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第六章 真打・童子切安綱

心臓が高鳴る。

体の損傷は大きいが、幸いにも駆動部位は無傷。

敵は強大であり、目前に迫るが。

それを無視して、意識を凍結し……神経接続を開始する。

敵……到達まで約0、75秒。

間に合う確率は五分だが……そのような思考は破棄し、いつもと同じように左腕を刃に食らわせる。

……一つ。

神経がつながり、脈動が走る。

回路が焼切れるように回転をし、自らの脳は体内に侵食した異物を排出しようと警鐘を鳴らす。

血液が逆流し、視界は暗転しそうになる。


二つ。

脳の警鐘を無視し、左腕の侵食を続ける。


神経が引きちぎれる音がする。 骨が溶解する様な音がする。

血液が沸騰する様な痛みが走る。


……俺を飲み込まんと、闇が全身を這いずり回る。

三つ


侵食を停止。

同調を停止させ、全神経、侵食部位の修正を開始。

同時に。

……侵食した術式の主導権を強引に奪い取る。

最速を意識。 荒くてもいい。 修復作業を二十パーセント停止。

主導権取得七十%……今はあの一撃を防げれば良い。

不安定な術式施行。

……肉体ダメージ……甚大。


「知ったことか!」

出力八十%!十分だ、残りはおいおい修正すればいい!

             「術式!解放!!」

「GRUAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!」

迫りくるは覇王の軍勢。

「標的補足!!」

一にして千の破壊力。

故に、この一撃は、一振りにて千を殺す鋭さを誇らなくてはならない。

迫りくるは、百戦錬磨の侵略者。


拡散し、分散し切り刻む。

一つでは足りない五、いや、十だ。

一閃。一挙一動で最速を持ってして、敵に十の斬撃を叩き込む。


「鬼神は我が体を貪り唸る」


術式が起動し……全身の行動能力をすべて迎撃に使用する。

 


ミシリ……という音がする。


骨が砕け、全身がマヒをする。


だが、それでも止まりはしない。


全身が壊れ、魂は悲鳴を上げながら瓦解する。


だがその尽くを強引に術式がツギハギだらけの修復をし、壊れては修復を繰り返し、全身は血で染まる。

「バカな!」

その血を吸って刃は楽しげに速度をまし、鋭さを吊り上げる。


五つの斬撃……全身は既に死に絶え、不完全な同調により全身から血をふきだしながら五つの斬撃は、ゼペットの拳に宿る英雄を消滅させて。

「童子切・安綱!!」

ゼペットの驚愕も、英雄たちの刃が自らの方と腹部と頬を穿ったこともすべて頭には残らない。

あるのは一つ。

桜を守るため、残った斬撃をゼペットに叩きつけること。

五連。

「!?」


                    ◆



振りぬかれた刃の一閃は、確実にゼペットの体に牙を食いこませ、赤き鮮血を舞わせる。


……破壊力は絶大であり、数千の軍勢を五度の斬撃でゼロにし、後方にそびえる木々を刈り取り、周囲の雪を霧散させる。


数千の英雄を、不知火真紅は一振りでゼロにしたのだ。

だが。

「掠っただけか」

その刀身を鞘に収め、真紅は苦々しげに表情を歪める。

「……なるほど、鬼神の首を斬り落とし呪われた刃か……本当にお前は、正義の味方という言葉が似合わんのぉ」

ゼペットは愉快そうに笑いながら、切り裂かれて鮮血をまき散らす自分の肩の血を止める。

「……だが、その体ではそう長くは持つまい?一度振っただけでもう全身にガタがきているではないか」

「……だからこそのこのコートだ……最上位の治癒術式を付与している。壊れたものは修理すればいい」

「ハッタリはよせ、確かに最上位の術式ならば、その一時だけ体をだますことは出来よう。

だが、いかにツギハギで修理をしようと、完全に壊れてしまえば行き着く先はスクラップ……その術式がどの程度の物かは知らんが、最大で保って残り五分と言った所だ」

「……」

不知火真紅は内心で舌打ちをする。

ゼペットの言う通り、コートの治癒術式はあくまで傷の部位に術式によって編まれた代用品で自然治癒するまで壊れた部分の代わりをすると言ったもの。

だが、治らないところまで破損すれば……動かなくなるのは当然の結果。

一時的に回復するだけで、怪我がなくなったわけではないのだ。

故に。

「要するにこういう事よ……現段階では、貴様が倒れる前に我を殺すか、それとも我が死ぬ前に貴様の命が果てるか……そういう戦いぞ」

ゼペットは冷静に状況を分析して、拳を構える。

先ほどの斬撃は、もはやダメージに数えられないと言わんばかりに放たれる覇気。


そこに衰えも波紋も見ることはない。

 

「……お前こそハッタリはよせ、ゼペット。すべての英雄がお前とリンクしているとはいえ、一振りで全員切り捨てられたなら、俺の動きを見切ることは不可能だろう?これでお前の奥義は完全に封じた……速度も、威力もすべてにおいてこの刃はお前を上回る……お前にもはや勝ち目はないし、お前の首を落とすのに五分もかからない」

だが、真紅はそれに対してただ冷静に、抜刀の構えを取る。

「ふ……ふふは……ふはーっはっはっは!確かにのぉ、今の我では五分もかからずに貴様にこの首をやることになるだろうのぉ。 だが……」

「!?」


「言ったであろう?残心と敵付は……剣術の用語であると」


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