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43:早すぎたんだ、腐ってやがる






 「じゃ、必ず戻って来るから・・・い、いってきます」


 次の日の正午前。

 王子一行は、コーヴァの街を今まさに出発しようとしていた。


 ラキシスはアズベルの見送りに来ているが、オレとは目を合わせてくれない。

 なぜだ?

 仕方がないので二人の世界に入り込めきれず、後ろめたさ感じているアズベルを、オレと王子でニヤニヤと生暖かく見守っていた。



 そんな何気ない出発の時に、それは起こった。



 「エリアル・バーストっ!」


 超圧縮された気体の玉が、高速で飛来して爆発する。


===バァッッッンッッ!!===


 爆風で混乱するなか、アズベルはラキシスを片手で抱えて、王子をかばう形で素早く警戒する。

 それに遅れて、他の護衛や侯爵なども王子中心に集まって陣形を組む。


 オレはいち早く[巴百式]を展開して、馬車なども一緒に爆風より守っていた。


 そこに一人の人物が、堂々と歩み寄ってくる。


 認識阻害の効果がある、隠者のマントを被っているので、それがどんな人物なのか分からない。

 だが、[鑑定ステータス]を持つオレは、そいつが誰なのか、すぐに理解することが出来た。


 「・・・王子、すまない。コイツはオレの客のようだ。必ずすぐに追いつくから、わりぃが先に出発しておいてくれ」


 そう言い残し、その人物へと歩み寄る。

 そして、顎で「ついて来い」とソイツに合図をおくると、理解したのか頷き返してきた。

 

 オレはグライドシステムを機動させ、建物の壁や屋根を蹴りながら、一気に街壁を飛び越えていく。

 ソイツも風の精霊を可視出来るほどに全身にまとわせ、羽のように身軽となった体で、同じように街壁を飛び越えてオレを追従してくる。


 そして街より少し離れた草原で、オレは立ち止まり、タバコに火を付けながら、ソイツへと対峙する。


 「ふぅー、、、久しぶり、かな?用件は分かるつもりだが、他の奴らに迷惑を掛けたそのやり口は許せねぇな。どういうつもりだ?・・・オデット」


 ターラゾカで出会った女騎士。

 目の前で好きな男を殺してしまい、恨まれている自覚はある。


 「オマエにそんなことを言われたくないっ!なんなんだ、オマエは!?ローランド隊長を殺し、その上あの時の関係者を殺害したのもオマエだろ!?なんなのだ!?一体、オマエはなんなんだ!?」


 フードを脱いで顕わとなったオデットの顔は、幼さの残る可憐な少女のものではなく、ひどく思い詰めた病的な印象で、錯乱いている様子だった。


 「ふぅー、、、オマエを傷つけてしまったことには素直に謝罪する、済まなかった・・・だが、オレが何者なのか、裏でなにが起こっていたのか、オマエの憧れていたローランド隊長がどんなクズだったのか、オレがここで説明しても聞く耳なんてないんだろ?」


 「ぅ、うるさいっ!黙れっ!黙れっ!黙れぇぇ!!ボ、ボクはそんな言葉が聞きたいんじゃないっ!オマエを殺すんだっ!隊長の仇をボクが、」


===バァッンッッ!!===


 オレは巴百式のマントの中で、腰に構えたデザートイーグルを発砲する。


 銃弾はマントへと命中して、その勢いで尻餅をつくオデット。

 なにが起こったのか理解出来ない様子で、興奮から一気に青ざめた表情となっている。


 「ふぅー、、、ガキ丸出しだな、オデット。ちょっとでもオマエに欲情したのが恥ずかしくなっちまうぜ」


 「キ、キサマァッ!!」


 再度、怒り心頭となったオデットは立ち上がろう動き出す。

 

===バァッンッッ!!===


 またも銃弾はオデットのマントに命中して、再度オデットを倒れさす。


 「動くな・・・ふぅー、、、さっきも言ったように、オレはオマエを傷つけた。だから、こうしてオマエの復讐ゴッコにも付き合っている。だが、オマエのあり方は余りにも子供だ。それを諭すほどオレは人間が出来ちゃいねぇ・・・どちらかを選べ。真相を知りたいのか、それとも殺し合いがしたいのか・・・どっちだ?」


 オレは惨めに倒れたオデットを、冷めた目で見下しながら銃口を向ける。

 その選択次第では、この女騎士を傷つける覚悟は固まっている。


 「ボ、ボクだ、、こ、んな、、、っ、うわぁぁぁあん!」


 泣き出してしまった。


 え?

