悪の最後は地獄行きと相場は決まっている
「外でなにやら騒ぎが起こったようだな」
帝王がつぶやく。
どうやらエリーたちが行動を開始したようだな。
「貴様の差し金か?」
「多分そうだろう」
エリーとシャルロットに、モンスターを率いて帝国内で暴れるよう頼んでおいたんだ。
今頃は大喜びで暴れ回っているだろう。
城内の兵士も鎮圧に駆り出されるはずだ。
「あんた一人でもこんなにしんどいんだ。兵士にまで駆けつけられたらたまらないからな」
「決着をつけようというわけか」
「まあそうだ」
城の中の人間がすべて出て行くことはないだろうが、少しでも減らしておきたい。
でないと後で面倒なことになるからな。
「余を倒すために周到に準備してきたようだな」
「いいや、これでも足りないよ。本当はもっとちゃんと準備するつもりだったんだ」
しかし、向こうからいきなりやってくるなんて思いもしなかったからな。
王様は城の奥で隠れているもんだと思ってたんだよ。
完全に油断だったな。
「まあ、こうなっちまったものは仕方ない。今ある武器で戦うしかないだろ」
「逆境でも諦めることなく最善を尽くす。簡単なように見えて出来る者は少ない。やはり貴様は失うには惜しい人材だな。そこで提案がある」
「なんだ」
「望み通り戦争はやめてやろう」
「……!」
急な提案に、さすがの俺も驚いた。
「それはありがたいが、もちろんタダじゃないんだろ。代わりに何を要求する気だ」
「それは……」
帝王がもったいぶるように言葉を切る。
一体何を言い出すのかと次の言葉に意識を集中した、その瞬間。
──ギイィン!!
「だと思ったよ」
背後から現れた剣を、俺は振り返らないまま魔剣で受け止めた。
「……なに?」
さすがの帝王も動揺を見せた。
背後には誰もいなかったはずだった。
あるのは木だけ。
その木の枝が突然動き出し、まるで人間の腕のように剣を持って攻撃してきたんだ。
「俺が興味を示す話題で注意を引き、次の言葉を待つ隙に攻撃しようって考えだったんだろうけどな。悪いがこっちには、その手の行為に長けた奴がいるんだ。この程度なら簡単に見抜けるよ」
「それだけでは防げないはずだが」
「オイラがいるからナ。死角なんてないゾ」
パンドラが魔剣のまま声を上げる。
帝王がわずかに表情を動かした。
「先ほどから聞こえるその声。まさかその剣が話しているのか?」
「木に変身できるなんて思いもしない、と考えていたんだろうが、こっちには人間から武器にまで何にでもなれる奴がいるんでな。それくらいなら想定内だよ。
それに、お前は変身できるのに、戦いの時は必ず自分の姿に戻ってから攻撃していただろう。使い慣れた体の方が実力を発揮できるからでもあるんだろうが、奇襲目的のためにあえてそうしてるんだろうと思っていたからな」
帝王は攻撃の時には必ず元の姿に戻る。
それに変身できるのは人型だけ。
そう錯覚させたかったんだろう。
「なるほど。そこまで読まれていたか」
そう答える帝王の数が減っている。
やはりな。俺の読み通りだ。
木を人間のように動かすのは、本来ならあり得ないことだ。
あり得ないことをするには、相当な集中力が必要になる。
そこに意識のリソースを割いたため、分裂体の数を維持できなくなったんだろう。
──チャンスだ。
完璧とはいえないが、可能性としては十分。
元々まともに戦って勝てる相手じゃない。
リスクなしに勝つなんて不可能。
どこかで一度は賭けに出なければいけないんだ。
「そうそう、そういえばあんたはひとつ勘違いをしている」
「ほう。それはなんだ」
「俺を高く評価してくれるのはうれしいが、それは過大評価ってやつだ。俺がすごいんじゃなくて、俺の仲間たちがすごいんだよ」
一か八かの賭けに出るのなら、それは今をおいて他にはない!
「シェイド、頼む!」
「了解した」
どこからともなく淡々とした声が聞こえる。
そうして──
「……なにっ?」
帝王が動揺した声を上げる。
はじめは小さな音だった。
石と石の擦れるような音があちこちから響きはじめる。
それはやがて城壁が壊れる音に変わり、ついには大地が崩れる地響きを響かせはじめた。
立っていられないほどの激しい振動が襲い、大地は大きく横に傾き、内臓がひっくり返るような浮遊感が俺たちを包み込む。
今まで一度も慌てることのなかった帝王に、初めて焦りの色が浮かんだ。
「貴様、なにをした……っ!」
「決まってるだろう。悪い奴は最後には必ず地獄へ落ちるもんだ」
帝国中央にそびえる巨大な城が、地の底に向けて落下をはじめていた。
タイトルちょっと変えました




