私はいつでもいいから
ミストがじっと俺を見つめてきた。
「本当に増えるのかどうか私と実際にやって試せばいい」
「………………それって」
そういうこと、だよな?
「さすがにそれは……。誰でもいいってわけじゃないし……」
「私は構わない。<奴隷化>のスキルを実際に体験するいい機会」
相変わらず無表情で淡々と話しているように見える。
顔からはなんの感情も読み取れないけど、ミストはカウンターの上に乗り上げるくらい俺の方へと近づいてきた。
「それにあなたはとても珍しいスキルを持っている。私としても好ましい」
というか異性としての魅力はスキルの有無だけなのか。
ミストらしいというかなんというか……。
「それともあなたは、私に魅力を感じない?」
「いや、そんなことはないけど。ミストはミストでちゃんといいところが……」
「ご主人様?」
「ひぃっ!?」
横からエリーの氷のように冷たい声が聞こえてきて、思わず悲鳴を上げてしまった。
「一体、なんの相談を、なさっているのですか?」
笑顔のままものすごく丁寧な口調で話しかけてくるけど、その背中から立ち上る負のオーラが俺には幻視できた。
というか奴隷モードで話しているということは、本当はもっとやばいレベルの罵詈雑言だったってことなんだろう。
強制的に行動を変えられているにもかかわらずこのプレッシャーとは。
相当怒っているのかもしれない。
「も、もちろんそんなことするわけないだろ」
「本当ですか?」
「もちろんだ」
「ふーーーーん」
顔は笑顔のまま、目だけが冷たく俺を射抜く。
これは信じてもらえてないな。
「残念」
後ろからミストの短い声が聞こえた。
と同時に、俺のズボンの後ろポケットに何かが滑り込んでくる。
これは、なんだ?
「店の鍵」
囁くようなミストの声がかすかに聞こえる。
「私はいつでもいいから」
「………………」
これは、エリーにバレたら殺されるやつだな。
その後なんとか説得してエリーの誤解も解けた。
ミストも無表情でうなずいている。
「無理にしても意味ない。同意が得られないのなら、私もしようとは思わない」
「そんなにあっさりと……。なんか怪しいわね……」
相変わらずエリーは勘が鋭い。
この話題が続くと俺の命に関わりそうだったので、さっさと話題を変えることにした。
「ミストも<奴隷化>のスキルについて調べてくれたのか?」
こくり、と小さくうなずいた。
「でも有益な情報は見つからなかった」
「やっぱりそうか。シェイドに話を聞いたほうが良さそうだな」
「他に詳しい人を知ってる?」
「昔、奴隷王の奴隷だったって奴がいるんだ」
ミストがパチクリと目を瞬かせる。
「奴隷王は200年前の人。その奴隷がまだ生きている?」
「まあ、説明するよりは実際に本人から聞いたほういいかな」
とはいえ、呼べば来るといっていたが、普通に名前を呼べばいいのだろうか。
「えーと、おーいシェイド、ちょっときてくれるか」
「どうした」
いきなり店の奥の扉が開き、そこから普通にシェイドがやってきた。
呼んだら本当に来たよ。
エリーも呆れ顔だった。
「なにアンタ。もしかしてずっと盗み聞きをしていたの?」
「離れていても主人の意思は感知できる」
よくわからないが声を聞いていたわけじゃないようだな。
ミストが表情を変えないまま、シェイドが現れた扉の方を見つめていた。
「どうして私の店から?」
そりゃ自分の家の中から知らない男が出てきたら驚くよな。
顔を見ても驚いているようには見えないけど、絶句するような気配は伝わってくる。
もともとミストは表情こそないが、話は普通にする方だからな。
その言葉が止まっている。相当驚いたんだろうな。
シェイドが出てきた扉の奥は、ダンジョンの入り口になっていた。
いつもの能力でやってきたようだ。
ミストもそれに気がつくと、店の扉へ走り寄っていく。
「どうして私の店がダンジョンに」
「なんというか、シェイドはこの辺りのダンジョンを支配していたダンジョンマスターなんだよ。だから自由自在にダンジョンを作ったり、入り口をつなげたりできるらしいんだ」
「そんな……」
ミストが今までで一番驚いた様子を見せた。




