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第七章 カウントダウン

「はー……楽しかった!」

それからしばらくたって時刻は午後十八時。

あたりは夜の帳がおりはじめ、空には輝く星と月が伺える。


桜は満足げに一つ伸びをしたあと、手に持った洋服の紙袋を満足そうに見つめ。

「……桜、いくらなんでも買いすぎだ」

俺は両手に抱えたビニール袋の山を見て文句を一つ垂れる。

「……えへへ」

「えへへじゃない……どこの世界にゲームショップのゲームをを買い占める奴がいるんだ」

「ごめんね真紅」

「まったく」

一時間前に訪れたゲームショップ。

中古のものを多く取り扱っている専門店だったらしく、そこは古きよき時代のドット絵のものから、最新のものまで多く取り扱っており、その量も質もどうやら桜のおめがねにかかっていたようで、桜はなんと、ゲームの陳列してある棚の端から端までを丸ごと購入した。

当然、ゲームのディスクだけではなく、特殊なコントローラーや周辺機器、そしてハードも込みである。


そうなれば、さすがの俺の術式も完全にキャパシティーオーバーであり、総重量百キロを超えるゲームの山を冬のロシアにもかかわらず汗を流しながら車まで運ぶ。


「……ありゃ?まだジハードさん居ないみたいだね?」

「まぁ、まだ帰る時間じゃないからな」

車の元へともどると、当然ながらジハードはまだもどっておらず、俺は桜から車のキーのスペアをもらってトランクに山のような荷物を詰め込む。


うむ、さすがは冬月家御用達のリムジンだ……あれほど山のようにあったゲームがすんなりと腰を落ち着かせることが出来ている。


「やれやれ」

俺はそうつぶやいて車のトランクを閉じ、鍵をかける。

駐車場ということも会ってか、あたりは暗く、少しはなれたところに町の明かりが見え、星の光を映し出しているようだ。

「さて、そろそろライトアップの時間か?もどるとするか?」

当たりも暗くなってきているし、ライトアップするには丁度いい時間帯のはずだ。


「ううん。町にもどると明るすぎるから……ここで、君と二人で劇場は、ライトアップのあとからでも間に合うから」

「……」

町の光に照らされ、振り向きざまに恥ずかしそうに口元を緩ませながら、桜はそんなことを言ってくる。

「いや?」

上目遣いでそうたずねる桜は、まるで子犬のように可愛らしい。

こんな表情……反則だ。


「い……嫌じゃない。ここで見よう」

いつの間に桜はこんな表情をするようになったのだ?

いつもの子どものような天真爛漫を絵にかいたような喜怒哀楽の表情ではない……大人の甘えるような仕草。


こんな表情されたらどんなに嫌でも断れない。

……悲しきかな、なれない俺の心臓は案の定、桜のそんな上目遣いに射抜かれてしまったらしく、滑車を回すハムスターよろしくそんなに血液を循環する必要も無いのに無駄に高速回転を続ける。

「……たしか、ライトアップは……あ、六時からだ」

しかし、桜は俺の心臓をここまで故障させたという自覚は無いらしく、腕時計を見て一つ声を上げる。

「ってことは、後二分だね。結構のんびりしてたから危なかったね~」

「そうだな」

時間の経過は遅い。

たった二分という短い時間が、まるで時が止まったかのように長く……俺と桜は車に背中を預けながら二人、町を見つめ続ける。


心臓は依然早鐘のように鳴り響き、隣に居る桜も同じなのか、せわしなく俺の顔を見たり時計を見たりと忙しそうだ。


なんだか、そんな桜の行動に俺は少しだけほっとする。

なんだ、緊張していたのは俺だけじゃなかったのか。

「な!?何かな!?なんかバカにしてなかった今私のこと!」

「え?いや、そんなことはないが」

桜はその俺の微笑を嘲笑と取ったのか、少し困ったような怒ったような表情をして頬を膨らます。


やれやれ、どんな行動をとっても可愛い奴だ。

「ほら、そんなくだらないこと気にしてないで、そろそろライトアップじゃないか」

とりあえず俺は桜を適当にあしらい、そっと町へと桜の視線を誘導する。

桜は何か言いたげな顔でこちらをにらむが、しばらくすると諦めて町へと視線を移す。

やれやれ、随分と桜の扱いにもなれたものだ。


町はすでに闇に包まれはじめている。

きらびやかな宝石のように輝いていた電灯は、闇に溶け込むようにひっそりと輝きを失っていき、一つ、また一つと照明が消えていくたびに、照明の光度を下げていくかのように俺たちの体は闇へと飲まれていく。

ライトアップの為に全ての照明を消した為か、町は明かり一つ無く、次第に近くに居る桜の顔でさえも見えなくなる。

もともと田舎ということもあってか、明かりを消した町は本当の闇が舞い降り、夕方から厚い雲に覆われた空は星一つなく、本当の闇夜が訪れる。


「十」

術式の効いた目で時計を見ると、後十秒を切っていたため、瞳の術式を切る。


闇を利用した演出ならば、無粋なまねをして感動を自らそぐというのはあまりよろしくは無い。

「九」

隣に居る桜が、そっと俺の手を握る。

「八」

一陣の風が吹き俺は心臓の鼓動を抑えながらそっと桜の手を握り返す。

「七」


「六」

町が騒がしい。

きっと、ライトアップに人々が沸き立っているのだろう。


「五」

「四」


ふと気づく。

「三」

何かがおかしい。

「二」

風によって流れてくるにおいは、桜のにおいと町の排気ガスの匂い。

しかし。

その中に、大量の血のにおいがまぎれて迫る。


このにおいは……覚えている。

これは。

「一」



            其は、亡霊の如く不確かな。


              淡い、血の匂い。


それはまるで……死 そのものであるような。

「桜!!」

瞬間、俺は跳躍する。

「ゼロ」



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