見た目は死角ナシな美少女な私の結婚式後
結果だけを語るなら、残念王子様であるアスティラと公爵令嬢である私ことリディアディアの結婚式は恙無く無事に……無事に?終了した。
父上がこんなに早く嫁に出すなんて的な事を言ってと号泣してたけど、いやいや。陛下と一緒に私の結婚決めたのアンタだろうが、と鳩尾に拳を叩き込んでやった。それでも気分的には晴れないから、もっとやってやろうかと思ったけど、侍女長と母上のオーラに圧されて我慢した。
何だろう。あの逆らっちゃ命がないような最強な感じの2人組み。侍女長だけでも怖いのに、母上が混ざっちゃ駄目でしょう。怖い怖い。
そんな2人のオーラを背に感じながら私は大丈夫デスヨ。そんな事はしませんよー。
だって今日から王族の仲間入りだもの。なんてそんな胡散臭い笑みがばれたのか、母上がふぅ、と気付かれないようにため息を落とした。
いやいやすいませんね。こんな娘で。この身体で16歳。精神は若い身体に引っ張られているものの、それでも確実に16歳よりは上の精神年齢は上だろう。でも母上と侍女長には逆らわない。
だって怖いし。多分母上と同じぐらいの精神年齢はあると思うんだけど、でも逆らえないんだよねぇ。
多分これからも肉体に引っ張られて緩やかに精神年齢があがっていく、とは思うけど、この先の事は全く想像出来ない。
大人になった姿なんて想像出来ない。
しかもアスティラの奥方として年をとっていくのだ。何の冗談?? 笑うしか出来ないんだけど、声に出して笑ってもいいのかなぁ。
「…だから全部口に出てるぞ」
「え? そうだった??」
結婚式の後の行事といえば、アレですよ。アレ。
そうそう。誤解のないように言っておくけど、私のファーストキスは死守しましたとも。会場に入る前に練習したんだ。誓いの口付けをしているように見えるのに、本当はしていません的なベールの絶妙な持ち上げ方。
見えそうで見えない絶対領域というやつですよ。侍女長からOKをもらえたから、出席者は見事に騙されてくれただろう。でないと、練習した意味がない。
このまま目指せクリーンな関係! 色々と守っていきますとも!
「お前はわざとか?」
「あれ? また声に出してた?」
「出しまくってた」
やる気なさそうにソファに身体を沈め、侍女が用意してくれた紅茶を一口飲んだ後、スプーン2杯程の砂糖を入れて飲みなおしてるアスティラ。
相変わらずの甘党だ。しかし王子様だけあって、ソファに腰をおろして紅茶を飲む姿は一枚の肖像画から出てきた麗人のように麗しく美しい。
残念な言葉を口に出さなければ、だけど。
窓の外を見ていても変わったものが写るわけでもなく、私はふわりふわりと身体に纏わりつくレースがたっぷりと使用された、いかにも高いですと言わんばかりの衣装に苛々しながら、アスティラの斜め前に腰をおろし、自分の分の紅茶を淹れて飲む。今日は精神的に非常に疲れたので、私にしては珍しく砂糖をいれて紅茶を飲んだ。
あぁ、身体に染み渡る気がする。美味しいなぁ。うちも負けてはいないけど、流石王宮。良い茶葉を用意してあるよね。
そんな私をアスティラが驚いたように見ていた。何?と視線だけで問うと、アスティラが砂糖を指差す。あぁ、わかった。アスティラの前じゃ砂糖なんて入れた事なかったもんね。それは珍しい目で見てくるよね。
それがアスティラクオリティ。
「流石に今日は疲れたからね。たまには甘くして飲んだりするよ」
素っ気無く答えたら、アスティラが今まで以上に吃驚した目を向けてきた。だから何なのか。
「お前でも疲れる事があるのか……」
心底驚いたとばかりに呟かれる。
失礼な。一体私を何だと思っているのか。
「疲れる事ぐらいありますよ。人間ですもの。特にアスティラ様が絡んできた時とか、アスティラ様が学園を脅して私と同じクラスになった時とか、アスティラ様が何故か女の私にライバル宣言をした時とかアスティラ様が……」
「もういい」
「まだあるけど聞かなくてもいいのですか?」
「聞いた俺が馬鹿だった」
ガックリと肩を落とすアスティラをスルーしながら、今度はお菓子に手を伸ばした。手に取ったのはお菓子専門の料理長が作った色とりどりなクッキー。サクリとした食感が美味しい。
種類が沢山あって何を食べるか迷ってしまいますわ~、何て事は一切思わず、全種類を楽しむ。
明日のトレーニングとは言わず、多くカロリーを摂取してしまった日は、その日のうちに落とす。魔法の瞑想で身体を10cm程浮かせる事を1時間程すれば、今日の摂取カロリーに勝る程のカロリーを消費出来るだろう。
トレーニングルームを隣りに作ってもらっておいて良かった。私の部屋からしか行けない、私専用のトレーニングルーム。とは言っても、魔法で隠してはあるけど、外からでもこれる。鍵は私が持っているし偽装もされているしで、普段は私の部屋からのみ行き来可能なトレーニングルーム。
これでもかというぐらい、頑丈に作ってもらった。魔法の練習だってしたいし、身体も鍛えたい。
ちなみに、私専用のこれは、私が早く慣れる様にとかではなく、何故か私が生まれた時に王城の一室に私の部屋が出来上がっていた。ここは、実家の私の部屋と似たような部屋になっている。私が寛げる様にという王様の配慮だろう。
