表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
前世で笑われた解体師の俺、1000年後に転生したら素材知識が世界唯一の宝になっていた件  作者: いなばの青兎


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/13

第6話 三体同時、俺が指揮する

 王都行きの準備を始めた翌日、報告が三件同時に入った。


 「スチールアッシュがダルム東方に一体」


 「北方の沼地にストーンスライムがまた出た」


 「西門外の林にも何か出たと目撃情報が」


 受付の係員が三枚の紙を一度に持ってきた。俺は三枚を並べた。


 「……同時に」


 「ギルドの冒険者は今、手が空いているのが十二人です。どこから対応しますか」


 十二人を三方向に分散させると、各方向が四人になる。スチールアッシュには最低でも六人以上の方がいい——弱点を知っていれば少人数でも対応できるが、知識を伝えていない冒険者が混じると危ない。


 「俺が三か所を順番に回ります」


 「同時には無理では」


 「優先順位を決めます。西門は何の魔物か分からない。最初に確認してから判断します。東方のスチールアッシュは弱点を知っている人間を先行させてください。北方のストーンスライムはエリカが一人で対応できます」


 受付が目を丸くした。


 「エリカが一人で?」


 「昨日、一人で倒しました。もう教えてあります」


 エリカはすでに俺の後ろに立っていた。


 「行けます」と彼女が言った。「ガルダさんを連れて行けばいいですよね」


 「記録係として、はい」


 「じゃあ私は北方に行きます。レンは西門を確認してから東方に」


 「そうします」


 ギルド長が執務室から顔を出した。


 「何の騒ぎですか」


 俺は三枚の紙を差し出した。


 「三方向同時発生です。対応の指示を出してもいいですか」


 ギルド長が紙を見た。少し間を置いて——。


 「やってみなさい」


 前世では、指揮する立場などなかった。解体師は処理担当だ。倒した冒険者がいて、俺が片付ける。指示を出す人間ではなかった。


 ——今は、違う。


* * *


 西門外の林は、ダルムから歩いて十分だった。


 目撃者の冒険者二人を連れて現場に向かうと、林の縁に魔物がいた。


 サイズは小さい。体長五十センチほど。白い体に、羽根が生えている。動きは遅い。鳥に近い形状だが、嘴がない。


 「……ポイズンバードではない」


 前世のポイズンバードは翡翠色で、嘴が特徴的だった。変異していてもこれほど変わるか——?


 「近づきます」と俺は言った。


 「危なくないですか」とついてきた冒険者が言った。


 「観察するだけです」


 俺は十メートルの距離まで近づいた。魔物はほとんど動かない。こちらを見ているようだが、攻撃してこない。


 体長五十センチほどの白い鳥に近い形状。嘴がない。羽根の付き方が旧種と一致するものが見当たらない。


 「……見たことがない」


 前世の記憶を全て照合しても、この生物に対応する旧種が出てこない。変異が大きすぎてシルエットが変わったのか、あるいは——俺が解体した旧種にないものか。


 「危険ですか」と冒険者が言った。


 「分かりません。観察します」


 魔物が羽根を広げた瞬間、林の音が消えた。鳥の声、葉ずれ、全て止まった。


 二十秒ほどで戻った。


 「音を吸収しました」と俺は言った。「詳細は不明ですが、連携が取れなくなる前に仕留めた方がいい。翼の付け根——翼膜が薄い部分を狙ってください。構造から見て、そこが最も防御が薄い」


