表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/12

ある騎士の決意

少女が眠り続けた三日間の内のあるひととき。

ゼル視点です。


※男同士の会話ですので、いろいろご注意を。



ーあの子が目を醒ましたー



そう脳に直接語りかけてきたのは、キャロルか。

一緒に食堂で飯を食っていたデュークも手を止めて俺に顔を向ける。


「あの子起きたんだ。」

「らしいな。」

「これからのこと、あの子には酷かもねぇ~。」

「俺の方が酷だわ。」

「……あぁ!!ゼルあの子付きの護衛任されたんだっけぇ?面白そうで良いじゃん。」

「それ本気で言ってんなら目潰すぞ。」

「ちょ、冗談だよ。」

「そのわりには笑顔だな。お前が代わりにやれよ。」

「え?嫌だよメンドクサイ。僕はただちょっと興味湧いただけ。騎士の僕達に大声で文句言う女の子始めてだったからさぁ。」



確かに、大声で怒りをあんなにぶつける女は始めてみた。

しかもあんなに怖がっていた相手に。




ふと、三日前のあの森でのことを振り返る。





土と血と草にまみれた傷だらけの小汚ない娘。


それがコイツの第一印象だ。

仕方ないだろ、本当汚かったんだから。

見たこともないおかしな服を着ている少女は、ポカンと呆けて地面にぺたりと座りこんでいる。


「…ゼル、あの子どう思う?」

隣を歩いていたデュークも、判断に困っている様だった。

「………村の者なら噂のある森なんかに入るわけねぇし、あの姿は同情を誘うための罠かもしれねぇ。……いっちょ仕掛けるか。」

「そ~だね。人間に化けた魔物なら反撃してくるでしょ。」



判断してしまえば、後は素早く行動に移す。

一気に間合いを積めると、剣を抜き少女のか細い首もとに宛がった。



「ここで何をしている。」


少女が息を呑むのが分かった。演技かもしれない。


「聞こえなかったのか?ここで何をしている小汚ない女。答えによってはこの場で切り捨てるぜ?」


剣先に少し魔力を込める。



…反撃はない。

魔物の可能性は低くなったわけだ。



そこでしかと少女の顔を見つめる。

キズだらけで土汚れが酷く、どんな風貌かは分からないが、こちらを見上げる大きな瞳は怯えの色が濃い。

なんの変鉄もない茶色の瞳に黒髪と、普通の少女のようだ。柔らかそうな髪の毛にくっついた草の切れ端がハラハラと揺れ落ちる。


怖いくせに、震えないように努めている姿が印象的だった。






やがて一つの仮説に辿り着く。


キャロルの召喚した人間かもしれないという仮説だ。

見たこともない服に、なぜここに居るかもわからないと言う。


ふとおかしな服を観察すると、胸ポケットの部分に、なんと読むか分からないが「桜ヶ丘」という小さな文字のようなものを見つけ、確信する。


コイツはキャロルが喚んだ人間だと。



キャロルが半年前、捜索用として騎士団に配布した少女の身体的特徴などが箇条書きにされた資料の中にこの文字があった。確か学舎の名だったか……とすると、この服は正装なのか。こんな船乗りの男が着るようなものが?


デュークも同じ結論に至ったようだ。


無理やり立ち上がらせれば、子鹿のようにプルプルと震えこちらを睨んでいる。やがてピタリと震えはおさまった。

意地でも恐怖心を押し殺したいらしい。



根性は認めるがこの先が辛いのはお前だぞ。

溜め込めば、心が磨り減る。



担ごうと無言で手を伸ばせば案の定、強がった心がボロを見せた。

それをスルーすれば良いものを、面倒見のよさで評判の優しすぎる俺は、からかうことで本心を出させることにした。


あの時、夢遊病かと聞いたとき、確かに勝ち気な性格が垣間見えたからだ。





そしてあの叫びである。









「あ~思い出してるんでしょ。」

「あ?」

デュークの声にパッと現実に意識が戻る。既に奴の料理は綺麗にかたずけられていた。

「顔がニヤニヤしてたけど?」

「馬鹿か。俺の顔はいつでも端正な笑みを浮かべてんだよ。」

「プッ確かにあの子は面白かった。僕のカンじゃぁゼル、君はあの子のことが心配でたまらないんじゃない?」

「どうやら会話のキャッチボールができないらしいなぁ第二部隊隊長は。大丈夫ですか~?」

「ひどいなぁ~、観察力はゼルより劣るけど、カンは僕の方が上だよ?」

「どこをどう見たらそうなるんだ。お前のカンは当てになんねぇ。」

「そうかな?だって、からかってたのはあの子の為でしょ?それにぃ~泥だらけで分かんなかったけど、あの子、ゼルにぴったりのタイプだと思うんだよね。」

「顔もわかんねぇのにタイプも糞もあるか。あの膨らみのなさは俺のタイプじゃねぇよ。」

「別に幼児体型だって良いじゃない。まぁ確かにゼルの歴代の彼女さんたちは良い体の美女揃いだけど。そろそろ違うタイプにも手ぇ出してみたら?…それにあの勝ち気な態度を屈服させたいって思わないわけ?」

