新たな敵と魔道人形
フォレストウルフとキラーエイプたちのおかげで、森の食材はすぐに集まった。
集まった材料で手早く料理を作ることにする。
また鍋にしたかったが、同じ料理が続くとエリーが不機嫌になるからな。
今日はサンドイッチにしようか。
乾燥させたパンは非常食としても優秀だから、冒険の際にはいつも持ってきている。
適当に焼いて香ばしさを出した後、具材を挟むだけだから簡単だ。
作り方はものすごく適当なんだが<料理>スキルを取得したため、こんなんでも味もそれなりになる。
食事は生きる上での活力だからな。
栄養価が同じでも、携帯食と温かい料理とじゃ、やっぱり全然違うんだよな。
俺としては冒険中にこれだけ贅沢できれば十分なのだが、エリーはやっぱり不満みたいだった。
「サンドイッチってなんか手抜きじゃない?」
「料理人じゃないんだからそれくらいは許してくれよ」
「ま、そうね。及第点ってことにしてあげるわ」
エリーが許してくれるなんて珍しい。
やはり冒険を共にすることで寛容な精神を手に入れてくれたんだな。
なんて俺が感動していると、エリーがにやりと笑みを作る。
「さっさと料理人を捕まえて奴隷にしないとね」
「他人にやらせること前提かよ……。少しは自分でやろうとか思わないのか」
「料理は他人に作らせるものでしょ? なんでアタシが作らないといけないの?」
まるで、装備は身につけないと意味がないでしょ、くらいの当たり前さで言われてしまった。
もうすっかりそういう考え方が染みついているらしい。
やはり子供の頃から当たり前だったことは、そう簡単には変わらないらしいな。
もちろん奴隷として命令すれば強制的に作らせることはできる。
でも俺がしたいのはそういうことじゃない。エリーが自発的に作ってくれるようになって欲しいんだ。
そのためには、やはりこうして一緒に冒険を通じていくことで、少しづつでも変わってくれることを願うしかないんだろう。
今のところ、それこそ本当に少しづつではあるが、うまくいっているような気がする。
このままいけばいつかはエリーも普通の女の子に……。
………………なるかなあ。
「……なによ」
いつのまにかエリーの方をじっと見つめていたらしく、逆に睨まれてしまった。
「いや、なんでもないよ」
「なんでもないわけないでしょ」
「エリーはやっぱり可愛いなって思ってただけだ」
「んな……っ!」
エリーの顔が真っ赤になる。
「そ、そんな当たり前のこと、いちいち言わなくてもいいのよ……!」
「本当は?」
「可愛いと言っていただけでとてもうれしいですご主人様。……………………なああああああああああああああああああああっっっ!!!!!!!!」
自分で言って自分の言葉に照れている。
うーんこういうエリーも可愛いなあ。
そのとき、手首にはめたパンドラのリングが震え出した。
「ご主人! 何か来ル! 気を付ケロ!」
その言葉と同時に、地面が盛り上がる。
慌てて飛び退くと、地面を割って岩の拳が現れた。
そいつは地面に空いた穴のふちをつかむと、地上に這い上がってきた。
岩でできた巨大な人形が立ち上がる。
「ストーンゴーレム!? なんでこんなところに!?」
それはもはやモンスターですらない。
誰かが作り出さなければ生まれない魔道人形だ。
この地にはダンジョンを支配している存在がいると言っていたが、いよいよその存在を信じるしかなくなってきたみたいだ。
地面に空いた穴からはさらに2体のゴーレムが這い出してくる。
合計で3体のストーンゴーレムが現れた。
「ホネ、ニク! 先手必勝よ!」
エリーが真っ先に指令を飛ばす。
こういう切り替えの速さはさすがだ。
こういう時は頼りになるな。
単に戦いが好きなだけなのかもしれないけど。
離れたところで待機していた2匹のグリフォンが、エリーの命令を受けて飛来する。
そのままストーンゴーレムの1匹に狙いを定めて急降下した。
「クエエエエエッ!!」
グリフォンの一撃は岩さえも砕くのだが、ストーンゴーレムの肌にはかすり傷ひとつつかなかった。
ただのゴーレムじゃなく、魔法で強化されているのだろう。
「へえ、久しぶりに歯応えのあるのがきたじゃない!」
相手が強敵と知って、エリーがますます好戦的な笑みを浮かべる。
うーん普通の女の子からどんどん遠ざかっている気がするなあ。
戦闘は奴隷の情操教育にはよろしくない気がする。
戻ってきたグリフォンの背にまたがると、エリーが上空に飛んでいく。
任せても大丈夫そうだが、そうも言ってられない。
「パンドラ」
「任せロ!」
手首のリングが形を変え、漆黒の大剣、魔剣グラムに変わる。
こいつの扱いにも慣れないとけないしな。
取りあえず魔剣を上段に構え、そのまま振り下ろした。
スキルすら使用していないただの素振りだ。
ズバンッッ!!!
