると葵先輩の顔……きょ、距離近っ! しかも葵先輩セクシー過ぎます! み、見とれちゃうじゃ無いですかぁ! だ、ダメダメ! そんな不純な目で見ちゃ! 葵先輩は荷物を運んで暑かったんで涼んでいるだけだから……落ち着くのよ、桃華……。


「は、はい! パ、パスタを茹でたいので大きめのお鍋を……あ、後、今日はカルボナーラを作ろうかと思ってまして」


 出来るだけ顔を見て答えた。葵先輩、背が高いから見上げなくちゃならないから首が……でも前を向くと葵先輩のお胸が……あ、ちょっと透け……きゃあ! 私何を見て!? 何処を見ても落ち着け無いですぅ!


 うう、自己嫌悪しちゃう……葵先輩の胸見ちゃたよぉ……。


 とりあえず一旦離れよう。エプロンも付けなきゃならないし。それにちゃんと伝えなきゃ。私は料理が出来ないって程じゃ無いけど、得意って訳でも無い事を。


 リビングに戻り、リュックサックの中に入れたエプロンを取り出し、再びキッチンに戻りながら伝えた。


「実は私もそれほどお料理は得意って訳じゃ無くて。レシピ見ながら作るんですぅ……」


 エプロンの紐を結び、昨日調べて置いたレシピを眺めた。まずはソースを作らないと、まずはホワイトソースを……あれ? 葵先輩が上を見てぼ~っとしてる? 


「ど、どうしましたか? て、天井に何かあるんでしょうか……」


 私もつられて天井を見たけど、これと言って何も無いように思えた。も、もしかして、葵先輩にしか見えない何かが見えるんですか!? ホ、ホラーは苦手なんですよぉ! ここってそういう物件だったんですか!?


「い、いえ! お腹が減ってきたなぁ~って!」


 そ、それ誤魔化してませんよね!? し、信じていいんですよね!? 嫌ですよ。ほんとに……お化け嫌いなんですからぁ~。




 麺を茹で上げてお皿に盛り、先程作ったカルボナーラソースを絡ませて……よし! 完成~! 初めて作ったけど中々いい感じに出来た!


 お皿をダイニングに置き、飲み物を取ろうと冷蔵庫を開けた時に妙な痛みがお腹に走った……え、い、今のって!?


 その後、痛みは無くなったのでそのまま二人で食事をすることにした。気のせいであって欲しい……今日は、来ないで……。




「いやあ~! とっても美味しかったです! 我が家の調理器具が日の目を浴びる日が来て良かったです!」


「そ、そんな、大したお料理ではありませんので……でも嬉しいです! 夜ご飯も楽しみにして下さいね!」


 用意したパスタは完食し、葵先輩からは美味しいって言ってもらえた! その顔はとても満足気な様子だった。多分いつもコンビニとかで済ませちゃってるから私が作ったものでも新鮮に感じたんじゃないかな?


 それでも……嬉しいな!


 当然食べ終わったら食器を洗わないといけないんだけど、葵先輩は横に並んで一緒に洗ってくれた……もう、これって新婚さんのやつじゃないですかぁ~! 夢のようで――


 突如お腹に先程よりもきつい痛みが走った。これは夢じゃない……も、もう、どうして、今日なの……今日はいっぱい、葵先輩と楽しむ予定なのに……。


 私はちょっと生理がきつい方で、なった時は少し動けなくなっちゃう事もある……でも、今日は何があっても我慢しなきゃ!


 お腹に手を当てた時だった。


「す、鈴宮さん? なんか顔色が悪いですよ!? 大丈夫ですか!?」


「あ、は、はい……大丈夫です……」


 葵先輩にバレ……ちゃった? うう、痛い……。もう、やめてよぉ……。


 痛みと悲しみで遂に立っていられなくなり、その場に座り込んでしまった。葵先輩はこちらを見て焦った様子を見せている……は、早く立たないと……。


「ちょ、ちょっとだけ休憩すれば、収まりますから……」


「ダメです! ちょっと失礼しますね!」


 体が浮いた……私、持ち上げられ……お、お姫様抱っこ!? わ、私、今、葵先輩にお姫様抱っこされ――いてて。もう! 痛いの邪魔!


