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39:空の軌跡







 <それにしても、場の主役を勝手にハンベイの姿へと変えた自覚のないヤツにして、その混乱に乗じてミラージュとグライドシステムで上座の裏にまでスゥーと移動して殺すとか、なかなかの上出来やわ。流石に汚いこと考えさせたら一級品やな、ぺーはん>


 それ、褒めてるのか貶してるのか、どっちだよ?


 ま、上手くいって良かった。

 これで勝ったも同然だけど、まだ油断は出来ねぇしな。


 さて、


 「ふぅー、、、久しぶり、元気か?」


 ずっと目を丸くして呆然としていたアズベルへと話しかける。


 「・・!、ジュ、ジュンペイさん、ですか!?どうしてここに、いや、なんで?」


 混乱して考えがまとまらないアズベルを取り敢えず無視して、手錠や拘束具の全てをストレージ収納して自由にする。

 そして、高級ヒーリングポーションや食い物や飲み物なんかをテキトーに渡す。


 さらに隣で、いい歳なのにまだ泣いている王子も、同じように自由にして食い物なんかを渡す。


 「取り敢えず食えよ。ここはちょっと間、安全だから」


 血の海ですけどね。


 そしてオレも腰を下ろして、タバコを吸いながらコーヒーを取り出す。

 まだ冷静になれない二人に、敵意が無いことをアピールしながらリラックスする。

 そうすると余程腹が空いていたのか、アズベルも王子もがっつくように貪りだした。

 イケメンなのに。

 関係ないか。


 「ふぅー、、、一応、経緯を説明しておくよ」


 オレはテキトーに端折りながら、これまでのあらましを説明する。




 「で、では、全ての元凶は、フェルディナンド伯爵にあるということかっ!」


 食うもの食って、冷静さを取り戻した王子が怒り心頭といった様子だ。


 「ふぅー、、、ま、そう言えなくもない。けど、養護するつもりはないが、オマエ達王都の人間が防衛都市コーヴァになにをした?なにもしていないだろ?伯爵が何度も防衛費や人材を要請したにも関わらず、コーヴァの街を捨て石のように扱い、内地の防衛ばかりに力を入れていたんじゃないのか?伯爵がクウカイと取引しなければ、コーヴァはとっくの昔に占領されてたと思うけどな」


 なんとなくムカついたので、シレッと責めてやる。


 「キサマッ!なにを根拠にっ」


 「王子、お止めください。彼に非はありませんし、現状をお忘れなく。ジュンペイさんも。そのぅ、王子に対してもう少し・・・」


 アズベルは興奮する王子を宥めて、オレにも挑発するなと釘を刺してくる。


 「ふぅー、、、なんだ、ちゃんと騎士してるのな。もっとダメダメかと思ってたぜ」


 脱童貞のイメージしかなかったので、凛とした感じに違和感を覚える。


 「からかわないで下さい。それにしても、凄いですねジュンペイさん。やっぱりボクの見込んだ方だ。改めましてですが、助かりました。有り難うございます」


 目をキラッキラとさせて、心酔するように見つめてくるアズベル。

 鬱陶しい・・・

 やっぱ、NTR路線に戻すか?


 「やめてくれ、得意不得意なだけだよ。近接戦闘ならオマエどころか、その辺のオークさんにもかなわないよ。ふぅー、、、そんなことより、脱出なんだけど他に捕まってるヤツとか知ってるか?全員は無理かもだけど、この際出来るだけ、」


 「その必要はない・・・いや、先ほどは済まなかった。ついカッとなってしまった。私からも言わせてくれ。助けていただき本当に有り難う。必ずこの功績には応えさせて頂くと約束する」


 オレの言葉を、悲しそうな顔で遮る王子。

 アズベルもまた、答え辛そうに視線を逸らす。

 つまりは、そういうことだ。

 全滅なのだろう。


 「功績はいらない。むしろ黙ってて・・・分かった。んじゃ、脱出プランは何パターンかあるけど、、、安全と復讐、どっちにする?」


 「「 復讐 」」


 「勿論その分、危険度は増すよ?」


 ギラッとした目つきで、顔を上げる二人。


 「私はなにも出来なかった・・・死んだ部下達に、せめて栄誉を添えたい」


 「ボクは不完全燃焼なんです。単純に暴れたい、殺したい、かな。勿論、敵討ちの意味も込めてね」


 ぉぅ・・・

 アズベル、案外バトルジャンキーなのね。

 あんま、オチョクリ過ぎないようにしよ。


 サポ助、城内の様子はどうだ?


