34:アタシの若い頃にそっくりだよ
「良い尻してるねぇ~、ほれ、これ取っときな。チップだよ、チップ」
オレは飲み屋で踊っていた踊り子のネェチャンに、安くはないチップを渡す。
「お、そっちのネェーチャンもどうだい?遠慮すんなって、ほら、いいからいいから」
それを見た他の踊り子達もチップ欲しさに集まって来たので、バラ撒くようにチップをはずむ。
<ぺーはん、もうその辺にしとき。流石に痛々しいわ>
うっへい!
オレの勝手だろ
金はたっぷりあるんだ。
リッチマンアピールしたら、もしかして踊り子のネェーチャンとワンチャンあるかもしんないしっ。
「へへ、ずいぶんと羽振りが良いじゃねぇか、オッサン。俺達にも奢ってくれよ」
寄って来たのは、柄の悪い野郎だけだった。
オレはいま、[ジェイアマ]という街の飲み屋に来ている。
あれから二日たった。
あの後、すぐにターラゾカを出て、[コーヴァ]へと戻る途中の街だ。
正直、やるせない。
全てが虚しくて、空回りばかりの自分に自暴自棄を隠せないでいる。
「ぁあ、なめてんじゃねぇーぞっ!」
雑にあしらい、むしろ挑発しているオレに、絡んできた若者はブチキレて殴りかかってきた。
オレはそれを避けずに顔面へとくらう。
ガッシャァァンッ
吹き飛ばされて、隣のテーブルを巻き込みながら店内に派手な音を響かせる。
「・・・痛ってぇなぁぁ、この野郎っ!」
立ち上がり、勝ち誇った若者に向かって殴りかかる。
と同時に、視界にはAR表示が現れて相手の動きをトレースする。
「邪魔すんなぁ!引っ込んでろ、サポ助っ!!」
オレはAR表示を無視して、目に映る相手へと向かって拳を振る。
若者は、まさにAR表示された動きで、それをかわしてカウンターを放つ。
「グホッ」
鳩尾に入った拳により、呼吸が出来ない。
視界よりAR表示は消える。
どうやら、サポ助も怒ったみたいだ。
オレは呼吸困難なまま相手の服を掴み、フルフルとなりながら睨みつける。
「放せよオッサン。別にイジメたい訳じゃねぇんだぜ?楽しく幸せを分かち合おうってことさ。分かったならその金、全部出しやがれ」
「ぺっ!」
血の滲んだ、唾を吐きかけてやった。
「この野郎っ!!」
逆に胸ぐらを掴み上げられ、大きく振りかぶった右腕がオレを襲う。
オレはそれを無視して、相手の股間に向かって力一杯膝を蹴り上げた。
「「ぐわっ」」
ほぼ同時打ちとなった状態で、お互いダメージを食らって倒れ込む。
「テメー、やりやがったなっ!」
「おいおい、なに調子乗っちゃってるの」
「ぎゃはは、食らってやんの」
その様子に仲間の若者達が寄って来た。
両脇を捕まれ、強引に立たされる。
「テ、テメー、、、ぶち殺してやるっ」
正面では、股間を抑えながらヨタヨタと立ち上がり、激しく睨みつける若者。
「お前ら!外でやれっ!!これ以上迷惑かけんならオレも黙っちゃいねぇぞっ!」
店のマスターが激怒している。
元冒険者なのか、かなりガタイが良い。
そのまま店内を見渡すと、他の客たちは慣れているのか、あまり注目している様子はない。
オレはそのまま引きずられて店外へと出る。
あまり、綺麗な街とはいえない。
荒くれ者が多く、下町感溢れる雑多な街だ。
店の裏路地へと連れて行かれ、4人の若者よりボコボコに袋叩きを受ける。
懐を探られて、ダミーで用意している金を取られるが、予想より少なかったからか、さらに蹴りを入れて悪態を吐きながら、若者達はまた店へと戻って行った。
