28話 誤解解消、そしてデート場所、決まる
――葵視点
こちらの方に向かって歩いて来るイケメンと美女二人から隠れるように店の奥に入り、その場をやり過ごした。
少しして足の力が抜けてがっくりと店内で膝を付く俺に清音が慌てて戻って来た。
「ど、どうしたの!? 気分悪いの? まだ風邪治ってなかった!?」
涙目になって心配してくれている……い、いや違うんだ。これは俺のハートが砕けただけだから。
「だ、大丈夫、ちょっとめまいがしただけだ。心配はいらない。コーデありがとうな。すみません、店員さん、これ全部買いますね」
清音が気になって店の外に出て周りを見渡すと大きな声を上げた。
「あっ! あの人! この前の胸がおっきい人! しかもイケメンと歩いてるし! しかももう片方の人もなんかお淑やかな女性って感じ!」
よし、静かにするんだ清音。これ以上俺の心をえぐらないでくれ……。
「うわあ……あの人、チョーかっこいいよ!? 芸能人かなぁ!?」
「そうだなあ……男前だなぁ……」
「ねえねえ! ちょっとあのイケメンさんを見に行こ! ほら、早く早くぅ~!」
お会計を終えると最初に選んでくれた服に素早く着替えさせてもらうと、すぐさま完全に生気を失った俺の手を引き、映画館のエスカレータへの方へと進んで行った。
気になる……あの三人に関係性……そうだな、ここでしっかりと終止符を打つのも手だ。中途半端な状態では仕事にも身が入らないし。
アプローチ、やめないとな……。
映画館のフロアに着くと何やら三人は話をしているようだった。幸い、フロア内は薄暗く、公開中の映画の予告が正面のスクリーンに映し出されていた。
そのおかげで後を付けている事に気が付いていないようだ。
「うわあ、やっぱりあの人、とってもイケメンだよ!? 隣の女の人もなんか大人~って感じの人だし! 完全にゲームとかのヒロインみたいだよ!」
うん、確かに綺麗だ。流れる黒髪に上品な服装はまるで作られたかのような美貌を感じる。あんな人、存在するんだな……。うん? イケメン君とヒロインさんは二人で映画を見るのか? 鈴宮さんは?
手を振って見送ってる……? もしかして、あのイケメン君は彼氏じゃないのか!? そ、そうなのか!?
俯きながらこちらに歩いて来る……確かにヒロインさんは綺麗であったが、俺は鈴宮さんの方が綺麗で可愛いと思う。まあ、価値観の違いだろうけど。
まさか明日のお出かけの前にこんなサプライズがあるとは! こ、声かけなきゃ!
「鈴宮……さん?」
ショートカットの小柄な可愛らしい女性は随分元気が無い様子だったが、顔を上げて驚いた表情を見せた。
「うわあ、近くで見るととっても可愛い女性だね! しかも胸が……むむ、確実にタピオカチャレンジが――」
「失礼な事を言うんじゃない。お前はちょっと黙ってろ。後でパフェをたらふく食わしてやるから」
女性同士でもセクハラは通用するんだぞ? 覚えておくように。
「き、奇遇ですね! お、お休みの所、失礼しました! そ、それでは私はこれで!」
こちらを一目見るなり頭を下げて立ち去ろうとしてしまった。まさか女子高生と一緒に居る事を誤解して!? い、いかん! それだけはちゃんと誤解を解いておかなければ!
咄嗟に手を伸ばして鈴宮さんを捕まえた。このまま帰してしまっては誤解はもちろんの事、通報されて社会的に死ぬ!
「鈴宮さん、ちょっと待って! そ、その良かったらこれから昼ご飯でも、どうですか?」
「いやっふぅ~! ごちになります! 葵ちゃん!」
「……もうちょっとお静かにお願い出来ますかね?」
このトラブルメーカーが! お前のせいで鈴宮さんが誤解しちゃったんだぞ! とりあえず、咄嗟に手を握ったけど……手え!? 手握ってる!? しかもなんか泣きそうな顔になってこっち見てる!?
ち、違うんです! これはですね、あの、その――
「で、でも。彼女さんが……」
『え?』
彼女? 俺に彼女は居ませ……こいつか。
「あ~、これはひょっとして私達をカップルと思っちゃったようですなあ~! まあ、あながち間違いでも――」
「清音? その辺にしておこうか? 鈴宮さん、とりあえずそれは誤解ですので。俺とこいつはそんなんじゃないですから」
レストラン街で鈴宮さんと清音、俺との三人でお昼を食べる事にした。清音にパフェを食べせる為に洋食屋さん一択ではあったが。
メニューを小難しい顔で眺めている清音は放置し、お互いに事情を話した。
「そうだったんですか……私、勘違いをしていました……」
「いえ、俺もです。まさかあのイケメン君は鈴宮さんの弟さんだとは……」
いくらイケメンとはいえ姉弟でLOVEな関係にはならない筈だ。まあ愛の形は色々あるようだが、鈴宮さんに限ってはそれは無さそうだ。
「葵ちゃん! 私はこれと、これにするよ! ジャンボチョコレートテラフルーツとカルテットギガストロベリー!」
「確実にお腹を壊すからやめておきなさい。というかメシを喰え!」
確かに好きなだけと言ったが、主食をパフェにしてくるとは……。
「ふふっ、仲が宜しいんですね」
「うん、葵ちゃんとはもう密接な体の関係を持って――」
「き・よ・ね? 俺が怒らないとでも思っているのか?」
「うう、葵ちゃんがいじめるぅ~」
だああ! ほんっとこいつはぁ!! 頭をポンポンと軽く叩いた後、撫でてやった。
「えへ!」
はあぁ……めんどくさい……。そんな俺と清音のやりとりは見守ってくれる鈴宮さんはほんと天使です……いや、女神様です。
料理も運ばれ、清音がパフェに夢中になったタイミングで明日の事について切り出してみた。
「あの、鈴宮さん? 明日なんですけども正直何処に行けばいいか分からなくて。何処か行きたい所とかありますか?」
まあ、これを聞いてしまう時点でマイナス評価だろうけど、仕方が無い。俺に引き出しは無いのだから。
「そ、そうですね。わ、私は葵先輩となら何処だって……」
うむ、困った。どうしようかな……。
「じゃあ、お家デートは? 葵ちゃん、外食ばっかだし、桃華ちゃんと一緒にご飯とか作ってもらえばいいじゃん! あ、悪い事しないように私も行くから! ちなみに私は食べる担当ね!」
「来なくていい。それに折角の休みに家に居るなんて。ねえ、鈴宮さん?」
何気に鈴宮さんの事を桃華ちゃんて……若いから順応も早いな。
「……い、いいですね、それ……あ! いえ、また葵先輩のお宅に行けるのが嬉しいとかじゃなくてですね!?」
「桃華ちゃん、もう葵ちゃんの家に行った事あるの!? よし、じゃあ決定!」
なんか強引に清音に押し切られた……別に構わないんだけど、俺、服を買いに来た意味無いじゃん……家に居るならさ……。
昼食を食べた後、鈴宮さんとはまた明日という事で別れ、帰宅途中となっている。尚、俺一人で。なんか清音は鈴宮さんとまだお話していたいとの事で追い払われた。
電車代は渡してあるし、なにより明日、本当に家に来るなら掃除をしておかねばならない。一人で帰る分にはちょうど良いと言えばちょうど良い。
しかしお家デートか。なんだろう、この胸の高鳴りは……そしてマジで清音は来るんだろうか……ちゃんと親御さんに話しておかないと。お邪魔虫以外の何物でもないが。




