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27話 弟と友達の待ち合わせた先には……


 ――桃華視点


「緊張するぜ……ね、姉ちゃんまじで沙織さんて綺麗だよな!」


 興奮状態の弟の咲矢が隣で声を上げている。先程スマホの画像を見せてあげてからずっとこの調子。


 GW、初日。友達である沙織の頼みで渋々咲矢との待ち合わせに参戦している。


 黒田沙織(くろださおり)、私の高校、短大からの友達であり、咲矢の言う通り見た目はとても綺麗。高校の時には漫画のように毎日靴箱にラブレターが入っていたし、短大では美人コンテスト優勝を2回したレジェンドさん。


 振る舞いや容姿からまさに完全無欠のお姫様だけど、結構その内面は普通だったりする。周りがどんどん敷居を上げてるけど至って普通の女の子、ただ、凄く美人なだけ。


「そうだね~、でも私と比べないでよ」


 地元の駅前にはショッピングモールがあり、お食事やお買い物、映画なども楽しめる大型施設がある。どこか出かけるにしても待ち合わせには持って来いの場所となっている


 しばらくすると清楚な服に身を包んだ沙織が現れた。その姿はまさに女神のような立ち振る舞いだった。淡い色調のコーデで薄手のカーディガンを羽織り大人っぽさが強調されてる。メイクの方もナチュラルではあるが、ポイントポイントが輝いている。目元、唇……うう、私が言うのもなんだけど……綺麗……。


「すみません、お待たせしてしまって。黒田沙織と申します」


「姉がいつもお世話になっております。弟の咲矢です」


 この子達、何も動じず平然と挨拶を交わすなんて……私だったら確実にあわあわってなるけど……というかこれなら別に私が居なくてもいいじゃない。


「じゃあ、私はこれで。後はお二人で楽しんでちょうだ――」


 言い終わりがけに沙織から手を掴まれた。その感触はしっとりとして震えていた。


「だ、だ、ダメ! 桃華、行かないで……約束と違うぅ~!」


 実は必死だったみたい……はぁ、分かったよ……。


「咲矢、フォローしてあげて。沙織、とっても緊張してるから」


「そ、そんな、普通神に直接頼むぅ!? 鬼! 悪魔!」


 なんか……酷い言われようだ。ベストな案だと思ったんだけどなぁ。


「はは、沙織さんってユニークな方ですね。その美しい見た目とのギャップに心を奪われましたよ。出来れば僕とも姉のように振る舞っていただければとっても嬉しいです!」


 出た。咲矢の良く分からないスマイル。なんかこれ、結構必殺技扱いらしい。私が見た中で目がハートにならない女の子は見たことが無い。


「ひゃ、ひゃい。咲矢さん……」


「そんな、さんなんて要りませんよ、咲矢でいいですから。ね、沙織さん!」


 新たな犠牲者が……しかし我が弟ながらませてる。一体何人の女の子を泣かせたのやら……。


「良かったね、沙織、夢が叶って。じゃ、私はこれで――」


 振り返って帰ろうとした途端、再び手を握られた。今度は汗でべっとりしていた。中々に気持ちが悪いよ? 沙織ちゃん。


「ムリぃ!! やっぱり桃華も一緒に来てぇ……」


 涙を溜めながら懇願する友達と一緒にフードコートに行く事になった……。



 このモールには多数の飲食店が入っている。その中でもフードコートは圧巻の敷地面積を誇り、和洋中はもちろん、スイーツやドリンク専門店も軒を連ねている。


「じゃあ私は何か飲み物を買って来るから。ちょっと待って」


「すぐ、すぐ帰って来てね!? すぐだよ!」


 そんなにすぐ帰って来て欲しいなら自販機で買ってあげようかしら?


 そんな興奮状態にある詩織を咲矢が上手に解きほぐすように喋りかけていた。全く、最初の登場以外ダメダメだね……。


 ふと周りを見回すとタピオカミルクティーのお店が目に入った。この時間は結構空いているみたいであり、5組ほど並んでいる程度だった。


「うん、アレぐらいなら並んでもいいかな? たまには飲んで――」


 視界の先に映ったのは葵先輩。と……清音ちゃん? いや、清音ちゃんに間違いない。だって……制服着てるもん。


 そんな二人が仲良く……う、腕なんか組んじゃって……。


 さっきの沙織の事を言ってる場合じゃない。手に汗を握り、何故か隠れるように列の後ろに並んだ。二人はそのまま屋外のベンチに腰掛けて休憩しているようだった。


 当然だけど声は聞こえてこない。でもとっても楽しそう……あ、タピオカチャレンジ……流石は清音ちゃん。若いからその辺りの情報はしっかりキャッチしてるね。


 そ、そんな事より葵先輩は!? 女子高生のそんな姿をみせられたらきっとメロメロに……なってない? なんか険しい顔して注意しているような。あ、きっと『こぼすからやめなさい』的な感じで……。


