光の勇者と王様の憂鬱
「王様に謁見なんて、そんな簡単にできるものなのですか」
王様への謁見を待つあいだ、俺たちは客間に通されていた。
そこでシャルロットが疑問を口にする。
「いくら開かれた王城とはいえ、一般市民まで簡単に謁見できるものではないと思うのですが」
「普通は無理だよ。だけど俺たちは、というかエリーは光の勇者としてこの国では英雄扱いだ。聖王都は女神様を信奉する国。その女神様に直接力を与えられる光の勇者は、国王に次ぐ権力を持ってるんだよ。むしろ祭事などの場合にでは国王よりえらい立場にあるくらいだ。エリーは面倒なことは嫌いだから、その手のことには一切関わらなかったけどな」
女神様の御託宣を賜ったり、この国の未来を占ったり、国事に関わる行事は多いんだが、そういうのはとにかく格式と伝統重視で、非常に手順が複雑だ。
一言でいえばとても面倒くさい。
エリーも勇者になったばかりの子供の頃は素直に参加していたのだが、成長してからは一度も参加しなかった。
国からも参加してくれという要請は一度も来なかったから、それで問題になるということもなかったんだがな。
「俺も一応エリーの幼馴染みとして、勇者の従者という立場にいる。地位だけならかなり高いんだよ」
「それでこうして王様にも謁見できるのですね」
「私たちも共にいて大丈夫なのか」
珍しくシェイドが心配する。
「王というのは人間の中では一番偉いのだろう。知らない人間をそう簡単に信頼するとは思えないが」
「俺の仲間ということは、勇者の仲間だ。問題ないし、聖王都としては断れないよ」
光の勇者は、女神様の代理人とも言える。
絶大な権力を持つんだ。
女神様を信奉する国ならではの問題であるともいえる。
まあこれまではそれで問題はなかったんだけどな。
やがて客間に近衛兵がやってきた。
「イクス=ガーランド。謁見の時間だ。くれぐれも失礼のないようにな」
「もちろんわかってるよ」
なにしろ相手はこの国の王だからな。
近衛兵に先導されて城の中を歩く。
やがて着いたのは、巨大な扉の前だった。
ここが謁見室だ。
王に直接会うときは、必ずこの部屋で行うと決まっている。
俺の背丈の数倍はあるような巨大で、豪華な装飾が施された門だ。
門の前に控えていた二人の近衛兵が、それぞれ扉を押し開く。
あまりにも大きすぎて一人じゃ開けられないんだよな。
威厳を見せることと、いざというときのために開けにくくすることと、二つの意味があるのかもしれないな。
開かれた扉を抜けて謁見室に入る。
敷かれた絨毯の上を歩き、最奥に鎮座していた王座の前で膝をつき、頭を垂れた。
「お久しぶりです、ブラン王」
「久しぶりだなイクスよ」
厳かな声が響く。
「この国に戻っていたとはな。急な謁見だったので驚いたぞ」
「今日戻って参りましたので」
「そうか。それは急だな。よほどのことか」
「はい」
「わかった。ああ、顔はもう上げていいぞ。私とお前の仲だろう。そこまで畏まることもない」
「お気遣いありがとうございます」
そう言って顔を上げた。
玉座に座っていたのは、高貴な身なりに身を包んではいるが、俺とそう変わらない年齢の男性だった。
「後ろの二人は初めて見る顔だな」
「シェイドと申します」
「シャルロットと申しますワン」
……どうしてシャルロットは隙あらばペット主張をするのだろう。
客室までは普通だったのに。
「うふふ、皆様の視線が私に注がれるのを感じます……まるで汚物を見るような目で……うふ、うふふふ……」
なにやら小さな声でつぶやいていた。
聞かなかったことにしよう。うん。
「元気なようだなイクスよ。安心したぞ」
王様も華麗にスルーした。
王の仕事は優秀な部下をそろえることだと以前語っていたからな。
人を見る目や扱い方については熟知しているはずだ。
シャルロットには関わらない方がいいと判断したのだろう。
さすがの危機回避能力だ。
「久しぶりの帰郷だ。聞きたい話はいくつもあるが、まずはそちらの用件から聞こう」
「戦争を止めに来ました」
俺に人を説得する話術はない。
だから結論から述べることにした。
それにブラン王は帝王と違って顔見知りでもある。
腹の探り合いは不要だろう。
ブラン王は少しだけ考え事をするように黙り込んだ。
「その話をする前に、ひとつ確認したい。今日は光の勇者はいないのか? お前たちはいつも一緒だっただろう」
「街に置いてきました。だって王様、エリーがいたら会ってくれなかったでしょう」
「当然だ!」
王が突然すごい剣幕でまくしたてた。
「あんな横暴勇者になんか二度と関わりたくない。やっと辺境の街に旅立ってくれたと聞いて清々していたのだぞ。それなのにいきなり戻ってきたなんていうから、私がどれだけ驚いたかわかるか」
うーん、わかってしまう。
この国はエリーのせいでさんざんな目にあってきたからな。
特に国王は、それはもう無茶な要求をされ続けたもんだ。
要求を断ればエリーがなにをするかわからない。
今は大人としてある程度の分別があるが、子供の頃はそんな分別もなかったからな。
そもそも女神様を信奉する国として、女神様に直々に認定される光の勇者の願いを無視するなんてできなかったんだ。
おかげで色々と大変な目に遭ったんだよな。
もちろん俺もばっちり巻き込まれたんだが。
「さて、イクスよ。戦争をやめて欲しいのだったな。すまないがお前の願いを聞くことはできない」
予想通りそう言ってきた。




