36:人はね、幸せをつかむと臆病になるの
「オレはDランクハンターのジュンペイだ!こりゃ、一体どういう状況だ?」
街壁の上で警戒している兵士に叫びあげる。
「現在、コーヴァは警戒レベル4だ!・・・大丈夫っ!知っているヤツだ、ケモミミ学園の常連だっ!通してやれ!・・・鬼族共が攻勢を掛けて来やがった。詳しくはギルドで聞いてくれっ!」
少しだけ街門が開いてIDカードを提示して通してもらう。
その際、待ち受けた兵士さんたちは、みんなプルプル笑いを堪えていた。
くそっ
デッケー声で言いやがって・・・
オレはイソイソと兵士詰め所を抜けて、街の中へと入る。
一転していた。
慌ただしい人の往来はそのままだが、賑やかな喧噪とは違い、戦準備や避難誘導による物々しい雰囲気と変わっている。
みんなどこか悲壮感が溢れて表情も硬い。
そういった人達を横目にしながらギルドへと、ラキシスの元へと急ぐ。
「同志ジュンペイっ!」
ギルドへと入るなり、ギルド職員である同志ミッシェルに声を掛けられた。
というか、職員たちが集まっている。
つか、職員しかいない。
あれ?他のハンターたちは?
「いまギルドでは強制クエスト発令中よ。ハンターは全員、モザークの森に展開中です。アナタ、今まで一体どこで、」
「わりぃラキシス、説明は後だ。オレの方も報告がある。ちょっと、奥で話せないか?」
「・・・いいわ。聞かせてもらいましょう。申し訳ないのだけれど、少し休憩とするわ」
ミーティング中だったのだろう。
職員を休ませ、オレを自分の執務室へと誘導する。
部屋へと入り、早速お茶を用意するラキシス。
オレはイスには座らず、大きな机の縁に尻を乗せて、タバコに火をつける。
「ふぅー、、、鬼族、つか、ズマ城の五氏族[クウカイ]が挙兵したんだよな?・・・言いにくいんだけど、それ、たぶんオレのせいだわ」
ラキシスの方は見ずに喋った。
そしてさらに、ザンダ採掘場より見つけてきた書類をストレージより取り出して、机の上を滑らすようにラキシスへと投げる。
「っ!こ、これは・・・・・」
入れ掛けのお茶をその場において、渡された書類を手にしたラキシスは驚愕に歪む。
「ふぅー、、、ザンダ採掘場に行ってきた。そこに廃村なんか無かったよ。あったのはただの要塞。半年や1年で出来た規模じゃないぜ。つまり、そういうことなのだろう」
煙を天井に向かって吹き出して、なんでもないことのように話す。
「にわかに信じがたい話ね・・・アナタには色々と問いたいことはあるのだけれど、まずはこれの真偽について、なのでしょうね」
情報が多すぎて頭が整理しきれないラキシスは、状況をどう理解すべきなのか困惑している。
「ふぅー、、、オレは採掘場からパクって来ただけなんで、真偽もなにも証明なんて出来ないよ。その辺はラキシスの裁量に任すしかない。ただ・・・ふぅー、、、ほら?そこにあるサインは、金獅子騎士団団長[ヴァーミッド]のものだろ?さらに言えば、いくら国境付近とはいえザンダ採掘場の状態を見る限り、半年やそこらの繋がりとは思えない。つまり、、、辺境伯爵[フェルディナンド]もグルだ」
「っ!!・・・ま、まさか」
言葉を失うラキシス。
オレは少しでも信憑性を上げるため、奪ってきた金工石やお宝を机にぶちまける。
「続けるぜ。ふぅー、、、フェルディナンドは[茶番]だと言ったんだよな?。オレやラキシスではない、この国境を預かる責任者、辺境伯爵が、だ。それは決して今のような鬼族の挙兵が無いと、確信していないと出ないセリフだとオレは思う。そして、ここからは推測になるんだが、フェルディナンドはアシノミヤ王国を余りよく思って無かったんじゃないのか?オレが調べた限り、彼に怪しい情報は無かった。ヴァーミッドには会ってないから分からないが。ふぅー、、、だからオレの推測はこうだ。ヴァーミッドが鬼族との内通者。フェルディナンドは協力者、もしくは主犯の黒幕。鬼族を利用してアシノミヤからの独立国家が目的。アズベルへの疑いは、後に脱国させて、こちら側へと引き込むための布石・・・ってのが、オレのまとめなんだけど」
フェルディナンドの鑑定ステータスにおかしな項目は無かった。
だが、状況的に無関係とは思えない。