 <動きなしやね。全然気付かれてないよ。元々人払いもしてたみたいやし、まだ不審に思って様子を見に来るヤツはおらんのとちゃうかな>


 うしっ


 「ふぅー、、、じゃあ、30分自由行動とします。その間に武器や服なんかテキトーにしといて下さい。30分後、またここで最終ミーティングを行ってから行動します。あ、このフロアからは出ないでね。解散っ」


 ヨッコイショと立ち上がる。


 「え?ジュンペイさんはどこかに行くんですか?」


 「ふぅー、、、家捜し♪」


 「「・・・・・」」


 オレは呆れる二人を無視して、さらに上階にあるクウカイ部屋へと嬉々として向かって行った。





===ファウスト ジ アシノミヤ===


 屈辱であった。


 王宮内では、第三王子である私の立場は微妙なものだ。

 すでに歳の離れた兄上が、王の右腕となり国政を動かしている。

 反発派閥に勢いはなく、それでも奴らは第二王子の元に集結することで起死回生を謀っている。

 それが誘導された動きだとも知らずに。

 だがそのお陰で、私を無理に担ぎ上げようとする動きはないので、野心の無い私には丁度良かったのかもしれない。

 

 学生時代より、私は人に好かれた。

 自分で言うのもなんだが、爽やかなルックスと王族という肩書きに群がるクズ共を、笑顔で操作するのが楽しかった。

 冷めていたのだ。

 本気になれるモノなどなく、何でも出来てしまう私には全てが虚しいだけだった。


 しかし高等学園2年の年、そんな私は打ち砕かれた。


 第二王女ティリカ。

 一つ歳上の腹違いの姉弟が、突然学園に現れたのだ。

 ティリカは、これまで故あってその存在を隠されていた。

 私ですら、直前までそんな話を知らなかったほどだ。

 

