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誰も知らないスタート地点 ~未踏の遺跡から始まる気ままなVRMMO探索記~  作者: モーリス


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歴史の残響

壁の向こう側から聞こえてきた声は、それ以降どれだけ耳を澄ませても二度と聞こえることはなく、先ほど確かに通知と共に現れたはずの【???】という表示も綺麗さっぱり消え去っていたため、冷静に考えれば幻聴だったと結論付けてもおかしくはない状況だったのだが、サクの中では不思議なほど「聞き間違いだった」という考えだけが浮かんでこなかった。


 理由は簡単だった。


 この地下遺跡では既に何度も常識が裏切られている。


 普通ならあり得ないことが起こる。


 説明の付かない現象が起きる。


 そして後になってから、それら全てに意味があったと分かる。


 ならば今回も同じだろう。


 そう考える方が自然だった。


「継承者、か……」


 サクはその言葉を小さく呟く。


 継承。


 何を。


 誰から。


 そもそも誰に向けて。


 疑問はいくらでも浮かぶ。


 だが答えはない。


 今のところは。




 再び歩き出したサクは、螺旋階段の途中で何度か壁面の文字を観察しながら下層を目指していたが、進めば進むほど文字の量は増えていき、最初はただの傷にしか見えなかった刻印も、次第に何らかの法則性を持って配置されているように見え始めていた。


 それは文字だった。


 少なくとも何かを記録するために刻まれたものだ。


 しかし読めない。


 人間の言語ではない。


 エルフやドワーフの古代語とも違う。


 ゲーム内で存在が確認されているどの言語体系にも当てはまらない。


 それなのに。


 なぜだろう。


 見ていると何となく意味が分かりそうな気がする。


 あと少しで理解できそうな気がする。


 そんな奇妙な感覚だけがあった。


 そして。


 その感覚は突然現れた。


⸻


【称号効果発動】


【境界観測者】


⸻


 視界が微かに揺らぐ。


 世界が二重に重なったように見える。


 そして。


 壁が変わった。




 正確には壁ではない。


 壁の向こう側だ。




 サクの目の前に広がったのは現在の地下遺跡ではなく、遥か昔の光景だった。




 眩しい。




 今まで見てきた地下遺跡は薄暗かった。


 だが目の前の景色は違う。


 無数の結晶が天井を照らし、白銀色の光が広大な空間全体を満たしている。


 崩れた壁は無い。


 壊れた柱も無い。


 全てが完成している。


 全てが機能している。


 まるで全盛期の姿だった。


「え……?」


 思わず声が漏れる。


 しかし返事は無い。


 当然だ。


 これは現在ではない。


 おそらく過去だ。


 映像なのか。


 記録なのか。


 それとも別の何かなのか。


 分からない。


 だが。


 そこには人がいた。




 いや。


 人に見える何かがいた。




 白いローブを纏った集団。


 数十人。


 いや百人以上いる。


 彼らは巨大な円形広場のような場所へ集まり、中央に存在する何かへ向かって跪いていた。


 その姿には奇妙な統一感があった。


 宗教儀式にも見える。


 学会にも見える。


 王への謁見にも見える。


 だがどれとも違う。


 そして。


 広場の中央。


 そこに存在していたものを見た瞬間。


 サクは思わず息を呑んだ。




 巨大だった。




 先ほど深層の闇で見た存在と似ていた。




 だが違う。


 圧倒的に違う。




 今見えている存在は眠っていない。


 生きている。


 活動している。


 そして。


 話していた。




 声は聞こえない。


 だが何かを語っている。


 集まった人々は必死にそれを書き留めている。


 まるで神託を記録する神官達のように。




 次の瞬間。


 景色が崩れた。




 視界が元に戻る。


 薄暗い地下遺跡。


 静寂。


 冷たい空気。


 何もかも元通りだ。


 だが。


 通知だけが残っていた。


⸻


【歴史の残響を観測しました】


⸻


【歴史値+3】


⸻


【歴史値:10】


⸻


【条件達成】


⸻


【称号獲得】


【断章の観測者】


⸻


 サクは思わず目を見開いた。


「称号?」


 珍しい。


 しかも今回はボス討伐でも探索達成でもない。


 歴史値が条件だった。


 そして。


 説明文を開いた瞬間。


 背筋が震えた。


⸻


【断章の観測者】


かつて失われた歴史を観測した者。


あなたは既に世界の表層だけではなく、その奥底へ手を伸ばし始めている。


効果:


・歴史の残響を視認可能


・未解読文字の理解補正


・歴史値獲得量上昇


⸻


「……これ絶対ヤバいやつだろ」


 最近の称号はどれも普通じゃない。


 強い弱いの話ではない。


 世界観そのものに触れている。


 普通のプレイヤーが取得するスキルとは明らかに方向性が違う。


 だが。


 それでいい。


 むしろその方が面白い。




 一方その頃。


⸻


【World Anomaly Online 総合掲示板 Part.131】


112:名無しの冒険者


歴史値10になったやつ現れたぞ


113:名無しの冒険者


早すぎるだろ


114:名無しの冒険者


そもそも何して増やしてんだ


115:名無しの解析勢


分からん


116:名無しの冒険者


分からんのかい


117:名無しの解析勢


だが一つだけ判明した


118:名無しの冒険者


なんだ


119:名無しの解析勢


歴史値10到達で称号解放


120:名無しの冒険者


え?


121:名無しの解析勢


ランキング経由で確認された


122:名無しの冒険者


だから誰なんだよその人


123:名無しの解析勢


知らん


124:名無しの冒険者


知らんじゃねぇよ


125:名無しの解析勢


でも地下遺跡勢なのはほぼ確定


126:名無しの冒険者


またあいつらか


127:名無しの冒険者


絶対世界の裏設定見つけてるだろ


128:名無しの冒険者


運営より先に世界の秘密解明するのやめろ


⸻


 掲示板では騒ぎが大きくなっていた。


 だがその頃。


 当の本人はそんなことを全く知らない。




 サクは階段の先を見つめていた。




 深い闇。


 遥か下方。


 見えないはずの場所。


 しかし。


 今の称号を得た瞬間から。


 ほんの僅かに。


 その奥で揺らめく光のようなものが見えるようになっていた。


 まるで誰かが。


 あるいは何かが。


 こちらを待っているかのように。


⸻


 そして深層のさらに奥。


 人知れぬ闇の中で。


 巨大な存在は静かに目を開く。


⸻


【観測者を確認】


【適合率上昇】


【継承候補認定】


⸻


【第一封鎖層の解除準備を開始】


⸻


 誰にも見えないシステムログが。


 静かに動き始めていた。

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