二章
翌日。二人は学内の食堂に居た。
「おい、巧。良いバイトってなんなんだよ」
「まあ待て。もう少ししたら依頼主が来るはずさ」
「依頼主?」
三島の含んだ言い方に、桃原は眉をひそめた。
しばらくすると、その言葉通り、一人の男が桃原と三島の座る席にやってきた。
「どうもー」
「おう、砂川。待ってたぞ」
「ごめんごめん。課題に手こずっちゃってね」
砂川と呼ばれた男は、笑みを零しながら二人の正面の席に腰を下ろした。
桃原は三島の腕を肘で突き、説明を求める。
「ああ。二人は初対面だよな? こいつは同じ学部の桃原浩太。で、そっちは俺と同じ高校出身で、医学部二年の砂川正也だ。
「医学部!?」
どうりで佇まいが落ち着いているわけだと、桃原は思った。モデルが着そうなカジュアルな服を着こなしているのも頷ける。
「よろしく」
「あ、こちらこそ」
桃原はかしこまって頭を下げた。
「で、バイトの話だが、内容を簡単に言うとだ。浩太の部屋に、砂川が荷物を置かせてほしいんだと」
「荷物?」
「ほら、医学部は大量の本を読まなくちゃならないだろう? でそれが嵩張ってきてるんだと。な?」
砂川は頷く。
「うん。僕はトイレと風呂が別々じゃないと我慢出来なくてね。それを第一条件で選んだら、リビングが思いのほか狭い部屋だったんだ。最初はそれでも良かったんだけど、医学書やレポートが増えるにつれて、置き場所が無くなってきちゃってね。あまり読まない本も沢山あるんだけど、かと言ってそれを捨てるわけにもいかないし。レンタルのトランクルームみたいなのも探したんだけど、場所と値段の折り合いがつかなくてね」
「で、お前のオンボロアパートの出番ってわけさ。徒歩五分以内なら、必要になっても連絡入れれば、大学の帰りとかに取りに行けるだろ?」
「オンボロは余計なんだよ……」
「とにかく、要は浩太の部屋のスペースを荷物置き場として借りる代わりに、賃料をくれるってわけさ。これならお前が昨日言ってた、何もしなくても金が入ってくる方法になるだろ?」
確かに、それで金が貰えるなら、願ってもない申し出ではある。
「まあ……話は分かった。俺の方は全然オッケーだよ」
砂川は、良かったと言ってアイドルのような笑顔を見せた。
「でも、正直、うちのアパートってセキュリティの不安が否めないけど……その点大丈夫なの?」
「うん。分厚い医学書なんて盗む奴はそういないだろうし、大丈夫だと思う。預けたいのは重要度の低い物だし、仮に紛失しても、買い直せないわけじゃないからさ」
「……なるほど」
「それで、量なんだけど、とりあえずダンボール五箱でどうかな? サイズは……外寸合計で百二十くらいのやつ」
「外寸合計って?」
「箱の縦横高さを足した数字のことだ」
首を傾げる桃原に、三島が助け舟を出す。
「そうなのか……。でもそのサイズが実際どれくらい入るのかとか、ピンと来ないな」
すると砂川は、ブラウンの髪を掻き上げ、斜め上へ視線を向けた。
「うーん、そうだなあ。ニリットルのお茶のペットボトルだったら、20~25本分くらいかな? まあ、重さはそこまで無いと思うけどね」
桃原はそれを頭の中でイメージする。
「それを五箱分、か」
「うん。金額はいつでも取り出せるという条件と、大学に近い立地を鑑みて、一箱八百円として、一ヶ月、五箱四千円でどうだろう?」
「四千円も!」
その額を聞いた桃原は、二つ返事で了承すると、砂川、三島の意見を参考にしつつ、細かい契約事を話し合って決めた。
報酬は、預かる際に金額の半分を前金として受け取り、一ヶ月経ったら、もう半分を翌月の前金と合わせて受け取るというやり方にした。因みに、途中で箱の中身を傷つけたり、紛失してしまった場合は、その月の前金を返すということになる。
今回は桃原の生活が逼迫しているということで、例外的に全額を前払いで貰うことになった。
「で、荷物はどうやってウチに? 宅配?」
「もう、あらかた纏めてあるし、自分で運ぼうかな」
そこで三島が口を挟んできた。
「小遣いくれるなら、俺が運ぶの手伝うぜ。実家に軽トラもある」
「ちゃっかりしてるなあ。そんなに出せないけど、いいかい?」
「もちろん。小銭でいいさ」
こうして、その日のうちに、桃原のアパートには五箱のダンボールが運ばれることとなった――。