 そして彼女は、美しかった・・・


 見た目もそうだが、その明るい性格も、人懐っこい飾らない姿も。

 すぐに同姓異性に関わらず、全ての人がティリカに魅了されていった。

 初めに感じたのは、嫉妬であった。

 だが、それはすぐに情熱へと変わり、血を分けた姉弟を相手に、禁じられた初恋へと発展してしまう。

 その秘めた想いを胸にしまい、ティリカの幸せだけが私の生き甲斐となっていた。


 そして昨年、ティリカは恋いをした。


 その相手は近年活躍に次ぐ活躍を繰り返す、聖護騎士団団長のアズベルだった。

 彼の実力は勿論、その飾らない性格も、真面目で優しい物腰も、非の打ち所の無い相手としか言いようがないことに、私は悔しくて仕方がなかった。


 そして、栄誉あるキングスナイトへの叙勲式。

 衆人観衆の中、あろう事かティリカはアズベルへとプロポーズをした。

 場は歓声に沸き、誰もが心の底より祝福していた。

 そんななか、私一人だけが絶望で視界が眩んでいた。

 だがアズベルは、そんなティリカの申し出をその場できっぱりと断り、自身が想いを寄せるという相手と結婚してしまう。


 悲しみに暮れるティリカ。


 そして私は、そんなティリカを抱いてしまった・・・

 何度も何度も、、、

 初めは、護りたい、大切にしたい一心で。

 だがいつしかそれは、欲望の捌け口へと変わっていた。

 求めだしたティリカのその顔に、なぜか私は嗜虐的な感情に支配されてしまう。

 そして元気を取り戻したはずのティリカだったが、そこに以前の輝きは無かった。


 私は、ティリカを壊してしまったのだ・・・


 そんな折り、鬼族[アコウ]との開戦計画が持ち込まれた。

 フェルディナンド伯爵からの採掘村虐殺報告、度重なる領土侵犯による小競り合い。

 それらを打破するための開戦要請であった。

 だが、国王や兄上も余り乗り気ではなく、むしろ内地の防衛に力を注ぐ傾向があり、伯爵の要請は却下されるだろうというところで、私は志願した。

 そこに正義感などは無く、己の罪からの逃亡でしかなかった。


 だが、運命は私を逃がさない。

 遠征隊には、アズベルが加わっていた。

 むろん、彼を恨む理由はない。

 むしろ自身の愛を貫いた彼に、尊敬に近い感情すら抱いている。

 しかし、だがらこそそんな彼を目の当たりにすると、己の罪を責められているように感じてしまうのだ。

 私は、アズベルへと近付いた。

 罪滅ぼしのつもりはないが、私は敢えて近付くことを選択した。

 だが、彼はそんな私に気付いているかのように、第三王子の私をぞんざいにあしらった。

 こんなことは初めてだ。

 半ばむきになり、必要以上に接触を試みるがその全てが惨敗でしかなかった。


 結局遠征は、戦には発展せずに帰還となる。


 半年ぶり見たティリカの顔は、憑き物が落ちたかのように晴れ晴れとしていた。

 婚約を決めたらしい。

 相手はアシノミヤと余り交流のない遠く国の貴族だという。

 自ら進んで承諾したのだそうだ。


 私は、、、なにも言えなかった。


 そしてまた目を逸らすかのように、再度視察団として王都を出た。

 無我夢中で働いて、自分に暇を与えないように立ち回った。

 自己満足かもしれないが、今度こそティリカへ、おめでとうと言うために。


 地獄だった。


 安全な任務。

 伯爵も騎士達も、戦になるとは思っていなかったようだ。

 深夜、突然の襲撃。

 鬼族の手練れが、駐屯地内にまで入り込んで来た。

 混乱で場を立て直そうにも、360度信じられない数の敵に囲まれている。

 何度も死を覚悟したがアズベルの必死の活躍により、包囲網の一角を切り崩して私たちは脱出する。

 だが、その先々で動きを先回りするかのように、トロールなどの大型が立ち塞がる。

 レイダー侯爵とは分断されてしまい、聖護騎士団に護られながら森を走る。


 そして飛び出した先には、クウカイの本陣が待ちかまえていた。


 主力武将に囲まれながら、今度こそ逃げ道を失ってしまう。

 アズベルは、鬼面六道衆[剣豪羅刹ビシャモン]と互角の勝負をしている。

 私も鬼面六道衆[四つ腕のシンゲン]に、遊ぶように痛ぶられて追いつめられる。

 さらに鬼面六道衆[蟲使いのタマモ]は、聖護騎士団をクモの糸で拘束して無力化してしまった。


 「フォッフォフォ、状況を見よアズベル。大人しく投降すればこれ以上殺さぬと約束しよう。じゃが、抵抗するなら容赦はせねぞ」


 クウカイのその言葉に、アズベルは投降した。

 しかし次の瞬間、騎士たちは吐血する。

 そして大量の虫が体内から吹き出してきた。


 「おっ?手遅れじゃったか。こりゃスマンことをしたのぅ。ヒャハハハ」


 怒り叫ぶアズベルは気絶させられて、拘束すらされていない私はブルブルと震えるだけで、なにも出来なかった。


 そして私は実感する。

 死を覚悟すればするほど、生に執着してしまった。

 怖い、

 生きたい、

 それを自覚してしまってからは、怖くて仕方がなかった。


 なにが起こった?


 謁見の間、

 クウカイよりまだ殺さないと言われ、嬉しいと感じてしまった。

 殴られたことではなく、その言葉に安堵してしまった自分が許せなくて涙が溢れ出してきた。

 そこに、六道鬼面衆[千計のハンベイ]が慌てて乱入して来た。

 その慌てぶりに場の全員が注目するなか[四つ腕のシンゲン]の頭が吹き飛んだ。

 続けて[クウカイ]の頭も爆発する。

 さらに、次々と鬼たちは倒れていく。


 理解が追いつかなかった。


 だが、それを実行したと思われる男がアズベルに話しかける。

 どうやら、知り合いのようだ。

 自由と食べ物を与えられ、必死にそれにかぶりついた。

 この男、私が王子だと知っていて全く媚びる様子もない。

 無礼な男だが、命の恩人には違いがない。

 アズベルの指摘ではないが、ここは冷静に受け入れよう。

 なにやら二人で話し込んでいる。

 ん?

 ラキシス?

 ああ、アズベルの嫁の話か。

 ブフゥッ!

 ど、童貞だとぉ!

 今が最大のビッグウェーブ?

 え、え?

 どういうこと?

 このアズベルが童貞?

 しかも嫁なのに、まだ卒業できずに失敗続き!?

 ワハハハ、

 なんだそれは!?

 え、

 これまで私を避けていたのも、本当に脱童貞のためにワンチャンしかけてただけ?

 フハハハハ、


 「アズベル、貴殿そんなことで悩んでいたのか?そんなもの押し倒して、」


 「うるさいですよ王子、アナタはラキ姉を知らないでしょ?そんな適当なこと言わないでくださいっ」


 「まぁまぁ、王子だってオマエを心配して、、、プークスクス」


 「いま、笑った!?笑いましたよね?くっそ、王子も見ましたよね?」


 「あ、ああ。こういう繊細な問題を笑うのは、、、くっ」


 「堪えてます?堪えてますよね、王子?」


 「まぁ落ち着けよ、アズベル。それこそ帰ったらあの柔らかい低反発ピローに埋もれるチャンスなんだぜ?ぁぁ、気持ち良かった~」


 手をワキワキさせる男。


 「・・・ジュンペイさん、まさかと思いますが、触った?」


 「あ。・・・・・うん、どさくさ紛れに」


 「あああぁぁ!殺すっ!殺しきるっ!!」


 マウントでボコボコにしだすアズベル。


 「そっ、それがぁ、い、命の、恩人に、、、助けてっ」


 命乞いをする命の恩人。


 「プッ、クハハハハ、、、、、バカらし」


 肩の荷が下りた。

 張りつめているのがバカらしい。

 アズベルの素のやり取りを目の当たりにして、大観衆の前でティリカを振り、あれだけ称えられた勇者が童貞に悩んでいる?

 なんだ、それは?

 こいつもただの男ではないか・・・


 はぁ~・・・


 私もバカだ。

 逃げてばかりで、向かい合っていなかった。

 自分とも、

 ティリカとも・・・


 帰ろう。

 そして、ティリカと話そう。

 これまでのことも、自分の想いも。


 そして、おめでとうと・・・




 「あ、王子、それはボクのパンですよ」


 「うるさいっ、ほったらかしにしてる方が悪いんだ。ほれ?いいのか、逃げようとしているぞ」


 「あ、ウナギみたいに、、、こら、待てジュンペイさんっ」







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