仕事がないなら探しに行けばいいじゃない
冒険者ギルドを出て次にやって来たのは、職業斡旋所だった。
ここは冒険者ギルドとは違う。
あそこは冒険者が集まる場所だが、ここは職業を得るために様々な職業の人が集まる場所だ。
別の国では「はろーわーく」と呼ばれることもあるらしいな。
しかし。
「申し訳ありませんが、エリー様にご紹介できる仕事はありません」
断られてしまった。
簡単な仕事ならいくらでもあるはずだった。
受付とか、ショップ店員とか、街の清掃だっていい。
でも相手がエリーだというだけで拒否されてしまう。
そもそもこの街では、エリーの悪評が凄すぎてろくな仕事が得られないんだ。
それでも、選ばなければ仕事はある。
人々の汚い欲望のはけ口とされる仕事だ。
特にこの街は、周囲のダンジョンなどを目的に冒険者たちが集まることで発展した。
彼らを相手にした夜の仕事は普通の街よりも多い。
斡旋所でも同じことを言われた。
俺たちを担当してくれた初老の案内人はかなり親身になってくれて、だからこそ正直に答えてくれた。
エリーはこの街では嫌われている。
それでも仕事を得ようとするのなら、そういう仕事しかないだろう、と。
それを聞いたエリーは真っ青な顔になった。
自分の将来が想像できたのだろう。
プライドの高いエリーにとってそれは、死んだ方がマシと思える未来だったはずだ。
嫌な予感が頭をよぎる。
このままではエリーは自ら死を選ぶのではないか。
それは俺が望むことではない。
女神様もいっていたはずだ。エリーには普通の人生を歩んでほしいと。
街の人たちを非難する気はない。
それはそれできっと普通の反応なんだ。
ただ、他の誰がそれを望まなくても、俺だけは彼女の幸せを願ってあげたい。
それが幼馴染としてずっと一緒にいた俺の責任だ。
「何か方法はありませんか」
おれは案内人に頭を下げる。
隣でエリーの息を飲む気配が伝わってきた。
やがて案内人がため息をつく。
「この街ではどうすることもできないでしょう」
「……そうですか」
「だが方法がないわけではありません」
「……! それはいったいどんな方法ですか!?」
「この街に仕事はない。なら、隣街に行くしかないでしょうな」
「隣街、ですか」
「この街ではエリー様は顔も名前も知られています。どこにいっても隠れることはできない。でも隣街なら、名前と評判は伝わっていても、顔までは知らない人も多いのではないでしょうか。
それに隣がダメなら、さらに遠くの街でもいい。隣国に行くのもいいかもしれないです。いずれにしろ、この街を出るのが一番の方法でしょう」
言われてみれば確かにそうだ。
簡単なことだったが、思いつかなかったな。
「エリーもそれでいいか」
「ええ、もちろん。こんな街に未練なんてないわ。さっさと滅べばいいのよ。それに……」
痛烈に批判したあと、なぜか顔を赤くして俺から視線を逸らした。
「い、イクスと一緒なら、アタシはどこでもいいし………………ああああああああっ!!」
突然壁に頭を打ちつけはじめる。
自分の言った言葉が恥ずかしかったようだ。
そんなに恥ずかしいなら言わなければいいのに、と思ったが、聞かれたことには正直に答えるようにと命令したのは俺だったな。
だから正直に答えてしまったんだろう。
自らを傷つけることも禁止したはずだけど……、命令と本能で葛藤が生まれると、本能の方が優先されるのかもしれない。
頭を打ち付けるエリーを止めていると、男性がため息をついた。
「どうしたんですか」
「いえ……。お二人が街を出るのなら、私も引っ越しの準備をしないといけないなと思いまして」
「? どうしてです?」
「この街には周辺に複数の上級ダンジョンがあり、周りに生息するモンスターもレベルが高い。普通ならあっという間に襲われて壊滅してるでしょう。
それでもこうして発展できたのは、光の勇者であるエリー様がいたからです。高難度のクエストを率先して受けてくれましたから」
確かにエリーはクエストを受けるとき、一番難易度の高いものから順に受けていた。
その方が目立つし、光の勇者である自分には当然のことと思っていたようだ。
難しいクエストをクリアする奴ほど偉い、みたいな考えは冒険者はみんな持ってるからな。
「今までこの街はエリー様に守られてきました。それを分かってる者は少ないでしょう。エリー様は良くも悪くも強すぎましたからね。倒すことが当たり前になりすぎていたんです。
この街の冒険者でも周囲のモンスターたちは辛うじて討伐できるでしょうが、上級ダンジョンのモンスターは別格です。溢れるようになったら、ここはもうおしまいでしょう」
「ダンジョンからモンスターが溢れるって、そんなことあるんですか」
「ここのところダンジョンへのクエストが多くありませんでしたか?」
「そういえば……」
