17話 店長と教官の指導の結果
――葵視点
「んあ……」
すっとぼけた声と共に目が覚めると、部屋の中は真っ暗になっていた。
電気を付けて時計を見ると20時を過ぎており、シャツも再び汗で濡れていた。だが、悪寒や気だるさはほとんどなく、動く分には支障が無さそうだ。
「あの薬……クソ程不味かったけど効果は凄いな。一体どんな成分なんだか……多分、なっちゃんが用意したものだろうから合法であるとは思うけど……信じていいよね?」
不安を打ち消すかのように呟きながらキッチンに向かった。水分補給をする為に。冷蔵庫を開けるとヨーグルトや栄養ゼリーの他に土鍋が入っていた。
「あ……そういえば鈴宮さんは……帰ったよな」
ペットボトルのスポーツドリンクを飲みながらキッチンを見ると、可愛らしい文字の置手紙があるのに目が留まった。
『今日はご迷惑をかけてすみません、おやすみになられたので帰りますね。部屋の鍵は管理人さんに事情を話してかけてもらいました。冷蔵庫におかゆを作って入れてますので温めて食べて下さい。ヨーグルトとかもありますので食欲があれば一緒に食べて下さい。今日はお酒を飲まないようにして下さいね。
鈴宮より』
「おおぉ……鈴宮さんが俺の為に」
いつもこの街の人達にはやたらと世話を焼かれるが、後輩にまで世話を焼かせてしまうとは……明日、会社に言ったらお礼を言わないと。
シャワーを浴び、洗濯機を回し、おかゆを温め直して食べた。食欲の方は問題無く、旺盛であった。なんならラーメンが食べたいぐらいだ。もちろん、なっちゃんの所の行ったら殺されかねないから我慢するが。
「さて、食後の一服……って、そう言えばなっちゃんに没収されたっけ」
この際だ、禁煙を頑張ってみるのも悪くないだろう。
ふとテーブルを見ると例の薬が置かれてた。処方箋らし袋の裏にはおそらくなっちゃんの文字だろう、毎食後飲めと書いてある。尚、注意書きには猛烈な睡魔に注意と書かれているが。
「……飲まねばならないか。ええい! 明日の為だ!」
覚悟を決め、この世の物とは思えない苦みとえぐみを感じながら飲み干した。
「ぐおおお……不味い……そうだ、アザラシちゃんのキーホルダーを」
シガーケースを没収されたのでマンションの鍵に取り付けた。相変わらず可愛らしい。癒しである。
「それにしても鈴宮さんが来てくれるとは……それに先輩って呼んでくれたし」
再びベッドに戻ると綺麗に折りたたまれたシャツが置かれてあるのに気付いた。鈴宮さんが襲われていた時に貸した物だろう。
「……なんだろう、ちょっといい匂いがするような」
もちろん洗濯済だろうが、この服に鈴宮さんが包まれて……おっと、俺は何を考えているんだ。こんな馬鹿げた事を考えてないでささっと寝よう。
でも、明日着るシャツは君に決めた!
睡魔が襲って来る……思ったよりも早く眠気が。そのまま横になるTVラックが目に入った。DVDか……。
「くああ! まだ直してなかった!」
眠気を強引に押しやり、ラックの中に無理やり押し込み、再びベッドに戻った。
絶対また見られたよな……節操の無い男と見られただろう……そんな事を考えつつ枕を涙で濡らしながら意識を手放した。
――桃華視点
気分軽やかに葵先輩のマンションを出た。
「忘れ物は無しと、今日はちゃんとシャツも置いて来たし」
本来の目的はシャツを返すだけだったが、随分長居をしてしまった。相変わらず裸のお姉さんのDVDは置きっぱなしだったけど……葵先輩、直す気あるのかな……。でも部屋自体は綺麗にだったし、風邪引いていたから直せなかっただけですよね?
