第十五回:女装学
女装ちゃんと4人②
その日の講義室は満員御礼で、立ち見どころか室内からあふれ出した人達が
廊下に行列を作る程になっていた。
これは双子の女装インフルエンサー『cherrys』がゲスト出演する為だった。
youtuber、モデル、作家、様々な顔を持つこの双子は若者を中心に
爆発的人気があり、男女共に支持を得ている。
二人がフェミニンな衣装に身を包み登壇すると、講習生達は大歓声と拍手、
そして一部の過激なファン達が『チ〇ポ見せてー!!』と叫び、
警備員に連行されるまでが様式美のように進んで行った。
銀髪長身の美女講師リリアーヌが言う。
「しかし、本当に凄い人気だな・・・。
確かにクオリティは高いし、こんなレベルでしかも双子となると
やはり今の時代、人気が出ない方がおかしいか。」
ゴスロリ服にツインテールの暗部が続ける。
「私の友達もcherrysのLIMEスタンプ持ってますよ。
ぬい(ぬいぐるみ)持ってる子もいたなぁ。」
オレンジ全身タイツに狐面の巨漢、村古木が続けた。
「そりゃまぁ、我々の業界では『付いてる』だけでご褒美だからね。
それが双子ともなると、単なる足し算じゃない。掛け算だよ。」
今日は珍しく青ヒゲを脱毛サロンで脱毛して来た青日下が言った。
「いやぁ~、何か匂いまで女の子してるもんなぁ。
だけど直接金の玉を嗅いだらオスの匂いがするんだろ?
たまんねぇよな、正直。」
青日下はそう言いながら腰をカクカクと前後に動かした。
リリアーヌからは膝カックンを喰らった。
暗部からの『脱毛ってこんな都合良くツルツルにならない』と言う
冷静なツッコみを華麗にスルーしながら、講義を始めた。
「さぁ、今日は皆さんお待ちかねの女装学です。
そして本日は皆様もよくご存じのゲスト、
cherrysのお二人が来ています!!拍手~!!」
しかし、先に二人を登壇させてしまった事で一度拍手は起こっており、
講義生達からの拍手は最初まばらだった。
やがて空気を察した講義生達が少しずつ拍手の手を強めた。
暗部からは「いや、段取り悪っ!」と言われてしまった。
「えーっとまず、二人は粗チンなのかな?
あんまり膨らみが無いよね?」
早速ノンデリ(カシー)な事を言う青日下の頭をリリアーヌが強打した。
「ハハ・・・」と困惑する二人に、青日下に代わり暗部が質問した。
「お二人は女装歴はどれくらいなんですか?」
背の高い方の”まりゅ”が答える。
「幼稚園、くらいからですね。
母が本当は女の子が欲しかったみたいで、
よくふざけて女の子の格好をさせられていて。」
背の低い方の”ばっちゅ”が続ける。
「それで、遊びもおままごととか魔法少女とか、
だって母がそうしたものに関しては本当によく買ってくれて。
逆に男の子の遊びに関しては欲しがっても買ってくれなくて。
だから、自然と女装って言うか女の子になりましたよね。」
オレンジタイツの巨漢村古木講師がたまらず質問をする。
「お、オ〇ニーとかはするのん!?」
鼻息荒く聞いた村古木だったが、鼻をめがけてリリアーヌの裏拳が命中し
辺りが血の海になってしまう。
「お・・・おがぁ・・・!!」
「黙っていろ。そもそも公開の場で”女の子”にして良い質問か?それは。」
「だ、だって女の子じゃなくて男の娘・・・」
そこまで言いかけた時、再びリリアーヌの今度は正拳が飛び出した。
再び鼻頭を突かれて完全に後頭部から倒れ込む村古木。
暗部の「死んじゃ・・・った?」の言葉には心配よりも安心の色が濃い。
cherrysの二人はこの状況に戸惑いながらも、リリアーヌ達と会話を交わす。
「このような性的な事を平気で聞いてくるファン達も多いだろう。
正直なところ、どう思っているんだ?」
まりゅが答える。
「まぁ、女の子としてはちょっと恥ずかしいなーって気持ちもありますが、
