第五章 思い違いですれ違い
ふと私は目を覚ます。
眠れない。
ミコトの部屋へと向かった深紅を送り出したのは良いが……どうしても気になってしょうがない。
別に私とシンくんは友達同士なのだ。 だから、彼が誰と付き合おうと、誰と愛し合おうと心から祝福するのが当たり前。
だというのに、私はシンクンがミコトと二人で愛し合う姿を想像するだけで、心臓が握りつぶされるほど苦しい。
……なんで?
私のこの感情は偽りだ。
だからこそ、私は彼らの仲を応援したい……。
そういくら心の中で自分に言い聞かせても、私の体は言うことを聞いてくれそうに無く。
何度も何度もベッドの中で寝返りを打ち、真紅がいつも座っている椅子を何度も何度も見る。
「……真紅……」
名前を呼んでも返事はない。
何を私はこんなにもあせっているのだろう。
彼は私のものではないのに……。
ミコトも真紅も友達なのに……なんでだろう。
私の横隔膜から心臓にかけてもやもやした黒いものが這いずり回って……二人の仲がうまくいかないことを望もうとして、そんな想像を慌てて振り払って。
その繰り返し。
もう……何なのよ私は……。
分からない。
壊れ始めているのだろうか?
分からない。
何もかも分からなくて、不安だけが私を駆り立てる。
もう、いっそのこと二人が愛し合っているところを見れば諦めがつくというのだろうか?
はぁ。こうやってベッドの上でごろごろしているだけでは拉致があかない。
こうなりゃやけだ。
……それで真実を見せ付けられたとしても……私はきっと納得できる。。
「……確か」
部屋は一階の浴場近くだったはず……。
そう思い立ち、私は隣で惰眠をむさぼるもう一人の護衛を起こさないようにそっと部屋の外へと出る。
廊下の光に一度眼を細め、とりあえず私はあたりを見回してこそこそと自分の家を歩く。
なるほど、この緊張感。これが泥棒さんの気持ちか。
そんなことを考えながら私は軽いスニーキングミッションを楽しみながら、こっそりとミコトの部屋の前までやってくる。
と。
「……ごめんなさいね」
ミコトと真紅の話し声が聞こえる。
ずきりと心臓が痛み、私は気がつくとドアに耳を押し当てて二人の会話を聞く。
「……桜ちゃんに怒られちゃったわね。ちょっとからかっただけなんだけど、まさかここまでとは思わなくて、後で誤解は解いておくわ」
…………。
■
俺はそっとミコトの部屋から出る。
と。
「む?」
誰かがいたような気配がする。
一応あたりを見回してみるが、人の気配は無い。
敵か?
俺は銃を抜き、警戒をする。
「あーー、イー湯っさーー!」
浴場のほうから、カザミネの無駄に馬鹿でかい音が聞こえる。
なんだ、カザミネか。
俺は一つ胸をなでおろし、ため息を一つついて自分の部屋へと戻っていくのだった。
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