閑話 私の心
私の主であるクラウス様が、ご婚約された。
この国の未来を担う責任がある事から、隣国の王女や、貴族のご令嬢から選ばれる事となった。
勿論、公爵・侯爵家から選ばれるのは聞いていた。
国王様がお選びになる事もわかっていた。
わかってはいたけれど、まさか……ルーテシア家のご令嬢だとは。
クラウス様が嫌がっていた婚約を受け入れたのは、ルーテシア公爵家のアリス様とご対面されたあの日から。
あの良い噂を聞かないルーテシア家のご令嬢との婚約は、歓迎されてはいなかった。
王妃様も、最初こそ乗り気ではなかったものの、アリス様とご対面なさってからは静観なさっているご様子。
表立って誰も反対する事はないが、内心では思う所があるのだろう。
噂話ではあるにしろ、こんな話を小耳にはさんだ。
“あの娘では、この国の未来はどうなる事か”、と言うものだった。
黒い噂が絶えないルーテシア家との婚約は、誰からも祝福されない。
城に出入りしている者は、そう思っているだろう。
けど、兵士や私の弟はそう言った反応ではなかった。
「アリス様はとても良い子ですよ。兄上も話してみては如何ですか?」
話す? 私が? アリス様と?
アインハルトが言いたいのは、貴族からの評判が悪いだけであって、ルーテシア家…ましてやアリス様は噂通りの娘じゃないと?
そう私に言いたいのか?
「…………」
「兄上は素直じゃないですよね。子供好きなのに、噂が噂だからか…アリス様相手に素直になれない。そんなに冷たい態度のままでは、アリス様に嫌われてしまいますよ?…兄上を嫌いにならないでほしいと、アリス様に話した事はあるけど」
そっそんな事はない、私が子供好きだと言う事は。
そんな事は…決して…、ない…のだから…。
「兄上。ご令嬢やご子息の集まったパーティーの中で、アリス様に釘付けになった事があったのをお忘れですか?」
ぐっ…。 そんな事も、確かにあった。
まだクラウス様に付き従って間もない頃…、父に連れられた貴族主催のパーティー。
談笑している大人たち、お茶を楽しんでいる子供たち。
そんな中、壁に背中を預けて立っている少女が居た。
人形と見紛う容姿の、とても可愛らしい…。
父に少女の事を尋ねると、ルーテシア家のアリス嬢だと教えられた。
噂を聞いていたから、それ以降は気にも止めなくなったが…。
城で再会を果たすとは私も思わなかった。
素直になれるなら、最初からしている。
そうしないのは、私の意思なのだから。