 でもなんかじゃれあって楽しそう……。


「お客様? あの~ご注文は?」


「ふぇ? あ、あの、み、三つ下さい!」


 知らない間に列の一番前まで来ていたみたい……恥ずかしい……。



 商品を受け取ると、急いで咲矢達の元に戻った。申し訳無いけど二人の事が心配でじゃない、あの二人を見失わない為になの。


「はい、飲み物だよ~! じゃあ、これで私は!」


「うん? 姉ちゃん何を焦ってるんだ?」


「そうよ、ちょっとは落ち着いた方がいいよ?」


 思いっ切り通常運行に戻っていた沙織にたしなめられた。咲矢……あんた何したの? それに咲矢もさっきと言葉使いが全然違うよ? いつもの感じになってるし。


「その様子だともう大丈夫だよね!? ちょっと私、急用が出来たから!」


 早く、早くしないと! 何処かに行っちゃう!

 

 外に目線を送ると相変わらず仲良く話をしている様子だった。私の目線に合わせて咲矢も同じ方角を見ていた。


「あの女子高生とお兄さんがどうかしたのか? さっきからじっと見て」


「うぇ!? な、何でもないよ!? か、可愛らしい子だな~って!」


「ああ、確かに可愛らしい子だね。兄妹さんかな? あ、頭なでなでしてる。うん、兄妹っぽいね」


 今、何て!? あ……してる。頭なでなで。やっぱり、高校生に勝負を挑もうとした事がそもそもの間違いだった。最初から分かっていた事……素直に身を引いていればこんな辛い思いは……。


 涙が滲んで来た……うう、葵先輩のバカぁ……。


「桃華? どうしたの? 体調悪いの?」


 先程とは打って変わって余裕を取り戻した沙織が本気で心配してくれた。


「ううん、大丈夫。タピオカが目に染みたの……」


「タピオカが? これにはそんなわさび成分は入って無いだろう……」


 いぶかし気にミルクティーを眺める咲矢がそこに居た……。


 

 しばらくして席を立って確認するともう屋外に居た葵先輩達は居なくなっていた。


 どうしよう……明日、会うのに……。どんな顔して会えばいいんだろう。でも明日の約束は私が一方的にしたものだし葵先輩は本当は断りたかったのかも。それとも同じ職場の人間だから仕方無しに……うう、どっちにしてもみじめだよぉ……。


「桃華、ほんとに大丈夫? 家まで送ろうか?」


 沙織は綺麗な顔を覗かせて先程から咲矢をそっちのけで私の事を心配してくれる。あんなに楽しみにしていたのに私が貴重な時間を潰してしまっては元も子も無い。


「うん、大丈夫。二人は楽しんでね。これから映画見るんでしょ?」


 二人は映画を見る予定であり、そこまで見送る事にした。映画館があるのはモールの最上階であり、映画館直通のエレベーターに乗る必要がある。ファッションのエリアを横切ってそちらへと向かった。



「じゃあ、楽しんでね! 私の事は心配しなくていいからね!」


 映画館のフロアに来ると精一杯の笑顔を作って二人に手を振った。その様子に二人は少し戸惑いながらもチケット売り場の方へ向かって行った。


「はぁ……帰ろう……なんか、とっても疲れちゃった。明日、どうしよっかな……」


 肩を落として出口の方に向かおうとした時だった。


「鈴宮……さん?」


 顔を上げるととってもスタイルの良い男性が立っていた。白いシャツにベストを着込み、初夏っぽいハットをかぶった眼鏡の……あ、あ、葵先輩!?


「うわあ、近くで見るととっても可愛い女性だね! しかも胸が……むむ、確実にタピオカチャレンジが――」


「失礼な事を言うんじゃない。お前はちょっと黙ってろ。後でパフェをたらふく食わしてやるから」


 葵先輩の後ろからひょっこりと出て来た女子高生……若さ弾けるお肌にとっても愛らしい笑顔。ツインテールか……若さの象徴だよ。


「き、奇遇ですね! お、お休みの所、失礼しました! そ、それでは私はこれで!」


 逃げるように踵を返して去ろうとした瞬間、暖かい物が手に触れた。葵先輩の……手?


「鈴宮さん、ちょっと待って! そ、その良かったらこれから昼ご飯でも、どうですか?」


「いやっふぅ~! ごちになります! 葵ちゃん!」


「……もうちょっとお静かにお願い出来ますかね?」


 私を……お昼に? でも横に清音ちゃんが居てるじゃないですか。お楽しみの邪魔をする訳にはいきませんよ。


「で、でも。彼女さんが……」


『え?』


 二人が同じリアクションを取った。あれ? 私、何かおかしな事でも言いましたでしょうか?


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