ふぅー、、、とタバコをふかして、ラキシスの反応を待つ。
ラキシスはしばらく考え込んでいたが、タバコに火をつけて意を決して話し出す。
「フゥー、、、全力で否定したいのだけれど・・・思い当たる節が多すぎるわ。確かに、伯爵は兵を憂いで、国政に酷い怒りを抱えています。ヴァーミッドとも元々上司部下の関係で、思想は同じはずよ。それに優秀な人材をコーヴァへと引き抜くことは頻繁に行っているようですし、この前、私のところに来たのも、アズベルが王都で陰謀に巻き込まれるくらいなら、ここで夫婦一緒に暮らすよう勧められたからで・・・っ!待ってっ!じゃあ、いま彼は、、、」
認めたくはないが、納得が出来てしまうようだ。
そして、いま現在の状況に思い至り、不安が爆発している。
「っ!すまない、状況を説明してくれるか?」
軍の動きなど知らないオレは、のんびりと黒幕について話していたが、現状は想像以上に緊迫している様子だ。
焦りつつもテキパキと話すラキシスの言葉をまとめてみる。
・コーヴァの街より、モザークの森を挟んで、鬼族の前線[ズマ城]までは二日弱の距離。
・大臣[ロンドワール]を除く、視察隊[ファウスト王子][レイダー侯爵][フェルディナンド辺境伯爵][金獅子騎士団、団長ヴァーミッド][聖護騎士団、団長アズベル]が出発したのは三日前。
・そして昨日、レイダー侯爵とその隊のみがコーヴァへと逃げ帰って来た。
・侯爵曰く、初日の夜営。深夜、鬼族の大軍による襲撃を受けたらしい。しかもズマ城に駐屯する全軍レベルの包囲網がすでに完成しており、視察隊は分断されて逃げ帰るより方法が無かったという。
・ファウスト王子には聖護騎士団とアズベルが、そして殿には金獅子騎士団とフェルディナンド伯爵が担当していたという。
・そして現在、街は警戒レベルを上げて閉鎖しており、ギルドでは強制クエストを発令して、モザークの森内を捜索・偵察任務に当たっているのだそうだ。
「つまり、アズベルは王子様を護りながら逃走中。しかも敵を抑えるべき金獅子騎士団とフェルディナンドは、鬼族側と通じている可能性が高いと」
「いえ、さらに悪いわ・・・初日の夜営地から逃走が出来ているのなら、すでにコーヴァには着いているはずよ。まだ行方不明ということは・・・捕まっているか、、、あるいは、、うっ」
その先を口に出来ないラキシスは、感情が抑えきれずに泣き出してしまう。
やっぱり、なんだかんだ言ってもアズベルを愛しているのだろう。
気丈に振る舞っているが、不安で押し潰されそうだ。
「ふぅー、、、心配すんな。オレが今からアズベルの野郎のとこ行ってくっから」
ラキシスには背を向けて、天井に煙を吹き付ける。
「、、だ、ダメよ。余りに無謀だわ。兵やハンター達と連携して作戦を練らないと」
流石はラキシス。
不安で涙を流しつつも、冷静に思考を巡らしているようだ。
「そんな待ってられっかよ・・・ふぅー、、、贖罪なんだよ、オレの」
「っ!・・・まさか、私の、、ため?、、、私のために、彼を救いに・・・」
え?
い、いや、、、
オレがザンダ採掘場で余計な事して、こうなった責任を、、、
「ダメ、よ。私は彼を愛してる・・・アナタの気持ちに答えることなど、、、」
いやいやいやいやいや、、、
冷静なのか、天然なのか?
ラキシスたん、案外オッチョコチョイ?
いや、自分のためなんすけど?
調子乗って鬼族にチョッカイ出して、挙兵させてしまった罪滅ぼしなんですけど?
つか、そのへん追求すると、アズベルがピンチなのもオレのせいってなっちゃうんですけど?
「ふぅー、、、いいよいいよ、オレはキミの笑顔が見たいだけさ。でも、オレじゃ無理なんだ。オレじゃ、キミを笑顔に出来ない・・・けど、やれることはある。救って見せるよ、彼を」
とりま、
乗っかっとこっ
罰せられる側が、賞賛される側になれそうな感じだし。
「・・・ホント、バカなんだから・・・・」
奇跡が起きた!
ラキシスの手がオレの腰へとまわり、体を寄せてくる。
ギュッ
竜ぅぅぅの巣じゃぁぁぁぁ!!!
竜の巣が、2つもオレの背中に押し当てられておるぅぅ!!
えっ!?
なに?
急展開過ぎて分かんないだけど?
ぉぉぉおおおおおお
すっげぇぇ感触っ!
ママ、ダメ、吸い込まれる、、、
デカイッ
デカイよっ!