 そのまま葵先輩はベッドの方に運んでくれ、私を寝かしてくれた。まさかの……ベッドイン!? こ、こんな形で……。


「あ、あの! だ、大丈夫ですから!」


 とはいうものの、おトイレに行きたいのと、お薬を飲みたい……うう、ベッドに寝かせてくれたのは嬉しいけど、男の人にいろいろ伝えるのは恥ずかし――


「鈴宮さん、俺、買い忘れた物があって。ちょっと出かけて来ますね! その間はゆっくりしてて下さい。30分程で帰って来ますから。あ、家にあるもは自由に使って下さいね」


 葵先輩が私にも優しいお気遣いをしてくれた……わ、私もやっと土俵にあがれたんですね……。


「すみません……折角の、折角の……私……」


「いえいえ、俺は鈴宮さんと一緒に居れる事だけで十分ですよ。それに外に出かけてたら今みたいに休憩も出来ませんでしたから。それじゃ俺、行ってきますね!」


 葵先輩のお気遣いはとても嬉しかった。けどその分自分が嫌になった……でも葵先輩は一緒に居れるだけでと言ってくれた……やっぱり、私にはこの人しかいない……この人が好き……。


 葵先輩はそのまま手を振って玄関のドアを開けて出て行った。


「うう、情けないよぉ……」


 ベッドからなんとか這い上がり、トートバックに入れてある女の子アイテムを持ってトイレに向かった。


「お薬も飲まなきゃ……今日のは特に痛い……」


 トイレから出て色々処理をした後、鎮痛剤を飲んだ。これでしばらくすれば痛みは引いて行く筈……。


 誰も居なくなった葵先輩の部屋……洗いかけの食器……。


「おかしいな……今日は一緒にご飯作って、一緒に遊んで、お泊りして、いっぱいお話して……一日ずっと一緒に居る筈だったのに……もう居ないよぉ……」


 誰も居なくなった部屋で少し涙を流した。最高に楽しみにしていた日が最高に情けない日になってしまった……。迷惑しかかけていない……葵先輩を好きと思う度に取り巻く状況が悪化している気がする……。


 もちろんただの偶然だと思うけど、何でもそれに当てはめちゃう……うう、早く帰って来て下さい、葵先輩……また泣きそうですぅ……。


 しばらくソファーに腰かけさせてもらってそんな事ばかり考えていた。


「お皿、洗わないと……」


 じっとしていると嫌な事をずっと考えてしまう、なのでお腹は痛いけど動こうと思った。せめて洗いかけのお皿ぐらいは洗っておこう。



 痛みに耐えながらお皿を洗い終えた直後、驚きの声が上がった。葵先輩だった。


「ちょ!? 鈴宮さん!?」


 驚いた顔のままこちらに足早に向かって来た。そ、そうだ、言わなきゃ。


「お、お帰りなさい、葵先輩……」


 えへへ、言ってみたかったんだ。まるで付き合って同棲してるみたい……。お顔を見れたのでもう悲しくなくなりましたよ。


「あ、洗い物は終わりましたので……い、今から何をしましょうか……えへへ」


 これ以上、葵先輩に迷惑をかける訳にはいかない。お薬も飲んだし、後少しすれば痛みもマシになってくると思う。


「……失礼な事だとは重々承知でお伺いしますが、お薬は飲まれましたか?」


 私は小さく頷いて返事をした。だから大丈夫です、天気もいいですし、外にでも――あ、そうだ、この街を案内して欲しいです! まだ私の知らない場所いっぱいあると思いますし。


「そうですか、それじゃあゆっくりしましょう。さ、ベッドに横になって――」


「い、嫌です! 今日は、今日は葵先輩と、お料理したり、お話したりする日なのに!」


 はっ!? わ、私、葵先輩に対して怒っちゃった……葵先輩は私に気を使ってくれてるのに、私ったら何をイライラして……。これは完全に幻滅されたよね……。


 自分で言った言葉に後悔をしながら葵先輩を見ると眼鏡をくいっと上げ、視線を向けて来た。


 怒らせてしまいましたね……すみません、私が悪いんです。そう、なにもかも!


 いよいよ自棄になり出した時だった。一気に気持ちがリセットされる、いやむしろ全てを書き換える言葉が告げられた。


「分かりました。じゃあ、服を脱いで下さい。今日の恰好も可愛らしいですが、その服では寝づらいでしょうから」


「ふ、服!? で、でも私、い、今……」


 裸に……? た、確かにその可能性は考えていましたが、今はちょっと無理ですぅ! まっかっかになりますよ!? で、でも私、初めてなのでどちらにしても……。


 じゃ、じゃあ……べ、別にいいのかな? あ、葵先輩さえ嫌じゃなければ、その……。




 大誤爆だった、葵先輩はパジャマに着替えてと言う事を伝えたかったみたい……私ってこんなエッチな子だったけ……?


 結局、強い押しに負けてパジャマに着替えた。でもその後がすごく嬉しかった。改めて葵先輩のベッドの感触も良かったんだけど、ずっと目線の高さを合わせて床に腰を下ろしてお話してくれた。私がこの街の事についてリクエストしたら一杯面白い話をしてくれた。


 そんな心地良い環境とお腹の痛みも引いて行き、睡魔が襲ってきた。なんとか目を閉じないよう努力したけど知らず知らずに眠りについていた。


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