「…どんだけのSだお前は…ってか何でこんな絡んでくるんだよ。………もしかしてお前、あのメイド関係でなんかあったな?だから俺に当たってんだろ。」

「…………ウルサイ。」

「やっぱりかっ!!」

「だってさぁ~さっき話しかけたのに挨拶だけされて逃げられたんだよ。」

「良いじゃねぇか無視じゃねぇんだから。」

「やだよ!!会話、会話したいの僕は!!!!」

「…お前が来るもの拒まずだからだろ。今一体何人と関係もってんだ。仕舞いにゃ後ろから刺されるぞ。むしろ刺されろ。」

「…僕はポプリ一筋なんだけどなぁ。」

「だったらヘラヘラしてねぇで身辺整理しろ。」



目の前の男は頭を抱え、うちひしがれている。

いつもの飄々としている態度はどこへやら。戦闘ともなれば、頭の回転が良いコイツはトリッキーな策略もめぐらせるのだが、あのメイドのことになると只の馬鹿な男に成り下がる。ただし、その想い人に犬以下と思われているのだが、それは酷なので伝えてはいない。




「あーっ!!!!こんなとこ居たのね!?ゼル!!デューク!!」

「探しましたよ。」



突然の大きな声かけに、内心もう少し静かに呼べないものかと愚痴る。


女らしい言葉遣いとは裏腹に、低く滑らかな声。この声の主は、一人しかいない。

その声ともうひとつ、仲間内では珍しい丁寧な口調が、やはり誰の声かを決定づけている。


声のするほうに目を向ければ、長い銀髪をひとつ横に結んだ長身の姿と、その横に右目の泣き黒子が特徴的な、蒼い短髪の男が見えた。


「アンタ等が拾った子、目ぇ覚めたらしいじゃない?まぁ、折角起きたのにキャロルがまた寝させちゃったみたいだから、お見舞いには行けないみたいだけど。」

「アレックス行くつもりだったのか?」

「あったり前よ。女の子が一人で知らないところに連れられるなんて可哀想でしょ。きっと不安でいっぱいよ。…それから、この姿の時はアレクシスって呼んでくれる?」

「女装癖は治らないのか、気持ち悪い。」

「女の格好が似合うのが悪いのよ。綺麗でしょ?私って何でも似合うわ。」

「まぁそこら辺の娘よりは綺麗だよ、見てくれだけはね~。」

「一言多いわよデューク。…アンタのことサラとマリアとアマンダが探してたわよ。見つけたら呼ぶって言ってあるんだけど?」

「それは勘弁して。今その事で自己嫌悪してたんだから。」

「自己嫌悪できたんですね。」

「ん~ロギ、笑顔で毒吐くの止めてくんない?怖い。ホクロ引きちぎるよ。」

「それは痛そうなので嫌ですね。」

「お前らうるせぇ、本題を言えや。」



いつのまにやら座り込んで話している男たち(一人は女装しているが)を、睨み付ける。

アレックスが溜め息をつきながら肩をすぼめた。


「そーね、本題いけばいいんでしょ?……また魔物が出たって報告があったのよ。今度はアリスタの森の反対側。」

「私の部下たちが対処しましたが、まぁ騒ぐほどのものでもなかったみたいですよ?」

「…それでも、俺達が行くことで民が安心するなら、良いじゃねぇか。」

「……そうですね。それに、あの娘が来たなら、もうすぐこれも終わるでしょう。」

「…………僕には普通の娘に見えたけどねぇ。」

「資料によればまだ17歳でしょ?ぶっちゃけ魔物がいるかもしれない所に自ら行くわけだし。死んじゃうかも。」

「そうはならねぇよ。」




そうはさせない。





「その為に俺が護衛に、アイツの騎士になるんだからな。」





その言葉をかわきりに、食堂での会話は終わった。

シリアスな空気はこれで終了。


未来の心配など無意味だ。考えるだけ時間の無駄。




俺達に出来ることは、武力を尽くすこと。

それのみなのだから。




そう言い聞かせながらも、恐怖心を隠そうと必死に耐える少女の姿を思い出すのであった。








お気に入り登録してくださった方、ありがとうございます☆

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