【第9章】令和の天下人(最終章)
【前書き】第9章:令和の天下人
あの3人が帰ってきました。
ただし、戦場ではなく、選挙ポスターでもなく――焼き芋大会に。
「名前じゃない、中身だ」と言われる時代に、
“名前しか持っていなかった”彼らは、何を思い、どこへ向かったのか?
これは、信長・秀吉・家康の三人が、それぞれの「天下取り」に一区切りをつけ、
今度は“笑ってバトンを渡す”物語の終わり――
いや、“次の時代”への始まりです。
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【第9章】令和の天下人(最終章)
数ヶ月後――
選挙戦は静かに、しかし確実に盛り上がっていた。
「天下布システム」はログアウトされ、
今、令和の日本に必要なのは“名前ではなく、中身”だと、誰もが知っていた。
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信長は、政界から姿を消していた。
だが、各地のイベントや学校に、突然現れる。
•「信長、今日、保健体育教えに来たぞ〜!」
•「焼き芋大会に第六天魔王が参戦!?」
•「配信中の信長、近所の居酒屋でバイトしてるってマジ?」
彼は“燃やす”ことではなく、“灯す”ことに興味を持ち始めていた。
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秀吉は、大手エンタメ企業の社長になっていた。
番組制作からメタバース政策討論番組まで、企画はすべて“戦国風”。
「全国おもてなし合戦」「AI茶々の恋愛相談室」などヒット番組を連発し、
なぜか朝ドラのモデルにも選ばれた。
「おれ、国より面白くなったわ」
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家康は――相変わらず寝ていた。
だが、AI政府顧問として、すべての行政を“自動で寝ながら管理”。
「俺、寝ながらGDP上げたよ」
というキャッチフレーズで、なぜかビジネス書が爆売れしていた。
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そんなある日、信長・秀吉・家康の3人は、
とある公園のベンチで再会する。
「よう、元・総理」
「よぉ、裏切り副長官」
「……寝るぞ」
3人は笑い合い、缶コーヒーを開けた。
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「結局、なんだったんだろうな、俺たちの天下取りって」
信長がポツリとつぶやく。
秀吉は空を見上げて言った。
「“名前”だけじゃ何も変えられない。
でも、“名前”がきっかけで動き出す人はいる」
家康は微睡みながら呟いた。
「次の時代に、バトン渡したってことじゃね」
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その後。
街では、“新しい若者たち”が、選挙運動を始めていた。
“名前のないリーダーたち”が、令和の未来を語っていた。
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ラストシーン。
夕暮れの街に、信長たちの後ろ姿が歩いていく。
「なぁ、次は世界でも焼いてみるか」
「おいおい、やめとけ。今度こそ国連案件だぞ」
「寝ながらならいけるかも」
3人の笑い声が、風に溶けて消えていった。
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(完)
【後書き】
ここまでお読みくださった皆さん、ありがとうございました。
最初はただの“歴史ギャグ”としてスタートしたこの物語ですが、
書いていくうちに、信長たちが現代に生きる若者たちの“写し鏡”のように思えてきました。
うまくいかない日々、報われない努力、何もかもが茶番に見える社会。
だけど――それでも笑って進むしかない。
たとえ名前だけで呼ばれたって、
本当の“自分”を少しずつ見せていく勇気さえあれば、
「天下を取る」なんてことよりも、もっと大事な何かに気づけるかもしれません。
信長、秀吉、家康。
彼らが灯した“笑いの火”が、誰かの心を少しでも温めていたら嬉しいです。
そして最後に――
次の天下は、きっとあなたの番です。
(完)
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あとがき(裏話)
余談ですが、この物語を書いたのは私が高校生のころ。
当時、作中のギャグのひとつとして「インクリボンをゴミ箱から回収し、打たれた文字を逆読みして内容を解読する」という場面を考えました。
ところが数年後、新聞記事で本当にFBIが同様の手法を新しい捜査方法として導入したと知り、心底驚いたものです。
もちろん、この物語はフィクションですし、FBIが私の作品を読んだわけではありません。多分ね。
加成大騒ぎになった小説だから、読んだ可能性も有る。
けれども、「冗談で書いたことが、現実のどこかで実際に行われる」というのは、作家冥利に尽きる出来事でした。
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