01
ここだよな。
控えめにノックをして扉を開ける。扉にはミステリー研究会と書かれた紙が雑に貼られている。校内で一番幽霊会員が多いとされている愛好会。そのせいでいつまで経っても部活に昇格出来ない。
「失礼しまーす。あ、いた」
「……誰だお前」
無愛想な男子生徒。でも、顔は恐ろしいほど綺麗。
俺がこの間一目惚れした相手。
「2年1組の遊馬直です。よろしくお願いします。宇佐先輩」
恋愛をする気がないらしい、この先輩に。
「……入会希望者か? 言っとくが、ミステリー研究会の活動はほぼない。部活動参加が必須ではないこの学校で、ここに所属する利点なんてないと思うが?」
普通の教室ひとつ、割り当てられているのは結構贅沢に思う。ついでに座り心地の良さそうなソファまで備え付けられている。そのソファにくつろいでいるのが、ターゲットの先輩。
「その台詞、そっくりそのまま先輩に返しますけど。それにしては、幽霊会員多いですよね」
「抜けるのが面倒だからそのままになっているだけだろう」
なるほど。じゃあ、たまに来るというわけでもないのか。それなら好都合だけど。
「先輩とお話したいだけなので、俺には利点ありますよ」
「そういう奴は入会許可はしていない」
「違うでしょ。先輩に惚れてて、同じ気持ちを返してほしがる人に許可してないんでしょ」
「何が違う」
警戒しているのか、俺は一歩も動いていないというのに、少し奥にズレるように座り直された。
「俺は求めてないので。先輩に好きになってほしいとか、付き合ってほしいとか」
「じゃあ何のために」
「だから言ってるじゃないですか。お話したいから、ですよ」
知ってるんですけどね、先輩が一人になりたくてここにいることは。
「何のために」
「え、何のためって、好きな人と話すのは楽しいでしょ?」
「……よくわからない」
「好きな人と話すのが楽しいことがですか? あ、好きなのに求めてないこと?」
「両方」
今度こそ一歩踏み出して傍に寄る。気持ちが正しく伝わることを祈りながら。
「俺もそこまで恋愛好きじゃないんですよ。でも、先輩に一目惚れしちゃって」
「意味が分からない」
「俺もよく分からないですよ。でも、恋愛ってそういうものらしいです。で、先輩は恋をしない人でしょう?」
「そうだが」
「だから、安心して好きになれるな、って思いまして」
止めることを止めました。そう告げればより一層、眉間にシワが寄った。
自分でも自覚している。恋愛が嫌いだと言いながら、誰かを好きだなんて。それでも仕方がないんだ。好きだな、そう思った瞬間に、心の中の何かがしっかりと収まった感覚があった。だからそれはもう、認めるしかなかった。
「俺は迷惑なんだが」
「会話をしてくれればいいんですよ。それ以上は何も求めません」
「……分かった。じゃあ、この部屋でだけだ。ここから出たら、話はしない」
「了解です」
これでいい。この関係だけあれば、恋を楽しめる。