「痛ぅぅ・・・」
汚いゴミにまみれながら、上体を起こす。
全身打撲で顔も腫れ上がっているが、骨は折れていないようなので安心する。
痛みでフルフルとなりながら、タバコを取り出して火をつける。
<・・・無茶して。それで?気は晴れたんか?>
呆れた様子のサポ助。
「いや全然・・・ふぅー、、、頭が真っ白になるまで暴れてやるつもりだったけど、弱ぇわ、オレ。暴れる前にボコボコにされっちまった。痛ちち、、、」
<アホとちゃうか・・・ボクはどうあってもぺーはんの味方や。やからこそ言っとくよ。ホンマに大丈夫か?>
へ、
気使いやがって
心配し過ぎだっつーの。
「ふぅー、、、ああ、大丈夫。心は壊れてないよ。つか、さっきは怒鳴って悪かったな。メンゴ」
少なくとも素直に成れるくらいには吹っ切れたのかもしれない。
静かになったこの汚い裏路地で、一人の少女を傷つけてしまった罪悪感と向き合うくらいには、覚悟が固まったのかもしれない。
「複雑なのね。一人の女性を救ったことに違いはないというのに」
サポ助より、驚愕の感覚が伝わる。
そうでなくとも、オレもタバコを落としてしまうくらいには唖然とした。
「あら?失礼ね。それとも、もう私のことなど忘れてしまったかしら?」
視線の合間。
突然、その女性は目の前へと現れた。
「・・・なら、慰めてくれるのかい?イシュタル」
神の秘書で、システム管理をしている女神イシュタルだった。
「叱ることはあっても、慰める理由も責任もないわね。けど、お久しぶり。上手くやれているようね」
ビジネススーツを連想させるタイトな服装。
綺麗にまとめられた髪に、色気を隠せない顔つき。
「ああ、全てアンタのおかげさ。本当に感謝している。愛している。結婚してほしい」
さらっと告る。
「あら、いいの?けど、そんなことを言えば、あの人が黙っていないわよ」
「おっ?マ、マジで!!そんなもん、オレがどうとでも、」
「神なんだけどね、相手は」
「・・・・・・」
「うふふ、嫉妬深いわよ。愛人の私に近付く男なんて虫ケラのように潰すわよ」
オレは再度タバコを取り出して火をつける。
「バ、バーロー。か神だろうと、悪魔だろうと、イシュタルと結ばれるなら、こ、怖くなんかねぇよ。結ばれるなら」
ドヤ顔で言ってみた。
「プッ、うふふふ・・・やっぱり面白いわね、ジュンペイ。けど、ないわね。タイプじゃないもの。それに浮気性な男はもう懲り懲りなの」
どうやら、からかわれていたようだ。
心底楽しそうに笑われてしまう。
「ふぅー、、、オレはイシュタル一筋だよ。メインヒロイン?出会った時から運命を感じてたんだ」
「人妻サブマスターさんにホステスさんたち、それにエルフの女騎士さんも、かしら?」
「ぐ・・・やっぱり筒抜けか。最初の一言でそうじゃないかとは思ったけど」
あら、恥ずかしい。
どこまで見られてたのかしら。
「全てね、一人で****してたのも、ホステスさんのグラスをペロペロしてたのも知ってるわ。他にも、、」
「だぁー、もういいっ!分かった、降参。プライバシーゼロかよ。どうすんだよ、これから・・・ヤベ、超興奮する」
常に見られてると思うと、、、
「・・・ごめんなさい。その反応は予想外だったわ。冗談よ、カマ掛けただけ。見てない、私、これからも、そういうのは」
あれ?