ついこの間もその上級ダンジョンへのクエストを受けたばっかりだったな。
クエスト内容も、深層に住むモンスターをなんでもいいから50体討伐する、といったものだった。
モンスターの素材でも欲しいのかと思ったが、言われてみればモンスターの種類も指定しないなんて、変なクエストだよな。
「あれは私たちが依頼していたんですよ。街に被害を及ぼしそうなモンスターを定期的に討伐していたんです」
「どうしてそんなことを」
「ダンジョン内ではモンスターが無限に増え続けます。中級程度のダンジョンなら問題ありませんが、上級ダンジョンは地獄に繋がると言われる危険な場所。溢れてくるモンスターも人類には対処できないものばかりです。特に最近は、なにやら不穏な気配がありまして。ダンジョン内でも何かいつもと違う兆候はありませんでしたか?」
「そういえば……地下25階程度の場所で、さらに深層にいるはずのレイスに出会ったな」
エリーが瞬殺してしまったため気にしていなかったが、よく考えればかなり危険な現象だ。
下層攻略にやってきたパーティーが出会ったら、あっという間に全滅していただろう。
「深層にいるはずのモンスターが下層にまで上がってきていることが、なんらかの異変が生じている証拠でしょう。やはり、ダンジョンの主人が怒っているのかもしれませんね」
ダンジョンに主人がいるなんて初めて聞く話だった。
「もとよりこの土地は人が住むことはできないと言われていました。なにしろ魔王が支配するといわれてましたからね」
「魔王が……」
確かにそういう噂はあった。
ダンジョンの最下層は地獄につながっており、そこには魔王と呼ばれる存在が住むと。
「ほとんどの冒険者は単なる噂だと思っているようですが、少なくともこの土地を支配する存在はいます。しかしエリー様のおかげで危険なモンスターは討伐されるようになり、魔王もダンジョンの奥に引きこもっていたのです。
ですが魔王がそんな状況をよく思うはずありません。ダンジョンの奥で軍勢を整え、やがて侵攻してくるだろう。そう思われていたのですが、どうやら本当にそうなりそうですね」
男性はどこか寂しそうだった。
「この地には財宝や素材目当てに多くの冒険者が集まるようになりました。冒険の最先端。夢と財宝の新天地。そんな言葉につられて、一攫千金を狙う冒険者が集まることでこの街は急速に発展しました。
私のように、初期からこの街にいた冒険者はエリー様の功績を知っています。ですが後から来た冒険者たちは知らないでしょう」
「ああ、なんか見たことある顔だと思ったけど、やっと思い出したわ」
エリーがおじいさんの顔を見てつぶやく。
「最初にこの街にきたときに、そういえばまとめ役とか言われてた気がするわね。女子供は帰れとか言うから殴って黙らせた気がするけど」
「なにしてるんだエリー……」
思わずあきれてしまった。
「はは、いいんですよ。当時は街とも呼べない荒くれ者の集まりでしたからね。力のある者が一番偉かったんです。私もそれなりに自信がありましたが……まあ、世界は広いということを思い知らされましたな」
いわれて俺も思い出した。
エリーにつき従ってこの街にきたとき、もともとこの街にいた冒険者たちと大乱闘になったんだった。
エリーが誰かを殴っただとか、トラブルを起こしたなんて当たり前のことだったから、いちいち気に留めていなかったんだが。
ほんの数秒で全員を倒し、次の日からはまるで女王様のように扱われた。
あれのせいで横暴な性格に拍車がかかった気もするな……。
気に入らない奴がいたら殴って従わせればいい的な……。
光の勇者が新天地に現れた。
それが噂となって人々が集まるようになり、いつのまにかこんなに大きな街になったんだ。
「懐かしいですなあ。当時は楽しかった。まあ、自分の身の丈を知ったおかげで、今ではこうして隠居の身ですがね」
「なんか、すみません……」
エリーに変わって俺が謝る。
おじいさんは笑って流してくれた。
「ははは、気にすることはありませんよ。エリー様は優しかったですからな」
「えっ? 優しい?」
これが?
「なにしろ見せしめのため魔物の餌にしたり、報酬を横取りするために仲間を殺したりしませんでしたからな。抗争もなくなりましたし、エリー様がきてからは平和そのものでしたよ」
「ふふん。そうでしょうそうでしょう。なにしろアタシ勇者なんだから」
得意気に胸を張っている。
まあエリーは性格に問題があるだけで、悪人ではないからな。
まがりなりにも一応光の勇者だったということだろう。
女神様に見過ごされていたのも、なんだかんだでちゃんと活躍していたからなのかもしれないな。
「エリー様がいなくなるのでしたら、この街も終わりですな。寂しいですが、それも運命なのでしょう」
初老の男性が感慨深げにつぶやいた。




