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誰も知らないスタート地点 ~未踏の遺跡から始まる気ままなVRMMO探索記~  作者: モーリス


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2/5

静かすぎる世界

通路は思ったよりも長かった。


 サクは青白く灯る結晶を頼りに、ゆっくりと遺跡の奥へ進んでいく。


 足音だけが規則的に響く空間。誰かが話す声も、モンスターの咆哮もない。ただ、湿った空気と、石が軋むような微かな音だけがこの場所の「生きている証」だった。


「本当に、誰もいないんだな」


 呟いてみるが、返事はない。


 ゲーム開始エリアとしては明らかにおかしい静けさだ。


 普通なら、他のプレイヤーの声や足音がどこかで聞こえるはずだし、チュートリアルのアナウンスが流れてもいい。


 それが一切ない。


「まあ……そういうダンジョンってこともあるか」


 サクは深く考えるのをやめた。


 とりあえず動けるなら問題ない。そういうスタンスだった。



 しばらく進むと、空間の構造が変わった。


 狭い通路から、少し開けた円形の部屋へと出る。


 天井は高く、中央には石の台座のようなものがあった。


 その周囲には、壊れた柱と、床に刻まれた円形の模様。


 まるで何かの儀式場のようだった。


「……イベントエリア?」


 近づいてみる。


 台座には薄く埃が積もっているが、その中心だけが妙に滑らかだった。


 誰かが最近触れたような違和感。


 だが、当然ながらプレイヤーの姿はない。


「うーん」


 サクはしゃがみ込み、台座を軽く叩いた。


 コン、と乾いた音が響く。


 すると――


 床の模様の一部が、ほんの一瞬だけ淡く光った。


「お?」


 もう一度触れる。


 今度は何も起きない。


「気のせい……じゃないよな」


 サクは周囲をぐるりと見渡す。


 装飾、模様、柱の配置。すべてが何かの意味を持っているように見えるが、今はまだ理解できない。


 ただ一つだけ分かるのは、この場所が「ただのダンジョン」ではないということだった。


 そのとき、視界の端に小さな文字が浮かぶ。


【環境情報を一部取得しました】


「おっ、やっと出た」


 思わず声が出る。


 しかし続くはずの詳細は表示されない。


 代わりに出てきたのは、


【権限不足により一部データは非表示です】


という短い一文だけだった。


「権限……?」


 サクは首をかしげる。


 プレイヤーに権限があるゲームは知っているが、ここまで制限されているのは初めてだった。


 普通は初心者こそ全部見えるものだろう。


「むしろ逆じゃないか?」


 違和感は少しずつ積み重なっていく。



 部屋の隅に、崩れた石板が倒れているのに気づいた。


 近づいて持ち上げようとするが、かなり重い。


 なんとか横にずらすと、下に細い溝のようなものが見えた。


 その中に、かすかに光る線が走っている。


「配線……いや、魔力回路?」


 どちらとも判断できない。


 だが、この世界がただの中世風ファンタジーではないことだけは確かだった。


 サクはしばらく考えたあと、石板を元の位置に戻した。


「とりあえず壊すのはやめとこ」


 理由は単純だった。


 面白そうだからこそ、壊したくない。



 さらに奥へ進むと、通路の壁に奇妙な痕跡が増えていく。


 爪痕のようなもの。


 焼け焦げた跡。


 そして、途中から明らかに「人工的ではない破壊痕」。


「モンスターでもいたのかな」


 そう呟いた瞬間だった。


 遠くで、低い音が響いた。


 ゴォン……と、空間全体に反響するような音。


 サクは足を止める。


「今のは……環境音?」


 それとも何かの起動音なのか。


 判断はつかない。


 ただ一つだけ分かるのは、この遺跡が「死んでいない」ということだった。



 しばらく進むと、細い通路の先に小さな広場が見えた。


 そこには、朽ちたベンチのようなものと、倒れた灯りの装置。


 そして――


 人の形をした石像。


 いや、正確には「人だったもの」。


 顔は崩れ、性別も分からない。


 だが、その姿勢だけは妙に整っていた。


 まるで、何かを見上げたまま止まったように。


「……ここ、やっぱり普通じゃないな」


 サクは静かにそう呟いた。


 怖さはない。


 ただ、知らない世界を見ている感覚だけがあった。



 そのときだった。


 視界の端に、また小さな通知が浮かぶ。


【未登録領域に接続しました】


【データ同期を試行します……失敗】


【再試行中……】


 文字は途中で途切れ、消えた。


「同期……?」


 サクはその言葉を反芻する。


 何と同期しているのか。


 そもそも何が「未登録」なのか。


 分からないことばかりだった。



 だが、不思議と怖くはなかった。


 むしろ少しだけ、ワクワクしていた。


「この先、どうなってるんだろうな」


 誰に向けたわけでもないその言葉は、静かな遺跡に吸い込まれていく。


 そしてサクは、さらに奥へと足を進めた。

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