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一章

 大学二年生の桃原浩太ももはらこうたは、五月晴れの天候とは打って変わり、学内キャンパスのベンチで肩を落としていた。

「あ~あ。なんか良い実入りねーかなあ……」

 大学に入ってから競馬にはまってしまった桃原は、レースで頻繁に散財を繰り返していた。昨日も、絶対の自信を持って挑んだ大勝負を外したことで、生活費を失い、窮地に陥っていたのだ。

 その時のショックが何度も脳裏に浮かび、思わず溜め息が出る。

「お、浩太じゃねーか」

 ふと自分を呼ぶ声に顔を上げると、ラガーマンのような、がっしりとした体型に、黒いTシャツ、ジーンズというラフな服装をした短髪の男が、桃原を見おろしていた。同級生の三島巧みしまたくみだった。

「巧かよ……。悪いけど、今相手する気力ねえんだ」

 桃原は、あっち行けとばかりに手を払う。しかし三島はそれを無視して、隣に腰を下ろした。

「なんだよ、しけたつらして。もしかして、また競馬で外したか」

 人の不幸を笑うような言い方に、桃原は舌打ちをする。

「うるせーなっ。分かってるんなら、ちょっと金貸せよっ」

「あいにくだが、俺だって人に貸せるほどの金は無い」

「んだよ、役に立たねえ奴だ」

 自業自得であるのだが、桃原は責任を転嫁した。

「日給のバイトでも探してみたらどうだ?」

 優雅にタバコを吸い始めた三島が言う。

「無茶言うな。即日で金が入る仕事がそう簡単に見つかるかよ。ただでさえ、大学の講義に加えて、週六でコンビニバイトが入ってるし」

「工事現場とか、引越しとか……って思ったけど、お前のその貧相な身体じゃ無理か」

 三島は、自らとは対照的な桃原の細い体型を見て、首を振った。

「食っても太らないタイプなんだよ、俺は。で、他に良い案ないのか?」

「じゃあ、消費者金融で借りるとか」

「学生の時からそんなの使ってられるか。大体、返す時の利息分が勿体ねえ……」

「そういうとこだけはケチだよな、お前。競馬で散財してるくせに」

「競馬のハズレは、後学として次の当たりのいしずえになるだろ? 決して無駄じゃないんだ」

「今のところ、礎になってる感じは微塵もしねえけどな」

 三島は、ぷかりとタバコの煙を空に飛ばした。空中に霧散するそれを見つめながら、桃原は再び溜め息を吐いた。

「自動的に金が転がり込んで来るような、旨い話ねえかなあ」

「そんなのあるわけねえだろ」

「なあ、例えば、アフィリエイトとかはどうなんだ?」

「アフィリエイト?」

 桃原は、着古して穴が開きかけているシャツの肩口を弄りながら言う。

「いや、よく知らねえけどさ、あるだろ? ブログのアクセス数に応じた広告収入、みたいな……」

 すると三島は大笑いした。

「お前のブログなんて誰が見るんだよ。内容だって、何書くんだ?」

「け、競馬の予想とか」

「ハズレ予想か? ある意味需要ありそうだが……それだって手元に金が入るのは、だいぶ先になるんじゃねえの?」

 桃原は苦虫を噛み潰したような顔で唸ると、

「……くそっ。もういいよ!」

 鞄を肩に掛け、ベンチから立ち上がった。

「おい、どこ行くんだよ?」

 三島は慌てて携帯灰皿にタバコを押し付けながら訊ねる。

「バイトだよ。お前と話してるより、コンビニで出る廃棄品狙ったほうが、よほど有益だ」

「なんだ。その手があるなら飯は問題ねえじゃん」

「馬鹿。今は色々厳しくなって、簡単に持って帰れなくなってきてるんだよ。手に入れるにも、少なからずリスクがあるんだ」

 そう吐き捨てるように言うと、桃原は大学を後にした。



三島からのメールに気づいたのは、バイトが終わって自宅アパートに帰る途中の事だった。

『なあ、お前の住んでるとこって、大学のすぐ近くにあるオンボロアパートだったよな?』

 確かに桃原の住居は、朽ち果てたような外観をした木造二階建て、風呂無し、トイレ共同の一室だった。

『オンボロは余計だ。歩いて五分も掛からない好立地だぞ』

 そう返信すると、まもなくして次のメールが送られてきた。そこには、

『それなら、浩太に良いバイトが紹介出来るかもしれねーぜ』

 という、意外な文章が書かれていた――。

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