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第七章 未来視


「シンク……シンク!」

「……?」

目を覚ますと、そこにあるのはズームアップされたタンポポの花と、そこから顔をのぞかせる赤と黒の色で構成された円状の昆虫がいた。

「うわあ!?」

「あはは、どうしたの?」

どうやらこの犯人は、天道虫の存在は認識していなかったらしく、タンポポの花を見てから。

「ぎゃっ!?」

小さな悲鳴を上げてタンポポを放り投げる。

「何してんだよミコト」

俺は少々悪態をつくように起き上がり、目の前の黒髪の女の子を助け起こす。

「あ、ありがとう」

この前であった目隠しをした少女は、包帯をとても幸せそうで、怖いものが見えてる様子も無い。

「ん?どうしたのシンク」

「え!?ううんなんでもない」

いったい何が見えていたのだろうと気にはなったが、もしそれがお化けだったらどうしようと思い俺はミコトにその真意を聞くことができないでいた。

「今日はボール遊びしよっか!お母さんが買ってくれたの」

「やった!じゃあ……」

「サッカーでしょ?」

「そうそう!なんでわかったの?」

「えへへ、私は君のことならなーんでも知ってるから」

誇らしげに笑うミコトは、確かに俺の事を何でも知っていた。そのためか、気づけばすぐに仲良くなっていた。

近所の子供たちは、ミコトのことをはじめは変な目をしてみていたが、俺は気にしなかった。

ミコトはミコトだ。少し意地悪なところも歩けど、すごい幸せそうに笑う俺が始めて救った女の子。……たぶんそれが誇らしかったから、俺は一緒に居る。

「それー」

「あ!?ちょっと」

ミコトの思いっきり蹴ったボールは公園をころころと思ったよりも早く転がり、俺は取れずに公園の外の道路へと転がっていく。

「ちゃんと蹴ろよー」

「ごめんなさい」

まったくーと笑いながらボールをとりに俺は走っていき、道路に転がっているボールを見ながら道路へ出ようとすると。

「シンクー、一回止まってー」

不意にミコトが俺に声をかけ、俺は一度道路の前で止まる。

SE

巨大な車が自分の目の前を通り過ぎていき、ごくりと唾を飲む。

たぶんミコトが声をかけていなければ、俺はあの車に引かれていただろう。

寒気を覚えながら俺は道路から車が来ていないことを確認した後、ボールを持ってミコトの元へと戻る。

「ミコトが声をかけてくれなかったら死んじゃってたよ、まるで車が来てたのが分かってたみたいだね」

「ええ、分かってたわ、言ったでしょ?あなたのことなら何でも知ってるって」

「本当!?」

「本当よ」

「……死ぬときも?」

突拍子も無いそんな質問。


「シンクは死なないよ」

「なんで?」

一瞬ミコトは伏目がちになった後、子供ながらに聞いたくだらないこの質問に対して。

「―――――――」

と言った。

                    ■

「む?」

規則正しい目覚めをする俺は、決まって起床は四時二十分、

父親の死んだこの時刻にきっちりと目を覚ます。

しかし、この目覚めに関して

俺はまず一つに疑問を持つ。

「明るい」

日が差し込んでいるわけではないが、窓の外から入ってくる光は人口のものではなく、自然のものである。

どうやら現在は午前ではなく午後四時二十分のようだ。

「……昼寝?」

なわけは無いな、倒れているのは床で、そもそも昼寝をする理由が無い。

となると、第三者によって気絶させられていたというのが正しい認識なのだろうが、敵であれば気絶させるなんて生半可なことはしないだろうし……。

「はて?」

とりあえず社の天井を眺めながら記憶の糸を手繰り寄せる。

「確か、折れた安綱を見ながらファントムへの対抗策を考えて」

右手を見て、周りを見る。

「……ない」

安綱が跡形もなく消えていた。

「んな!?なんじゃこりゃあああ!」

なな、なななな!?せっかく親父の形見を見つけて長山の奴から取り戻したのに。

へし折った上になくしてしまうなんて!?どこやった!?いや、誰が持っていった!?畜生、犯人には神の鉄槌を。

「うるさいわねぇ、どうしたの守護者さん。発情期?」

「どうしたもこうしたもない!俺の安綱が」

「安綱?ああ、あの折れた刃物かしら?」

「そうそう、そうだ!何か知ってるのか」

「びっくりしたわ本当に、あなた刀もって倒れてるんだもの、一瞬自決でもしたのかと思ったわ、本当、人騒がせなんだから」

「知ってるのか?どこにある」

「捨てたわよ?」

一瞬、俺はその言葉が理解できずに硬直し。

「んな!なんだとおおおおおお!」

理解したときには俺の中のいろいろなものが爆発する。

「だめだったかしら?」

「おまっ!?ふざけるな!?あれは親父の!?」

「桜ちゃんより大事なもの?」

怒りに任せて声を荒げる俺に、ミコトはなぜか用意していたようにそう冷たく言い放ち、俺はわれに帰る。

「……!?」

「あなた、折れた刀なんかよりも桜ちゃんのことを優先すべきでしょう?あんなもの眺めてたって、いい打開策なんて思いつかない……そうでしょう?醜く過去に追いすがって、本当に大切なものを失うのは真の愚か者よ?刀は折れた、故にあなたはその銃と知恵であの怪物を倒さなきゃいけないの。そんなこと分かってるでしょ?」

「う……そうだが、しかし」

「しかしも案山子も無いわ、嘆くのも、痛むのも、すべては当主さんがすべてを取り戻してから、分かった?」

「……ああ」

俺は短くうなずき、自分を恥じる。

ミコトの言う通りだ、今この状況で折れてしまった物の事で悩んでいる暇なんてないはずだ。

「うむ、分かればいいわ。しっかりしてね守護者さん。あなたは私の光になったみたいに、桜ちゃんの光でもあるんだから」

ミコトはそういうと相変わらずの悪戯っぽい笑みを浮かべて大げさに浅葱色の振袖を優雅に揺らした後。

「!?」

そっと俺の前髪を掻きあげて、俺の額に口づけをする。

「なっ」

「ふふ……幼馴染なんだから、これくらい挨拶代りでしょう?」

「あ、な、であ?」

ミコトの少し柔らかくてしっとりとした感触が俺の額から神経に伝わり、心臓がオーバーヒートを始める。

「ふふ、まったく、初々しいんだから……でも、これぐらい許してね?私これから頑張るんだから」

ミコトが何を言ってるのかは分からず、脳もすでに考えることをやめている。

「ふふふ

じゃあね守護者さん。桜ちゃんが帰ってくるまでにそのお間抜け面直しておきなさいよ?」

「ほ、ほっておけ!からかうなって言っているだろう」

「ふふ、言ったでしょ?友情の証よ、気にする貴方が変なのよ?思春期だから仕方ないのかもしれないけど」

「誰が思春期だ!」

「おお、怖い怖い。じゃあねえ」

ばたりと扉が閉まり、俺はやれやれとため息を一つついて額をなでる。

本当に、昔から人をおちょくるのが好きな奴だ。

そんな懐かしい思い出を呼び覚ましながら。

「あーあ、まったく」

なんだか疲れてしまったが、むかつくことに血行が良くなったせいか、打開策が思いついてしまった。

あいつのおかげというのがとても腹立たしいが。

とりあえず俺は立ち上がり、誘惑するベッドを無視して立ち上がり、廊下へと出る。

外は猛吹雪……なら、丁度いい。

罠を隠すにはピッタリの気候だ。


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