ろくでもない男だったな
ミストが無表情のまま見開いた目をシェイドへと向ける。
よく考えなくても、ダンジョンマスターが目の前にいるのって相当やばいことだったかもしれない。
俺はもう慣れてしまったけど、魔王と呼ばれることもある人類の天敵だからな。
「驚くのはわかるが、シェイドは……」
「その力、もしかして<ダンジョンメイカー>のスキルではっ」
ミストが興奮したようにシェイドに詰め寄っていった。
シェイドが淡々と答える。
「そのスキルはなんだ」
「各地にあるダンジョンがどうやって作られているのか、議論されたことがあった。方法はわからなかったが、おそらくなんらかのスキルを持っているではと仮説が立てられた。それがダンジョンを自由自在に作るスキル<ダンジョンメイカー>だ」
怖がるどころかむしろ瞳を輝かせていた。
本当にスキルのことになると見境がないな。
シェイドも静かに答えた。
「スキルについては知らない。いつの頃からかダンジョンを自在に作る力を身につけていた。生まれた時には持っていなかったから、どこかで手に入れたのだろう」
「手に入れた。つまり取得条件がある?」
「わからないが、恐らくはそうなのだろう」
なるほど、とミストが興奮気味にうなずく。
「世界中のダンジョンをあなたが作っているのか」
「私が管理しているのはこの周辺だけだ。他のダンジョンは知らない。むしろほかにも同じようなダンジョンがあるのか?」
「ダンジョンは世界中にある。そのどれもが同じような構造をしている。誰かの手作りならもっと個性が出るはず。なのに一様となっていることから、スキルによる創造なのではないかと考えられていた」
そんな事まで考えられていたのか。
俺は全然気にしたこともなかったが、言われてみれば確かにそうだ。
ダンジョンとかなんのために作るのかわからないもんな。
シェイドは、モンスターたちが人間に会わずに暮らす場所を作るためだったようだが。
「取得スキルを確認してもいい?」
「構わない」
「スキルオープン」
ミストが所持スキルを可視化するスキルを使用する。
以前は俺もこれを使うことで持っているスキルを確認し、いつのまにか<奴隷化>のスキルを覚えていることを発見したんだよな。
シェイドが一体どんなスキルを覚えているのか。
それに興味はあったが、しばらく待ってもなにも表示されなかった。
ミストが表情を変えないまま落ち込んだようにしゅんとうつむく。
「忘れてた。これはモンスター相手には効果がない」
「そういえばステータスもモンスター相手だと見られないもんな」
「でも、モンスターであることが取得条件である可能性はある。ダンジョンはどこもモンスターの巣窟となっていること。人間がそういうものを覚えたという記録はないこと。それぞれを考えれば、可能性は高い」
「とはいえ結局仮説のままか」
俺としても、あのダンジョンを自由自在に作る力がなんなのか知りたくはあったんだがな。
だけどミストは嬉しそうだった。
「それで十分。<奴隷化>のスキルの実在が確認され、<ダンジョンメイカー>も存在するかもしれないことがわかった。どれも研究を大きく進める偉大な発見。やはりあなたと一緒にいてよかった。ありがとう」
ギュッと俺の手を握りしめてくる。
無表情な子が急にそういうことをしてくると、思わずこっちもドキッとしてしまうからやめてほしい。
もちろんミストはスキルのことについてのお礼のつもりなんだろうけど、ついつい勘違いしてしまいそうになる。
「はいはい、いつまでイチャイチャしてるんですかご主人様」
エリーが俺とミストを引き離した。
「今日はなにしにここに来たんでしたっけ」
そういえばそうだった。
「<奴隷化>のスキルについて調べに来たんだったな。だけど資料がほとんどなくてな。だからシェイドに奴隷王の話を聞きたいんだ」
「奴のスキルについて私はなにも知らないが」
「奴隷王がどんな人だったのかとか、そういう話をしてくれればいいよ。なにしろこっちはなんの情報もないからな」
「奴の話か……」
ミストとは違った意味で常に冷静で淡々としているシェイドだが、奴隷王について思い出そうとしている姿はどこか懐かしそうにも見えた。
「一言でいうと、ろくでもない男だったな」