 えええぇぇぇ!

 泣き出しちゃったよ!?

 え?

 どうすりゃ、いいの?

 これは予想外

 マジ泣きだよ?

 ギャン泣きだよ?

 え?

 ヒック、ヒックして痙攣してるよ?

 ええぇー・・・

 どうすりゃいいんだよぉぉ!!


 オレもあたふたと狼狽えてしまう。


 今までモテた経験などないので、女性の扱い方が分からない。

 いや、女性というより、子供のかもしれないが。

 なんにしても、この修羅場の対応が分からない。


 取り敢えず、回れ右で歩き出す。


 <おいっ、逃げんなっ!それは違う、違うよぉ~。向かい合お、ちゃんと向かい合お、な?>


 サポ助より注意される。

 なら、正解を教えてくれよ


 仕方なく立ち止まり、ワンワン泣いているオデットへと近付いていく。

 そして、ストレージより日本酒の一升瓶を取り出した。


 <アホかっ!それも違うっ!相手はオッサンと違うで。少女や少女っ!>


 えぇぇぇ・・・

 分かんねぇーよ

 手品する?

 お金渡す?

 いっそ、肉体関係?


 <このポンコツッ!ええから黙って側におったれ。ほんで少し落ち着いたら優しくしたれ>


 うぇーすっ、


 よく分からないのでサポ助の言う通りに、全力で泣いているオデットの側でタバコを吸いながら待ち続けた。


 そして数分後、

 段々と泣き方に勢いがなくなってきた。


 散々ゴロンゴロンと恥ずかしげもなく泣き喚いていたのに、今は顔を見られたくないのか、三角座りで顔を埋めて小さくなっている。


 「ふぅー、、、、、、」


 オレはそんなオデットへと歩み寄った。

 すぐ目の前に立つと、オデットは冷静さを取り戻しているのか、少しだけビクッとした。


 ストレージより、キレイなタオルを一枚取り出して、オデットの頭に被せる。


 「ふぅー、、、そのぅ、なんだ・・・さっきも言ったけど、こんなになるまで追い込んじまって、済まない・・・言い訳をするつもりはないから、許せないなら堂々と掛かって来い、付き合うから。だから、さっきみたいに他の人に迷惑を掛けるような真似は二度としないでくれ」


 そう言いながら、タオルで隠れたオデットの頭にポンッと手を乗せる。


 「え・・・」


 微かにオデットの驚いた声が聞こえた。

 そして、その手を払い除けるのではなく、また小さく小刻みに泣き出した。


 そして、すぐに、


 ぐぅぅぅ~~~・・・


 腹の音がベタに鳴り響く。


 「「 ・・・・・・・・ 」」


 明らかに空気が変わっていたのは、オレですら感じていた。

 多分、張りつめていたものが無くなったのだろう。


 オデットは被せられたタオルをガバッと掴むと、顔を埋めて恥ずかしがる。

 表情こそ見えないが、突き出たその耳がどうしようもない程、真っ赤に染まっていた。


 「だ、大丈夫、大丈夫。そんな腹の音なんて、恥ずかしい部類じゃねぇよ」


 オレは狼狽えながらも、なんとかフォローして、リカバリーに努める。


 「・・・・・・・ころして」


 そんなオレの言葉を無視して、タオルに埋もれたまま物騒なことを言うオデット。


 「そんなこと言うなよ!たかが腹の音だろ?その様子から飯も食べてなかったんだろ?そんな思春期丸出しの女学生じゃあるまいし。もう守護隊にも就職出来たいい大人なんだから、腹の音くらいでそんなこと言うんじゃありませんっ!いい大人なんだからっ!」


