マシンガンとツインテール
結論から言うと、目は覚めた。
知らない部屋で。知らない金髪美女に覗きこまれている状況で。
「…此処どこ。」
「わぁ!!喋った!!喋ったわっ!!召喚成功したのよやっばり私って天才だわぁーぃ!!褒めて讃えて敬ってぇーっ!!」
悲しいかな、女子には優しくをモットーに生きてきた私は、この聞き捨てなら無い台詞を拳で黙らせるという暴挙に出ることはできなかった。
その美女はまるで少女のようにピョンピョン飛び回りながら、歓喜している。
淡い金髪が黒いローブで覆われていたのだがそのうちにフードの部分がズレて、ツインテールが現れた。
美女にツインテール。
悪くないと思った私はどうしようもない。
「皆に知らせなくちゃね~っと!!」
パチンと指を鳴らしたかと思えば、指の回りをキラキラとしたオレンジ色の光が飛び散った。
「あの…っ痛、」
「あぁっダメダメ!!召喚時のワープで磁気エネルギーにやられた傷だから治癒魔法かけられてないのよ。擦り傷とかの類いは自然治癒力でなんとかしないとね!!何でも魔法に頼るのはいけないことなのよっ!!」
「は、はぁ。」
なんとお喋りな女の人だろう。話の半分は何を言っているのか分からなかったが、やっとしっかり見ることのできた彼女の顔は、笑顔の素敵な10代のソレと相違なかった。
「私は王族付き魔術師のキャロル。あなたの名前はまだ無いのよね?」
「……ん?いやあるんです、あるんですけど思い出せないというか、なんと言うか~…。」
「無いのよ名前は。」
「私は、」
「貴女を召喚したのは私。いちお貴女のことは魔法で予知はしてあった。」
「…予知?」
キャロルと名乗ったツインテール美女は、もと居たベット脇の椅子に座ると駆け抜けるように話始めた。
「貴女は地球と呼ばれる星の日本という島国に生まれ、成長し、幼い頃から鍛えた弓矢の能力を活かすべく弓道の強豪高である桜ヶ丘高校に入学。弓道部に入り一年のうちに三段まで取得し二年でエースと呼ばれるようになる。本来ならもっと上の段数を狙える技能があるのに高校生は取れる段数決まってるのね~残念。」
「……その内容は、予知の範疇なんですか?」
「そうよ?どういうモノが来るのか分かるまでは、王も元帥達も許可してくれなかったらね。でもなぜだか肝心の名前と、それから貴女の家族のことが一切見えない、予知できなかった。」
「私の、家族…。」
考えもしなかった。
そういえば、私の家族ってどんなだったっけ?
家は思い出せるのに、そこに居住していた人間の顔を忘れるなんて。
ショックだ。親の顔を忘れるなんて。
「まぁ経歴さえ分かれば付けられた固有名詞なんてどうでも良いわよ。」
「……………。」
「…今はまだ頭が拒否してるみたいだし、あまり話をするのはよくないわね、また明日」
「待って、どうして、」
「?」
「どうして私なの?ってかなんで私が召喚されたって分かるの?…もしたら違うかも…たまたまあの森に居ただけかもしれないじゃないですか。」
「どちらの質問も答えは簡単。貴女が必要だから。そして召喚したのが私だから。私の魔力の断片が貴女のオーラにくっついてるし、間違いなく貴女は私に召喚された。」
「、」
「………召喚しといてなんだけど、突然ごめんね。でも貴女を呼んだの半年前くらいなのよ?今頃召喚に応じてくれたのは何でなのかしら。…まぁ大体の検討はつくけど調べなければね。」
キャロルに悪気は無いのだろうが、今の説明では納得できない。
いかにも頬を膨らませて見せれば、一瞬呆けてそれから爆笑された。
「アハハ!!そんな拗ねないで~?とにかく今は寝ること。寝るのもエネルギーを消費するけど、ストレスによるものよりはまだマシでしょうから。」
ぐいっとふかふかのベットに押さえつけられる。
「詳しいことは、また王の前で明日話すから。今はまだ休んでて。」
「………はぃ……って王様!?イヤイヤイヤイヤ私みたいな身元の分かんない得たいの知れない女なんて、駄目でしょ会わせちゃ!!」
「アハハハハ!!自分で言うの!?得たいの知れない女って。」
「だ、だって」
「身元ならさっきも言ったけど、予知してあったし大丈夫。我らが王は寛大よ?気づいて?誰も貴女を危険なキチガイとは、思ってないから。」
「私の心臓が今から緊張で膨張してますが、それについては気づいてくださらないのか。」
「イーヒッヒッヒ!!ゼルとデュークが面白がってたのも頷けるわぁ!!貴女おもしろーい!」
「………あのピアス野郎とモップ頭は何処に?」
「ピアス、モップ…………ブッ!!アハハハハ!!あの騎士達のこと!?イーヒッヒッヒ!!そのあだ名良いね気に入っちゃったー!!あ、もちろん貴女のことも気に入ったわよ?」
「それは…どうも…です。」
言いたいことを全て言ったのか、スクッと立ち上がるキャロルをボンヤリ見つめる。
そんな私を、笑顔とも無表情とも言えない複雑な顔でキャロルはフードをかぶり直した。
「ま、とりあえず貴女の名前は保留ね。王が付けてくれるでしょう。さぁ今は安静にしなさい。何も考えず。」
「………はぃ。」
不安だ。もうさっさと寝てしまおう。
明日になれば、私がなんでこんな所に喚ばれたのかが分かるんだから、大丈夫、きっと。
とりあえずこのツインテール美女が私を喚んだと言っているのだから、殺されるという危機は脱したわけだ。大丈夫。
王様に少し無礼なことしても私には全く非がない。
むしろ全部喚んだ方が悪い。
そう!!私は被害者なのだーーっ!!!!
………………って思わないとやってらんないよ。
ヤバいお腹痛くなってきた。ストレス性胃腸炎になったんだ。早く帰りたい。我が家に。忘れたけど家族にも会いたいし、友達のカナにも里美にもクレープにも会いたい。
頭が飽和状態だ。
「………本当にごめんなさい。」
「ぇ?」
いつの間にかドアのぶに手をかけたキャロルは、今までの声とはまるで別人のような音でその言葉を口にし、此方を振り返ることなく部屋を出ていったのだった。
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