第12話 記録帳が語る封印核
文書館の三日目に、封印核という言葉が出てきた。
十一冊目の帳面だった。
「第七頸椎の直下に、微細な核が存在する」
前世の自分の筆跡で書いてある。
「全旧種個体に共通して確認。形状は螺旋文様を持つ球体。大きさは個体差あり。機能については調査継続中——」
「ガルダさん」と俺は声を落とした。
「はい」
「封印核という記述が出ました」
ガルダが筆を止めた。
「……何と書いてありますか」
俺はページを声に出して読んだ。
ガルダがそれを書き留める間、エリカが俺の手元を覗き込んでいた。
「これが、あなたが集めていたものですか」
「そうです」
「千年前の自分が書いたものを、今読んでいる」
「変な感じですが、はい」
エリカが少し笑った。
* * *
十二冊目、十三冊目と進んだ。
封印核に関する記述が増えていく。
「個体数が増えるほど、核の同調強度が高くなる」
「複数個体が密集すると、核が共鳴し始める兆候がある」
「共鳴の最大化条件は不明——一定以上の個体数か、特定の距離条件か」
前世のルドは、何かを掴みかけていた。
「俺はあの頃、何に気づこうとしていたんだ」
声に出てしまった。
「分かりますか」とガルダが聞いた。
「共鳴の意味が分かれば——大消失が何だったかが分かります。でも、この帳面の記述だけでは、まだ足りない」
「続きは」
「切り取られたページの後です」
十三冊目の最後に、またページが切り取られていた。今度は三ページ分。
切り口が前回とわずかに違う。刃物の角度が違う。
「同じ人間ではないかもしれません」とガルダが言った。
「複数の人間が、別々に切り取った」
「大消失に関する情報を、組織的に消していた可能性があります」
「大消失から千年が経っている。その間も、誰かがこの記録帳に手を加え続けていた」
ガルダが静かに言った。
「……この記録帳を管理している組織が、情報を封じていた」
「文書館が、ですか」
「文書館が直接とは限りません。文書館を利用できる立場の人間が——」
エリカが手を挙げた。
「ちょっと待ってください。文書館に入れる人間って、限られますよね。普通に考えれば、閲覧者か職員か」
「あるいは管理者側の人間が何らかの意図を持っていた」とガルダが続けた。「ただ、当事者を特定するよりも——残っているページから、何が書かれていたかを推定することが先決かもしれません」
「推定できますか」
「前後のページの内容と文脈から、欠落した部分を補う。記録帳の研究が専門なので、ある程度は」
「頼みます」
* * *
十四冊目を開いたとき、ページが切り取られた跡の次のページに、こう書いてあった。
「先日の実験は成功した。百個体分の封印核を同調させたとき、全個体が地中に引き込まれた。原理は確認できた。規模を拡大すれば——」
「実験」と俺は言った。
「成功した、とある」とエリカが繰り返した。
「百個体分の封印核を同調させた」とガルダが読んだ。「全個体が地中に引き込まれた。これは——」
「大消失の前兆ではなく」と俺は続けた。「準備だった」
三人が沈黙した。
「千年前のルドが、封印核を大量に採集していた理由が分かりました」
俺は帳面を閉じた。手が、わずかに震えていた。
「実験して、成功した。つまり——大消失は、誰かが意図的に引き起こしたものです」
「誰が」とエリカが言った。
「分かりません。この帳面の著者——俺が書いた。でも俺一人でやれる規模ではない。千年前のルドは誰かと一緒に動いていた」
ガルダが静かに言った。
「記録帳に他の著者の名前や、協力者の痕跡はありますか」
「この帳面には——ありません。でも残り九冊に何かがあるかもしれない」
「明日、続けましょう」
「はい」
俺は帳面をテーブルの上に置いた。
千年前の自分が、大消失を引き起こした。
それがどういう意味なのか——まだ全部は分からない。ただ、一つだけ分かった。
「前世のルドは、ただの解体師ではなかった」
エリカが俺を見た。
「でも」と彼女が言った。「解体師でもあったんですよね。ちゃんと」
「……はい」
「それは変わらないです」
俺は窓の外を見た。
変わらない。前世でも今でも、俺は解体師だ。
そして、解体師として千年前に何かをした。
その「何か」の全貌を、残り九冊が教えてくれる。
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