 ここは叱りつけておく。

 大人が簡単に殺してなんて言うもんじゃありませんっ


 「違う・・・・・・・・・・・漏らした」


 「・・・・・え?」


 動転する。


 「いい大人なのに・・・漏らしてしまったっ!殺してぇぇぇ」


 ガバッと立ち上がり、開き直って隠しもせずズボンを見せる。

 そこには、漏らした後が湯気を立てて残されていた。



 それから数十分。


 オレは一言も発することなく、甲斐甲斐しくオデットのお世話をする。

 ストレージより大岩を出して壁を作り、そこに体を洗えるだけの水を用意してタオルや着替えを置いといた。

 そしてオデットが着替えている間に、テーブルとイスを出して、暖かい飲み物や食べ物をテキトーに並べていく。

 さらに、恥ずかしそうに出てきたオデットに無言で食事を勧めて、洗ったズボンやパンツを丁寧に乾かしていく。

 そこに、エロい感情はビタイチない。

 ただただ、お母さんのように後処理をこなすだけだ。

 オデットもそれを感じ取ったのか、恥ずかしそうにしながらも抵抗はなかった。


 そして食事を終えた頃、オデットは口を開いた。


 「・・・その、、ごちそうさま。あと、いろいろアリガト」


 オレはキレイに畳んだズボンとパンツをオデットへと渡す。


 「どういたしまして。それで、復讐は一旦中断でいいのかな?」


 オレもテーブルを挟んで向かい側に座り、コーヒーを取り出して休憩する。


 「ボクの負け・・・もう復讐なんて言わない」


 オデットもマグカップを両手で持ちながら、憑き物が取れたように柔らかく微笑えんだ。


 いや、テーブルの上のズボンとパンツを早くしまってほしいんですけど・・・


 「ふぅー、、、いいのか?」


 「・・・うん。本当は知っていたんだ・・・あの後、ローランド隊長に騙された女性がいっぱい出てきて。そのやり口から仲間が経営するバーも割り出せて。そこであの晩、ボクが狙われていたことも・・・だから、ボクの独りよがりだったんだ。助けてくれたのに、逆恨みして本当にゴメンナサイ」


 ぺこっと頭を下げるオデット。


 「ふぅー、、、なんだ、そこまで知っていたのか。まぁ、けど、謝罪の必要はねぇよ。オレもやり方を間違えたし、キミを傷つけたことには、本当に悪いと思っているから。無事、和解出来て良かったとしよう」


 タバコを吹かしながら、あの晩より続いていた心のしこりが晴れていくのを感じていた。


 「いえ、そうはいきませんっ!せ、責任は取ってほしいですっ!」


 「は?」


 グイッとテーブルに乗り出して、赤らめた顔を近付けて力強く主張するオデット。


 話を聞いてみると、どうやらオデットは仕事を辞めて、全てを捨ててここまで来たので、帰る場所も金も無いそうだ。


 <ぺ、ぺーはん、こ、ここれはよくあるヒロイン展開なんじゃあ・・・>


 ぉぉおおお落ち着け、サポ助

 やっと、オレにもよよよ嫁展開が発生したんだ

 ク~ル~・・・

 落ち着け~、オレ~

 オレク~ル~・・・


 つまり、養えと?

 もしくはパーティ仲間?

 これだけ気持ちのアップダウンをさせたオレに、吊り橋的な感情が芽生えてやがると?

 オッサン、女子高生を拾う的な?

 そしてこの残念美少女エルフとワッハウキュキュなエロエロチョメチョメなラブコメ生活が実現出来ると?