それと同時に、将来的には私とアスティラを結婚させようという魂胆が丸見えだったんだろうけど。
「そうそう。アスティラはベッドを使って眠ってて」
「敬語が外れたぞ」
「敬語の方がお好みでしたの? 気付かなくて申し訳ありませんわ。殿下」
「……学園で使ってたのでいい。気持ち悪い」
「それでも失礼だけどアスティラクオリティだから仕方ない。ベッドはアスティラが使ってくれ。私はトレーニングした後、布団だけ持って来るんで床で寝ておく。勿論トレーニングルームの方で」
同じ部屋で寝たなんて言ったら、本当に新婚初夜扱いされてしまう。私が目指すのはあくまでクリーンな関係だ。
という事で、部下に調べてもらった資料をアスティラに手渡す。
全部で厚さは10cmぐらいだろか。色々と相応しい人を見つけて詳細を調べていたら、いつの間にかその厚みになっていたから仕方ない。
「何だこれは?」
「愛人候補だ。勿論大本命にしてもいい。家柄的にもアスティラに相応しい令嬢たちだ」
「…はい?」
相変わらずアスティラは間抜けな声を上げる回数が多い。決して私の所為ではないと思う。
「後宮はあるだろう。そこに入っていただく姫君たちの資料だ。私とはクリーンな関係を築き、その資料の中にある女性を寵妃にしてくれ。私は潔く身をひいて武者修行の旅に出る」
「……説明を求める。詳しくだ。一から十までしっかりと説明しろ」
「誓いの口付けをしなかった時点で気付くだろう。アスティラは私をライバルとしか思っていないし、私も今更アスティラを男としては見れない。
そうなるとこのクリーンな関係を保ちつつ、アスティラは寵妃を見つける方がお互いにとって良いだろう」
「……お飾りの后を演じるつもりか?」
震える声。私じゃなくてアスティラの声だ。
「いや、しっかり口には出す。が、ある意味お飾りだな」
「それは……お前の方が頭はいいが……というか、新婚初日で愛人を進める所か、それを寵妃にしろってお前は俺をなめてるのか?」
珍しくアスティラがくってかかる。ふぅ。面倒だ。
「そこ。説明を面倒くさがるな」
付き合いの長さの所為で、アスティラは私の事が多少なりともわかる。今も私が内心何を思っているか感じ取っているのだろう。
「舐めてはいない。ただ、両思いでもないのに初夜を過ごして意味があるのか?と思っただけだよ。それともアスティラは今、私を抱きたいか?」
アスティラの隣りに腰をおろし、襟首を引っ張り視線を合わせる。新婚初日という事で、私には何故かいつものパジャマじゃなく、前開きの淡いグリーンのネグリジェだ。リボンを解くと上のネグリジェは簡単に脱げてしまう。しかもシースルーで透けていて、下に着ているのはやはりレースがふんだんに使われた膝上までの長さのネグリジェだ。
どれだけ可愛い路線を行かせたいんだろうか。私に。
リボンを解いて上を脱がなければ、かろうじて身体のラインが解るぐらいだけど、それを脱ぐとガッツリと身体のラインがわかるし、うっすらだけど色々な場所が見えてしまう。
今日が終わったら隣りで燃やしておこう。魔方陣の中では魔法を使えるし。
「……お前の良い所というかもてる所はこのさばさば感なんだろうな、と改めて実感していた所だ──…が、色々疑問がある」
「残念王子様という所が?」
「違うっっ」
残念王子という敬称が気に食わなかったのか、アスティラが叫ぶように言う。流石に額に青筋が浮かんでいるから、今度から口に出して言うのは止めておこう。
「お前にとって俺は何だ?」
疲れ果てた表情で問われた言葉に、何となく即答してはいけないと珍しく私の感が警鐘を鳴らすので、少し考える素振りを見せる為に足を組む。
「同じ学園のクラスメイト」
うん。これが一番しっかりしたアスティラの認識だ。
ついでに。
「幼馴染みでもある。一方的なライバル宣言をされた相手でもあるな」
うんうん。納得の答えだと思う。
「……良くわかった。俺がトレーニングルームで寝る。お前がベッドを使え」
その言葉に力はなかった。どうやら相当疲れているらしい。
「これからカロリー消費に入るから、トレーニングルームは使うんだ。その後はシャワーを使うから一緒に寝ても問題はないと思うけどな。広いし。アスティラを床に寝かせるのは心苦しいから、ベッドだけは一緒のを使うか」
「……任せる。俺は先に寝る。風呂は入らん。それでいいか?」
「勿論。私はトレーニングで汗をかくから入るだけだし」
「………わかった。程々にな」
トボトボとソファから立ち上がり、アスティラは無言のままベッドへと入り端の方で丸くなって眠ってる。今まで広いベッドのど真ん中で眠っていたから、二人で寝ると何処に居ていいのかわからないのかもしれない。
「おやすみ、アスティラ」
さて。私はこれから運動しないとね。出ないと後々酷い目にあうしね。
明かりを消し、私は眠るアスティラを起こさないように静かにトレーニングルームに移動した。
アスティラが起きている事には気付かず、運動を終えた私は遠慮なくベッドの中に入り、疲れた事も手伝って深い眠りへと落ちていった。
昼間は結婚式で、カロリー消費の運動。流石に疲れるね。この組み合わせは。