勇者の帰還
帝国は軍を撤退させた。
その理由は明らかにされなかったが、帝国が誇る王城が一夜にして地の底に落ちたこと、そしてそのあいだ帝王の行方がわからなくなっていたことは世界中に知られていた。
まあ隠しきれるものではないだろう。
王の居城が王様ごと消え去るなんて、歴史に残る大事件だろうからな。
天罰だとか天変地異だとかどこかの勇者がまたやらかしただとか色々噂は流れていたが、その理由が明らかになることはないだろう。
というか噂が一部当たってるのが怖いというか自業自得というか……。
それよりも問題なのは、聖王都軍だ。
帝国が混乱によって軍を引いたのなら、この機に乗じて攻め入ることは誰でも想像できる。
だからこそ迅速に行動する必要があった。
というわけで、俺たちは聖王都の首都エルドラドにやってきたんだ。
「ここが聖王都の首都か」
シェイドが壮麗な建物が並ぶ都市を眺めている。
帝国と違って聖王都は近いから、すでに何度か来たこともあった。
おかげでシェイドのダンジョンを使えば、帝国の首都から聖王都の首都までその日のうちに移動することが出来るんだ。
エルドラドにも、他の国と同じように検問はある。
だが、俺は実はこの辺りの出身なんだ。
だから身分証も持っている。城門も難なく通過することが出来た。
門を抜けて中に入ると、壮麗な城が目の前に飛び込んできた。
威圧感が強かった帝国の王城とは違い、聖王都の城は遠目にも美しい。
女神様を信奉するだけあって、それにふさわしい姿になっているんだ。
「俺とシェイドは城に行って王様に会ってくる。エリーたちはどうする」
答えはわかっていたが一応たずねる。
予想通りエリーが嫌そうな顔になった。
「城なんて行ってもつまらないし、興味ないわ。用事が済んだら呼んで。それまで適当にうろついてるから」
「私は御主人様のペットですから。どこにでもお供いたしますワン」
シャルロットは相変わらずだった。
見た目は美人のお嬢様なのに、流れるような自然さで語尾にワンを付けてくるから違和感がすさまじい。
通りがかった人がしばらくしてから驚いたようにシャルロットを振り返っていた。
あまりにも自然に犬のように話すから、一瞬おかしいことに気がつかないんだよな。
「それじゃあオイラはエリーに着いていこうかナ」
「あら、パンドラがアタシについてくるなんて珍しいわね」
「オイラはエリーも好きだゾ。やることが派手で見てて面白いからナ」
褐色肌の少女が頭の後ろで腕を組みながら、ニカッと笑みを浮かべる。
「なかなかわかってるじゃない。それじゃあオススメの店に連れて行ってあげるわ」
「それは楽しみなんだナ」
なんだかんだでこの2人は仲がいいんだよな。
性格が近いというか、感性が似てるんだろうな。
モンスターと性格が似ている人間と、破壊の勇者に感性が近いモンスター。
そこだけを聞けばヤバい組み合わせにしか思えないな……。
見た目だけなら仲のいい美人姉妹なんだけど。
まあ聖王都は治安もいいし、あの2人なら心配はいらないだろう。
むしろエリーがオススメするとかいう店の方が心配だが……。
さすがのエリーもそうそう暴れないはずだ。多分。最近は比較的おとなしい方だと思えなくもないし。うん。
そういうわけで俺たちは王城へと向かっていた。
城門で衛兵に止められるが、すぐに俺のことに気がついたようだった。
「お前は、イクスじゃないか。久しぶりだな」
この国は故郷だからな。
知り合いも多いんだ。
「久しぶりだな。ちょっと王様に謁見したいんだが、いいか」
「わかった。少し待て。ところで、例の幼馴染みはどこにいるんだ。姿が見えないようだが……」
衛兵が恐る恐るたずねてくる。
「エリーなら今はいないよ。城なんてつまらないから街で遊んでるそうだ」
「そ、そうか。それならいいんだ」
明らかにホッとしたように答える。
まあエリーはどこにいてもエリーだからな。
みんなから恐れられている。
それは城の衛兵も同じようだった。
「そっちの2人はイクスの仲間か」
「そうだ」
「それにしてはずいぶん美男美女だな」
衛兵に視線を向けられて、二人がそろって挨拶をした。
「シェイドだ」
「シャルロットです。御主人様のペットをしておりますワン」
「………………わん?」
衛兵がなんとも言えない表情になる。
その気持ちはわかる。
「ええと、そっちのシェイドのペットって事か……?」
「イクス様のペットに決まっているではありませんか」
「………………」
哀れみの視線が俺を見る。
「イクス……。お前だけはまともだと思ってたのに……。やはりエリーと一緒にいるとこうなってしまうのか……」
俺はペットにした覚えはまったくないんだけど……。
シャルロットと一緒にいると風評被害がすごいなあ。




