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第七章 兵士と狩人は似ているようでまったく違う

「なるほどね、こういうことかよ」

ずりずりと重さ一トンもあるトラの体躯を背中に背負いながら、俺は森を抜けていく。

仲間が狩られたことにより、トラたちは俺たちを危険と判断したらしく、いつしか森中から向けられていた視線が嘘のようにぱったりと一つ残らず消えうせ、その中を悠々と帰路に着くカザミネを追いかけながら、俺はトラを引きずっていく。

「いやー、トラは重いからねーたすかったっさ」

「こんなもの、犬ぞりでも使えばいいだろうに」

「うちのところのわんころは臆病者でねぇ、トラのにおいなんてかいだら怯えて一歩たりとも動けなくなっちまう訳なんさよ。だから毎回自分の足で赴いてるんじゃないかいシンクン」

「俺は犬ぞりの代わりか」

「うん」

こいつ、あっさりと答えやがった。ここまであっさり答えられると怒る気もうせてしまう。

まったく。

「しかしシンクン、少しは見直したかね?私の勇士!」

「ん?あぁまあな……お前が口だけではないということは十分分った」

「ふっふっふ、そうだろうそうだろう」

「この極寒の地で生きて行くためには、相応の力が必要なんだな」

「そうさね、狩人っていうのは毎日生きるか死ぬかの瀬戸際をちょちょいと歩いて生きてるわけっさ、長生きしたいならそれ相応の技術を身につけなければならない。この食物連鎖の枠に無理やり飛び込んでいるんさよ」


「……上手くなればなるほど、明日生きていられる確立があがる……か。生きるために殺す技術を学んでいるという点では、狩人も兵士も変わらないのかもな……」

そうなんとなしに俺はそういうと。

「それは違うさ……大違いさよ」


カザミネはそう、言い切った。

「?なにが違う?」

「……簡単なことっさ……兵士は仲間を殺す方法を学ぶ、狩りは獲物を殺す方法を学ぶ。後者は、自然の摂理さね、仕方ないことっさよ……でも、前者は違う」

「……何が言いたい?」

「人を殺すことは、本当に生きるために必要な行為なのかい?」


答えはノーだ。

誰だって知っている。そして自然界のすべての生物が知っている。

生きるために行い、生物を殺す行為は捕食という。

だけど、戦争は捕食のための行為ではない。

そのほとんどが、迫害を元に行われている。


気に入らないから殺す。 根絶やしにする。


考え方が違うから、とりあえず殺す。


お金が欲しいから殺す。

人が人を殺す理由の大半がこれだ。

少なくとも、今世界中で起こっている戦争の大半は、これが理由である。


宗教や、政治、そして復習などはすべて……自分の行為を正当化する言い訳に過ぎない。

人間の本質は破壊である。

何から何まで破壊して、何から何までを殺しつくしたくてしょうがないのだ。

それを俺は、嫌というほど見てきた。

そんな奴らを俺は……必死に救ってきた。

「兵士には正当性なんてない。 戦争に理由なんてない。人間の本質は平等さね……破壊して、犯して……何でもかんでも人にとってはおもちゃになるっさ……たとえそれが、人間の命だとしても」

「カザミネ……」

その表情は何かを憂いているようで……何かを思い出したかのようでもあった。

「…………ん!?あれ?私何いっちゃってるんさね? あらららら?戦争なんていったこと無いのに?」

自分の発言にきょとんとしながらカザミネは顔を少し赤らめて照れ笑いを浮かべている。

「何か思い出したのか?」

「いやぜんぜん!?気にしないで欲しいっさシンクン!なーに私は語っちゃってるんさね!」

顔を赤くするカザミネであったが、その表情に張り付いた影は消えることなく、俺は少しだけカザミネの過去が気になった。


失われた記憶の奥底に、カザミネは一体何を抱えているのだろう。


思い出したくない……そう語ったカザミネは本当は本能的に自身に抱えた闇から逃げようとしていたのではないだろうか。


「本当に恥ずかしい奴だな」

「んな!?なんか自分でいうのはいいけど他人に言われるとむかちんくるっさね!」


……だったら、俺は少しだけあの言葉の真意は気になったが、あえて過去という言葉には触れずに、いつものカザミネの冗談として取り扱うことにした。


それをカザミネが望んでいるように見えたから。


                  ■


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