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ちょっと長めです。
台所では、グエンが朝食を作り終えて待っていた。
朝の挨拶を済ませ、さっそく話をと思ったが、グエンがそれを許さなかった。
「何を考えるにしても、栄養を摂ってからの方がいいじゃろう」
3人で朝ご飯を食べ、食後のお茶を飲む。
どう切り出そうかとナオが考えていると、グエンの方から聞いてきた。
「それでナオ、お前さんの知っていることを、まずは聞かせてくれんか」
グエンは、オッディスという言葉や辿ってきた歴史を知っていたので、そこを省いて自分のことを話す。
続いてザントが、昨日山で出会った2人組のことを、詳しく話した。
「・・・そうか・・・」
グエンが上を向いて、ふうっと息を吐く。
「これは、大掛かりになりそうじゃな。村の皆にも協力してもらわんといかん」
「私、話します。オッディスであることも」
「それはやめなさい」
「どうしてですか?隠し事をしたまま、協力していただくなんてできません。それに、タシバ村の人たちに、隠し事はしたくない・・・」
どこの誰とも知れない自分を、温かく受け入れてくれた村の人々の顔が浮かぶ。
グエンがそっと、ナオの頬に触れた。
「そうじゃない、ナオ。隠すことが、皆を守ることになるのじゃ」
「え・・・?」
「オッディスを求めているのは、1人2人ではないじゃろう。この先も追ってくることが考えられる。こんな田舎の村人が、『オッディス』という単語を知っているはずもない。しかし、もし一度でもその単語や特徴を聞いたら、動揺は顔に出る。追っ手はそれを見逃さない。知っている者たちを拷問にかけてでも、情報を引き出そうとするじゃろう」
「・・・そんな・・・」
「じゃからな、ナオ。これは村長命令じゃ。『オッディス』に関して、他の村人には一切他言無用のこと。よいな?」
知らないことで、危険から守れるならば、その方がいい。多少罪悪感は残るが、それは自分だけの問題である。
でも・・・。
「グエンさん。リーザとトマ君にだけは、話してもいいですか?初めてできた、友達なんです」
以前いた村では、他人と接触することをできるだけ避けていたため、友達を作ることも叶わなかった。
そんなナオにとっては、2人は隠し事なしで付き合いたいと思った、大切な友達なのだ。
「・・・まあいいじゃろう。あの2人なら、分別はつくはずじゃ」
「呼びに行ってくる。お前はここで待ってろ」
善は急げと言わんばかりに、ザントが家を出て行く。
ナオも行きたかったが、体のあちこちが痛いので、足手まといだろう。
「ナオ」
「はい?」
「ナオの前のオッディスという人の話を、何か聞いているかのう?」
ナオの曾祖父の妹だ。家族内でも、あまり触れられることのない話題だった。
ナオが知っていることは少しだけ。
「黄昏時のような、夕焼の橙と夕闇の紺色の目だったと。貴族に捕らえられ、一旦は逃げ出したけれど、また捕まって幽閉されて・・・・・・最後は、自分で目を突いて、幽閉されていた塔から身を投げたそうです」
「・・・そうか・・・」
グエンは一言呟くと、黙る。
遠くを見るようなその目が気になり、ナオが尋ねようとしたときに、ザントが2人を連れて戻ってきた。
「おはようナオ。何?話って」
「ザントが迎えに来るから驚いたよ」
2人が座る。
2人のお茶を入れ、自分の気持ちを落ち着けてから、ナオはオッディスであることを明かした。
「ナオが嘘ついてるとは思えないし、思わないけど・・・おっでぃす?だっけ?初めて聞いた」
「僕も」
「一族は散り散りになっているし、血を受け継いでいる人もそうとは言わないから。この目さえ現れなければ、気付かれずに暮らしていると思う」
「ナオ、私たちも、ナオの目を見ることって出来る?」
「ごめんなさい。だめなの」
ナオは即答する。
「だめ?なんで?」
リーザは理由を聞く。責めるような言い方ではない。純粋な疑問なのだろう。
ここまで話したのに、目を見せられない理由は何か。
「それは、その・・・」
ナオはちらりとザントを見た。
壁に寄りかかって話の成り行きを見ていたザントと目が合い、慌てて逸らす。
こうなるとは思っていなかったから、ザントには言っていなかったのだ。
黙ってしまったナオに、グエンが助け舟を出した。
「オッディスは、目を家族にしか見せないんじゃよ。ナオの場合は、ご両親がお亡くなりになっているから・・・見せるとしたら、生涯の伴侶くらいじゃろうな」
「伴侶」
「結婚する相手ってことだよ、リーザ」
「分かってるわよ、トマ」
ナオはそうっとザントの顔色をうかがう。
ザントはいつにも増して仏頂面だ。怒っているとしか思えない。