 「確実ですか」


 「確率が高い、という判断です」


 冒険者が静かに動いた。翼膜の薄い部分に剣を当てると、一撃で倒れた。


 「通りました」と冒険者が言った。


 俺は死体を素早く確認した。内部構造が判断できない。記録帳に照合する必要がある。今日は詳細な解体まで時間が取れない。


 「この個体は後で詳しく調べます。死体をギルドに持ち帰ってください。廃棄しないで」


 「分かりました」


 俺は走った。


* * *


 東方のスチールアッシュ現場に着いたとき、冒険者六人がすでに対峙していた。


 弱点情報を事前に伝えてあったが——見ると、六人が正面から囲んでいる。第三関節を狙うには側面に回る必要があるのに。


 「右側面!」と俺は叫んだ。「正面からは当たらない!」


 六人が一斉に振り返った。


 「レン?」


 「右後ろ足の第三関節! 側面に回れ!」


 混乱しながら、一人が側面に回り込んだ。スチールアッシュが反応して向きを変える——その瞬間に別の一人が逆側から詰め、第三関節の継ぎ目に剣を差し込んだ。


 鱗が割れる音。


 スチールアッシュが膝をついた。


 「……弱点の情報は聞いていたのに、実戦で頭が飛んでしまいました」と一人が言った。


 「正面を見ると、正面に向かいたくなります。知識と実戦は別です」


 俺は死体の前に進んだ。


 「解体します。手伝える人は残ってください。他はギルドに戻っていい」


 二人が残った。


 三十分で主要な素材を取り出す。核様構造も採取する。


 袋の中に、三つが並んだ。


 スチールアッシュ、ストーンスライム、フロストゴーレム。


 全て、同じ文様を持つ核様構造。


 千年前の記録帳に「全種に存在を確認」と書いてある。今日の未確認の個体を含めれば、四種類になる。


 「これは何のためのものだったんだ」


 独り言を言いながら、俺は土を払って立ち上がった。


* * *


 ギルドに戻ると、エリカとガルダが先に戻っていた。


 「北方のストーンスライム、倒しました」とエリカが言った。


 「問題なかったですか」


 「一人でやりました。ガルダさんに記録してもらいながら」


 「よかった」


 ガルダが俺に近づいた。


 「三か所とも終わりましたか」


 「はい。それと——」


 俺は袋を出した。四つの核様構造を机に並べた。


 「三種類になりました。今日の未確認の個体を含めれば四種類です」


 ガルダが目を細めた。


 「スチールアッシュ、ストーンスライム、フロストゴーレム——全部から同じ構造が。しかも同じ文様で、同じ位置に」


 「千年前の記録帳に「全種に存在を確認」と書いてあります。これがその「全種」に共通するものだと思います」


 ガルダが少し間を置いた。


 「……封印核、という仮説はどうですか」


 「考えています。全種の体内に存在し、何らかの同調現象を引き起こす——それが大消失の正体だとしたら、今出現している新種の体内にも同じものがあるはずです。そして実際にある」


 「大消失が自然現象ではなく、この構造の動作だったということですか」


 「仮説です。でも王都の記録帳で確認できれば、仮説から証明に変わります」


 ギルド長が執務室から顔を出した。


 「三か所、全部終わりましたか」


 「はい」


 「それと」とギルド長が言った。「王都への紹介状が今日届きました。文書館への入場許可も付いています。準備が整い次第、出発できます」


 ガルダが俺を見た。


 「行けます」


 「行きます」


 エリカが俺の隣に来た。声を落として言った。


 「ね、レン。あなた——解体師ですよ、今でも。千年前のルドと同じ」


 「……そうです」


 「それでいいんです。変わらなくていい」


 俺は少し黙った。


 変わらなくていい、と言われたのは初めてだった。前世のルドとして生きた二十年、誰かに「そのままでいい」と言われたことはなかった。


 「……ありがとうございます」


 エリカが前を向いた。


 「じゃあ王都、行きましょう」


 俺は三つの核様構造を袋に戻した。


 前世のルドが書き残した記録帳の本館へ。


 この手の中にある核が何なのか、千年前の自分が書いた答えを、俺自身が読みに行く。


ブクマや評価をいただけると、続きの執筆がすごく捗ります。

楽しんでいただけたら、ぜひ応援してやってください!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