ボ、ボクのタイガーモス号が、、、
「・・・こ、こんな、ことくらいしか、」
さらに力を込められて、より密着する。
同時に、震えがオレの体に伝わってきた。
不慣れなやり方に、ラキシス自身が戸惑っているようだ。
オレはそのラキシスの手を解き、振り返って向かい合せとなる。
そして、その頭へと手を伸ばし、優しく撫でる。
「ゴメンな、ヤな女をさせちゃって。十分、じゅ~ぶんさぁ。これで命を掛けられる。助け出してみせるよ、絶対」
嘘ですけどね。
つか、
~~~思考加速全開中~~~
死ねぇぇぇ、アズベルゥゥ!!
むしろ、死んでろっっ!!
なんなら、オレが止めをさしてやるまであるっ!
オレ、頑張るふり、
アズベル、死んでる、
ラキシス、慰める、
イタダキマス、、、
完璧だっ
完璧なNTR計画だ・・・
グ、グフフフフ、、、
けど、
なにこれ?
なんなのこの展開?
突然過ぎて、よく分からんキャラになってしまった。
助け出してみせるよ、絶対っ
プッ
ゴメンな、ヤな女をさせちゃって
クハハハハッ
誰?
誰よ?
ノリがトレンディドラマなんですけど、
真顔で、よ~言えたな、オレ。
プークスクス
君の笑顔が見たいだけなんだ、
アホかぁっ!
アヘ顔見たいだけじゃ!ボケェッ!!
ギャハハハ・・・
「・・・そんな、優しく微笑まないで」
左手は優しく肩に乗せて、右手でラキシスの頭を撫でるオレに、ラキシスは顔を赤らめながら見上げるように見つめてくる。
そして、ゆっくりとその瞳を閉じる・・・
こ、これはっ!
え?
チュー、OKってこと?
マジかぁ
マジなのか?
いいの?
やっちゃうよ?
やっちゃって大丈夫?
なに?このフィーバーモード?
どんな落とし穴?
オレ、この後、死んじゃうの?
いや、
そうじゃない。
人は幸せを掴むと臆病になるの。
なんかの映画で言っていた。
ビビるなっ!
生まれて初めてのシチュエーションに、ビビっているだけだっ!
考えるなっ!
感じろっ!!
やってやるっ!
やってやるぜっ!!
なんなら、舌まで入れてやるるるるる
だ、だが、
だが、オレが本当に、今したいのは・・・
===キュロロロリィィィーン===
ニュータイプの閃きがほとばしる。
悪魔の計略が発動する。
オレはラキシスの両肩へと手を乗せて、クルッとラキシスを半回転させる。
そして、そのラキシスの背中に向かって言い放つ。
「有り難う、オレなんかのために・・・けど、もう十分だ。これ以上は、今はダメだ・・・絶対助け出してみせるよ・・・・・でも、最後に、ゴメンッ!」
オレは両手を広げて、ラキシスを背後より拘束するように力強く抱きしめた。
ムギュッ
それは、背後より乳を鷲掴みにするのと同意である。
しゃあぁぁぁっっ!!
もろたっ!
もろたぁでぇぇぇ!!
ぁぁぁぁ・・・・
最高だ、
どこまでも沈んでいく・・・
なにこれ?
手に収まんねぇよ
特盛りのドンブリよりデカいんですけど・・・
すげぇぇぇ
たまんねぇぇぇ
思考最大加速で限界まで凝縮させた時間のなか、最高の集中力で堪能する。
そして、
「ゴメン、ラキシス。もう行くよ・・・必ず、アズベルと一緒に戻って来るから。心配すんな、じゃあなっ」
オレはラキシスから離れて、ドアへと走り出した。
「ジュンペイッ!」
背中に掛かる声に振り向きもせず、そのまま退出する。
そして、その勢いのままギルドからも飛び出して、モザークの森へと向かって街中を走る。
そうしてやっと、オレは仮面を外すことが出来た。
「ゲットッ、ゲットォォだぜぇぇ!」
人目など気にもせず、大声で叫びあげる。
くぅぅぅぅ、、、
たまらんっ!
なんと、大きなポケ○ンボールなのだろう
あの触り心地は死ぬまで忘れることはないと確信する。
やったぁ!
やったぜぇぇ!!
ふぅー・・・
それにしても、
ラキシスたん、だいぶ弱ってたね。
謀らずとも、その弱みにつけ込んだカタチになった訳か。
ザンダ採掘場でやらかした謝罪に行ったはずなのに、なぜか英雄の出発みたいになっちまった。
御馳走様ですっ
超美味しかったですっ
あのままチューしても良かったけど、多分、あの雰囲気ではそこ止まりだろう。
あの流れで、正面から乳に触れる勇気はオレには無いっ!
ならば、乳を揉みつつ、好感度を上げる不思議な方法だっ!
その閃きにより、オレは勝利したっ!!
んぅぅぅぅ・・・・
ダメだっ
鎮めなきゃ!
この感動と荒ぶるタタリ神様を鎮めなきゃ
モザークの森へと急ぐオレは、宿へと方向転換をして、そのまま街中を走り抜けていった。