 ぐ、ぐふふふ・・・


 <ぺーはん、流石にこんなガキ臭いのは萎えるんとちゃうか?自分でも言うてたし>


 だまらっしゃいっ

 それは、それ

 これは、これ

 こんなベッピンさん、逃がす手はないだろ

 ぶっちゃけ、甲斐甲斐しくお母さんしながら、パンツ乾かしてる時にはピンコ立ちだったし。

 これはもう、ヒロイン枠第一号ってことで問題ないだろう



 「ふぅー、、、フンッ、好きにしろ・・・だが、足手まといになるなら置いていく。精々、認められるくらいには頑張ることだな」


 キャラが分からない。

 こんなシチュエーションでの立ち振る舞いが分からない。


 「わ、分かったわ・・・で、どうすればいいの?コーヴァの街でボクもハンターに成ればいいのかな?」


 「 あ 」




 一時間後、



 「申し訳ありませんでしたぁっ!」


 美少女エルフの、立派な土下座がそこにあった。





 「えっ!?ファウスト王子に、アズベル様っ!?」


 「うん、ついでにレイダー侯爵とロンドワール大臣も居たね・・・軽く見積もっても、打ち首?」


 オレは王子一行の護衛を思い出して、なんも分かっていないオデットへとこれからの事を説明する。


 「あわ、あわわぁ・・ボ、ボクはそんな重鎮の方々を襲撃してしまったと・・・」


 ことの重大性を知って、責任感に押し潰される元騎士さん。


 オレとしてはハーレム第一号をゲットしたいま、護衛依頼なんてクソッ食らえでブッチしたいのだが、その背後にマイボスのイシュタルさんがいるので無視出来ない。


 「ほれ、一緒に謝ってやるから、取り敢えず急いで合流するぞ」





 「本当にぃ、申し訳ございませんでしたぁっ!!」


 何度も何度も地面にオデコを叩きつけ、地面はちょっと窪み始めた。


 「オレの方からも謝るよ。こいつはターラゾカの元守護隊員で、オレのせいで暴走させちまっただけなんだ。本当は正義感の強い、真面目な奴なんだよ」


 王子一行が小休憩に入ったタイミングで合流した。

 そして開口一番のフライング土下座でいまに至る。


 「ジュンペイさん、少し前から後方に居たのは気付いてましたよ。しかし・・・本当に大丈夫なんですか?」


 アズベルは馬から降りながら、当然の疑問を投げかけてくる。

 正直、難色を示してる様子だ。


 「はぁ、本当にジュンペイ殿は・・・それで、先ほどの襲撃を許したとして、その者をどうするというのだ?」


 馬車の中からファウスト王子が現れた。

 その他重鎮も後ろでイライラしている様子だ。


 「もう、そんな怒るなって。えっと、さらに図々しいんだけど、このまま護衛に加えさせてほしい。実力は保証するよ。もし、おかしな行動をとったらオレが責任を持って対処するから」


 「申し訳ございませんでした!なんでもしますっ!スミマセンでしたっ!!」


 「「「「・・・・・・」」」」


 呆れかえる王子一行。


 「はぁ~、ジュンペイ殿。改めてですが貴方は命の恩人です。助けて頂けなければ、そもそも我々はここには居なかった・・・分かりました、貴方を信用します。ですが、こういった個人行動はこれっきりにして下さいね。ほら、そこの方も顔を上げなさい」


 流石、人の上に立つ王族。

 みんなが納得出来る言い回しで、この場を納めた。


 「寛大なお言葉、有り難うございま、、、」


 ゆっくりと顔を上げるオデット。

 そして、正面に立つファウスト王子と目が合った瞬間、二人はフリーズした。


 「・・・・・・う、美しい・・・名は、、、名前を教えてもらえないだろうか?」


 「・・・・・オ、、オデット・スワントールと申します、殿下」


 「「 ・・・・・ 」」


 一瞬で二人の世界が始まる。

 完全にもう、周りが見えていない様子だ・・・



 ハァ~、

 短けぇ夢だったなぁ~・・・



 「ふぅー・・・ファウスト王子。さっきも言ったが、そいつはオレのせいで守護隊を辞めて無職なんだ。どうか、王子の力で雇ってやってくんねぇかな?」


 「っ!それは誠か?守護隊といえば、その素性も実力も問題ないだろう・・・オデット・スワントールとやら。丁度、私の専属騎士が不足している。どうか、我が剣となり共に歩んではくれないだろうか?」


 オレのアシストに、王子はこちらを見ることなく、オデットを見つめたまま右手を差し出している。


 「っ!!も、もったいない、勿体なきお言葉・・・命に代えてもファウスト王子殿下をお護りしますっ!」


 オデットは立ち上がるのを止めて、そのまま膝を付き、剣をファウストへと渡して、騎士の誓いをたてる。


 その一連の流れを呆然と眺めるオレたち。

 そして、全てが終了したあと、二人揃ってクルッとオレへと振り返った。


 「感謝するっ、ジュンペイ殿っ!!」

 「有り難う、ジュンペイさんっ!!」


 なぜか、二人は手を繋いでいた。


 へぇへぇー

 城についたら、誰か紹介しろよ、ファウスト王子殿下。







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