男の子として考えれば最悪でも妊娠はしないし、
まぁ別に良いかなって。」
「なるほどな。そうした最後の予防線があると言う意味では、
攻めたスタイルも出来ると言うのが強みだな。
将来はどうしたいと言うのはあるのか?」
ばちゅが答える。
「えー、まぁ普通に、お嫁さん、みたいな?笑
私達アブノーマルだと思われがちだけど、別に普通に
幸せを求めてる一人の人間なんですよ。
そういう意味では普通の幸せをあるがままの姿で
得られればそれが一番の幸せであり目標ですね。」
その時講義生達から『結婚してー!!』の声援が飛ぶ。
「ありがとねー、でもまぁまだ、もう少し皆のものでいさせてね。
それが終わったら本気で、お相手探しをするから、
その時にはよろしくね☆」
リリアーヌと暗部の横では、目をキラキラ爛々と輝かせた
青日下と村古木がいた。
「もしかして、俺達にもワンチャン?」
「DT人生に遂に終わりが・・・!!」
そんな二人にまとめて、リリアーヌの回し蹴りが炸裂する。
「おっごぉ~!!」
「ごぺぇ~」
次はリリアーヌに代わって暗部が司会を務める。
「やっぱり、女の子って服とかも種類多いし、楽しいよね♪
私もし次の人生生まれ変わるとしても絶対女子だな。」
「それは私達も思ってます。
むしろ親の教育はあくまでキッカケで、本当は元々
私達の中に女の子になりたいって言う気持ちがあって
それがただ表面化しただけなのかな、と思います。」
「まぁ、最近は本当に色んな多様性が認められて来てるから
双子が女装くらいでは普通っていう時代が来るかもだね。」
「それは常に恐れてるんですよ。
特別でも何でもない存在になった時、自分達のアイデンティティが
全て失われてしまうような気がして。
「だけど私達、反対ではそれを望んでいる自分もいるんです。
だから、複雑ですね。少なくともこれまではもっと差別されて来て、
それが今になりオープンに出来るようになった。その事に感謝です。」
そこへリリアーヌが割り入った。
「しかし、いまだに古い考え方の者もいるのだろう。
『女装など気持ち悪い』と。」
「あぁ、いますよ。結構聞こえるように言われます。
だけどその人達が私達に何を出来るわけでも無いので、
結構無視しちゃってます。気にするだけ勿体ないし。」
「まぁそもそも、わざわざ貶めるような言葉を言う時点で
大なり小なり興味があるのだろうからな。」
「そうなんですよ!!
本当に気持ち悪いだけなら放っておけば良いのに、
わざわざ蔑むような言葉を言わないと気が済まない人がいて。
裏返して羨ましかったり、仲良くなりたいのかなって思いますね。」
そこへ青日下がムクリと立ち上がり、突然叫んだ。
「ねーねー、兜合わせしようよー!!」
そう言って股間部分を自らの手で擦り始めた青日下の後頭部に
五寸釘が差し込まれた。
そしてリリアーヌが叫んだ。
「悪霊、退散!!」
「ぐっぴいぇぇぇ~!!!!」
悶絶しながら絶頂を迎えてピクピクと蠢く青日下。
そしてリリアーヌは村古木に言う。
「どうせお前もこうなりたいんだろう?
さぁ、何でも欲望を叫んでみろ。すぐにあの世に連れて行ってやるぞ。」
村古木は顔を青ざめさせながら言った。
「あの世に行くのなら、cherrysの二人に騎乗位で腰を振られながら
呼吸困難になって逝きたいよ。」
リリアーヌの目がキラリと怪しく光った。
「おい、村古木~、いくら言ってもわからんようだな?
大切なゲストの方々へその汚らしい性欲を向けるなと言うのが
わからんのか?おぁ?」
村古木はそそくさと逃げ出し、この場には女性講師二名とゲスト二名。
ここからは一般的な女子トークのようなものが繰り広げられて、
講義の終盤は平和に過ぎて行ったのだった。
そして二人はまた機会があれば講義に呼んで欲しい、と言う事で、
今後の再登壇の期待を持たせながらの講義終了となったのだった。