今度来る時にはちゃんと直してて欲しいな……って、私今度も来るつもりでいるし! あ、厚かましいにも程がありますよね……。
管理人さんには事情を話して葵先輩のカギをかけてもらうようにお願いしたんだけど、『葵ちゃんにはもったいぐらい可愛い彼女さんだね』と言われた。
誤解されっぱなしだけど、ちょっと嬉しかったから照れて頷いてしまった。ごめんなさい、管理人さん。彼女じゃないくて後輩なんです……。いつか本当の事を言わないと……。
夕方、日も傾き出したころに駅前に着くと、大学生が募金活動をまだ行っていた。募金してくれた方にしっかりとしたお辞儀とお礼をしており、その姿に迷彩服の方も頷いていた。
その姿を遠目で見ていたのだが、迷彩服の方と目が合った。するとそのままこちらに駆け足で向かってきた。
「どうも、先日の件で店長より指導を承っている者です。きゃつらには愚行を悔い改めさせておりますのでどうかご安心を」
敬礼しながら事の詳細を伝えてくれた。
「おい! 一番!」
「サーイエッサ!」
大きな声で声をかけられると大学生がこちらに駆け足で向かってきて気を付けをして立った。
「このお嬢さんに言うべき事があるだろう! お前が代表して詫びろ!」
「あ、あの……」
目の前に立たれるとやっぱりあの時の恐怖が蘇ってくる。見た目は全くといっていいほど別人なんだけど……。
「先日は卑劣極まる行為をしてしまい、大変申し訳ございませんでした! この度、店長さん並び教官のご指導を承り、真人間として更生させていただきました! 今後、この街の為に粉骨砕身の思いを持ち、微力ながら力添えしたく思っております!」
朝に見た瞳の色とは打って変わり、輝きを取り戻した青年がそこに居た。人って変わるもんだなぁ……。
「は、はい……そ、その、頑張って下さい」
「ありがとうございます!」
90度のお辞儀をして誠意を見せてくれた。先程の恐怖はもう無くなっていた。
「あ、そうだ。ちょっと待って下さい!」
近くの自販機でお茶のペットボトルを4本買って戻って来た。
「朝からご苦労様です。これ、皆さんで飲んで下さい!」
教官さんにペットボトルを渡すと教官さんは『二番、三番!』と更に声をかけ、こちらに呼び寄せた。
「お嬢さんの善意だ! ありがたく受け取れ! お前らがした事は卑劣極まりに無い! だがお嬢さんはこのように心優しき人だ! お前達がした行為に対してもこれほど寛大な心を持ってくれている。噛みしめろ!」
『ありがどうございまず……!』
三人の大学生は涙を含みながら再びお辞儀してきた。ちょっと、やり過ぎではないでしょうか、教官さん……。お茶をお渡ししただけですから……でも、皆さんが更生してくれて良かったです!
「あの、お名前を伺っても宜しいでしょうか?」
一番さんが声をかけて来た。笑顔で答えてあげた。
「鈴宮桃華と申します」
「桃華さんですね、彼氏さんである葵さんにも宜しくお伝え下さい!」
ちょ、ちょっと恥ずかしいです……。それに彼氏ではないんです、先輩です……。
「お前ら! 少し休憩したら再び募金活動だ! 明日6時に清掃、7時には大学に向い、17時からは募金活動だ! 来週の日曜は河川敷のゴミ掃除だからな!」
『サーイエッサー!』
うう、ハードスケジュール……。が、頑張って下さいね。
「ただいま~、お腹すいた~!」
玄関を開けて家に入ると、ちょうどアイスを咥えて自室に戻ろうとしている咲矢とばったり出くわした。
「お、姉ちゃんお帰り。どうだった? デートは?」
「デ、デートとかじゃないよ! ちょっと、お礼をしに行っただけだし!」
何故かムキになってしまった……いけないいけない、平常心、平常心。
「へえ~、あ、そうそう、パンツは見られなかった?」
「お母さ~ん、咲矢がまたいやらしい事を言ってくる~!」
「ちょっとおぉ!! 冗談じゃないか! すぐに母さんを呼ぶのはやめ――」
もちろん、すぐさま粛清された。まったく……。