ただ振り下ろしただけの一撃なのに、離れたところにいるストーンゴーレム1匹を真っ二つに切り裂いてしまった。
それどころか真下の地面にまで巨大な斬撃の跡が残っている。
「やはり強すぎるな……」
扱いきれない武器は武器と呼べない。ただの凶器だ。
威力を調整できなければ、いつか味方も巻き込んでしまうだろう。
「モット弱い武器に変わるカ?」
「いや、それじゃ意味がない。もう少し練習しよう」
せっかくの強力な武器を、装備できないからと捨ててしまうような冒険者はいない。
装備できないなら、装備できるようになるまでレベル上げをすればいいだけだ。
仲間の一匹が倒されたゴーレムたちだが、それで恐怖するようなことはなかった。
まあ人形だからな。
感情なんてあるわけない。
むしろ俺を強敵と定めて襲いかかってきた。
巨大な岩の塊が走るのだから、その重量は相当なものだ。
一歩動くたびに地面が揺れている。
その拳を受ければ俺なんて一撃で肉塊に変わるだろう。
だけど俺の精神は冷静そのものだった。
「ふう────」
魔剣を両手で構え、呼吸を整える。
足の先から頭のてっぺんまで、全身の感覚をイメージする。
すでに有り余る力を持つこいつを扱うのに、これ以上の力はいらない。
必要なのはイメージだ。
そもそもこれは魔剣グラムではなく、魔剣に姿を変えたパンドラだ。
ならば剣ではなく、不定形の使役獣だと思えばいい。
魔剣からあふれ出す力の流れをつかみ、それを意のままに操る。
指先でなぞるように、切っ先をほんのわずかに揺らした。
「……よし」
手応えを感じて目を向ける。
ストーンゴーレムの体に無数の斬線が走り、バラバラになって崩れ落ちた。
それを見て、残った最後のゴーレムが足を止める。
さすがに実力差を感じたらしい。
恐怖からではなく、勝てない相手とは戦うなと命令されていたんだろう。
だけど、これまでのように奴隷になった感じはしなかった。
ゴーレムは生物じゃないからな。奴隷にはできないんだろう。
「ちょっとイクス、アタシの分は残しておきなさいよね!」
上空からエリーの声が響く。
見上げてみると、グリフォンにまたがったまま何かを投擲した。
それは狙い通りにストーンゴーレムの頭に命中する。
投げつけられたのは俺の剣だった。
うん、まあ、魔剣があるから確かに俺の剣はもういらないって言ったんだけどさ。
だからってさっそく投げるか普通?
「アイツやっぱり剣の使い方間違ってるじゃナイカ」
パンドラも呆れたようにつぶやく。
ちなみにストーンゴーレムの体に傷をつけられただけで十分すごいのだが、そのゴーレムは頭に剣を刺したまま平然と動いていた。
生き物じゃないから、頭が弱点って訳じゃないんだよな。
「なんで死なないのよ、うっとうしいわね!」
エリーの悪態が聞こえる。
どうやら俺がトドメを刺さないといけないらしいな。
パンドラをリングに戻し、目を閉じて意識を集中する。
一度感覚をつかんでしまえば簡単だった。
目を開けると、すでに攻撃は完了していた。
「……ご主人、一体何者ナノダ……」
「ん、なにがだ?」
「こんな攻撃方法、見たことがナイ……」
震えるパンドラの声が響く。
動きを止めたストーンゴーレムが、粉々に切り刻まれて砂のように崩れていった。