急にザントが、台所を出ていった。
「あ、ザントさん!」
ナオも慌てて追いかける。
そんな2人を、残された3人が生暖かい目で見ていた。
「あー、見たね、あれは」
「見たね、確実に」
「分かりやすくていいのう」
「大丈夫?トマ。ショックじゃないの?」
「何が?」
「ナオのこと。好きだったんでしょう」
「好きっていうか・・・あこがれはしたけど、僕、ずいぶん前からザントの気持ちに気付いてたし」
「え、そうなの?」
「うん。たぶん、本人が自覚する前から」
「まー、トマったらすごいわねー」
「僕よりむしろ、イエゴとかの方がショック受けそう」
「まあ、それはどうにかなるでしょ。それより・・・」
天井を見て、リーザは少し考える。
「あんまり遅かった場合は、声を掛けに行った方がいいかな?行かない方がいいかな?」
「邪魔したくはないけど、話が進まないからかけた方がいいんじゃない?」
「そうじゃのう。とりあえず、こっちで考えられる作戦を練っておくか」
3人はそう言って、頭を寄せて作戦会議を始めるのだった。
ザントが大股で階段を上っていくのを、ナオは必死で追いかけた。
どうやら真ん中の自分の部屋に入っていったらしい。
声を掛けながら、そっとドアを開く。
「ザントさん・・・?」
ザントはベッドに腰かけ、顔を両手で覆っている。
「あ、あの、昨日話さなくてごめんなさい」
ナオはおろおろしながら、ザントの前に膝をつき、下から見上げる。
ザントの表情は手に隠されて見えない。
「あの、ザントさんには、ちゃんと私のこと知ってほしくて、その思いばっかりで・・・その、えっと、生涯の伴侶とか、結婚とか、その、ちらりと思ったんですけどそこまで深く考えてなかったというか・・・」
ザントの肩がぴく、と動いたが、ナオはそれに気づかない。
「あの、目を見たから結婚しろなんて、言いませんから。で、できればしたいですけど、なんかその、騙し討ちみたいになっちゃって、ごめんふぁふぁ!?」
口をふさがれた。ザントの唇に。
強く押し付けるようなキスの後、ザントに言われたのは。
「謝る観点が違う」
「え?」
「というか謝る必要性がねぇな」
「だって、ザントさん怒ってたんじゃ・・・」
「怒ってねぇ」
「そうなんですか?よかった・・・」
ほっとしたように言うナオを、ザントは抱き締める。
「怒ってたんじゃなくて。・・・ああクソッ、何ていうか・・・俺が目を見たいって言った時に、結婚だのなんだのと一応は考えたわけだろ?」
「は、はい」
「それでも、見せてくれたんだろ?」
「はい」
「つまり、俺と結婚してもいいと」
「・・・そっ!そ、そそういうことに、なりますかね?」
「なるな。確実に」
つまりは逆プロポーズということか。
「・・・大胆なことをしてしまいました・・・」
「そうだな。・・・俺は嬉しかったけどな」
「え?」
「何でもねぇよ。ほら、下行くぞ。遅いと、文句言われるからな」
ナオの体を離し、ザントはベッドから立ち上がる。
「ザントさん」
「ん?」
現実にしてもらえるだろうか。勢いでやってしまったことだが、ナオの気持ちとは、ずれがない。
ザントと、生涯を共にしたい。
「この件が無事に終わったら・・・」
「そこまで」
ザントが手でナオの口をふさいだ。
「もごももも!?」
「何度も女から言わせてたまるかよ。・・・次は俺の番だ。終わったら、覚悟しとけよ」
そう言って凄むザントは、傍目には睨んでいるように見えるが、少し照れているのかもしれない。
よく見ると、耳だけが少し赤くなっていた。
ザントがナオの顎に手を掛ける。ナオがそっと目を閉じると、ザントの唇が重なった。
「ナオー!ザントー!話し終わったー!?」
階段下からリーザが呼ぶ声がする。
無事終わったよ、今から行くねと言いたいが、ふさがれていて言えない。
頭を動かそうとすると、いつの間にか反対側の手でザントが後頭部をしっかりつかんでいた。
離してもらおうと、ザントの胸をてしてし叩くが、ザントは気にもせず。
それどころか、舌を侵入させてきた。
「・・・ふっ・・・ぅ・・・んん!」
階段を上ってくる音がする。
あまりに遅いから直接呼びに来たのだろう。
ザントは離す気配を見せない。
誰か来る。離して。恥ずかしい。こんなとこ、見られたら。
誰かが階段を上りきったあたりで、ようやく離してもらえた。
ザントがにやりと笑う。
「昨日話さなかった罰な」
そう言い置いて、1人で部屋から出ていった。
「ナオ?今、ザントがえらく上機嫌で出ていったけど・・・」
呼びに来てくれたのはリーザだった。
ナオは、リーザの胸に飛び込む。
「ちょ、ちょっと、ナオ!?話、うまくいかなかった?」
「違う・・・けど、ザントさん、ザントさんの、ばかぁー!」