赤面してシドロモドロになっちゃった。
ウブなんだから~
「ふぅー、、、ま、なんにしても有り難う、元気でたよ。否定するだろうけど、知っててこのタイミングで会いに来てくれたろ?それだけで十分慰めてもらったよ。やっぱり優しいんだな、イシュタル・・・けど、なにか用もあるんだろ?」
本当に気持ちが楽になった。
慰めてもらった。
けど、女神様がわざわざそんなことのためだけに姿を現したとも思えない。
「そ、そんなことは・・・いいわ、そういうことにしてあげる。(変に察しが良いんだから)ボソ」
テレてるのか、赤面して後ろを向いてしまった。
その際、ボロボロのオレに何かをしたようで、オレの体は発光して全身の痛みが消えていった。
「ふぅー、、、サンキュー、助かったよ」
ヨッコイショと立ち上がりながら、全身を確認する。
完全に回復している。
ついでに、汚れなんかもキレイにしてもらったようだ。
流石、女神様。
サスメガ
「ねぇ?ジュンペイ・・・アナタの目的は、なに?」
背中を向けたまま、なんでもないことのようにぶっ込んできた。
「えらく漠然とした質問だな。ふぅー、、、ないよ、そんなものは。これまでは生きることがそうだった。けど、最近は余裕も出てきたし、コーヴァでの問題が片付いたら世界を見て回るのも悪くないんじゃないかって思ってる」
イシュタル相手に嘘はつかない。
素直に感じているままを言葉にする。
「そ。無欲なのね。私にはわざと不器用に立ち回ってるように見えるのだけれど。それこそ傲慢に、我が儘に、生きる力を手に入れたんじゃなくて?」
オレは少し間を取ってから返答する。
「見てたんだろ?いつもケチョンケチョンさ。そんな大層な力は持ってないよ。それに、ふぅー、、、こっちの方が性に合ってるだ」
強がっている気はない。
振り返れば、もっと上手くやれたと思うことなど沢山ある。
けど、
誰だってそうだろ?
そんなもんさ、
生きるってことは。
「そ。確かにアナタらしいのかもしれないわね、安心したわ・・・だから、そうだからこそ、私は、、、アナタを殺せる。アナタを使える。アナタを利用出来る」
いつの間にか目の前よりイシュタルの姿は消えて、オレのすぐ背後より声がする。
今まで感じたことのない殺伐とした空気に、一瞬で冷や汗が吹き出した。
瞬間移動ってやつか?
やっぱり、管理者なんだな。
「ふぅー、、、そんな凄むなよ、イシュタル。オレはキミのためならなんだってするぜ。脅す必要はない。ただ、注文すればいい。気軽にポテトを頼むように。アレを手に入れろ、そこに行け、あの人を守れ・・・アイツを殺せ。なんだって協力するぜ」
その場凌ぎなんかじゃない。
イシュタルが助けてくれなきゃ、オレは完全に詰んでいた。
それに、オレが知る女神イシュタルが出すオーダーなら、どんな無茶なモノでも本当に必要だと思えるくらいには信用もしている。
本当に感謝してんだよ。
愛してるよ~
「・・・そ。礼は言っておくは、アリガト」
その瞬間、空気は緩和して威圧は無くなる。
オレはシャフ度で振り返り、ドヤ顔を決める。
けど、イシュタルはオレの返事に、なぜか寂しそうな表情をしていた。
「ふぅー、、、けど、説明くらいはあるのかな?」
別になくてもいいんだが、一応聞いてみる。
「そうね・・・管理者は一枚岩ではない。世界を乱そうとする勢力もある。手駒が欲しい。これでいいかしら?」
「ああ、十分だ。すぐに動こうか?ボス」
オレは改めてイシュタルへと向き直る。
少しだけ見つめ合い、そしてイシュタルは微笑んだ。
「フフ。本当に有り難う。けど、まだいいの。その時は連絡するわ、ジュンペイ」
その色気の割に、どこか幼い少女のような微笑み。
男に期待を持たすには十分な間合いだ。
そして、光と共にイシュタルは消えていった。
「ふぅー、、、」
信じられるかぁ~
あの娘、女神なんだぜ~
くぅぅぅぅ~
いいっ!
やっぱ、いい!!
正統派っ!
付属部品無しっ
だが、いい!
参ったぜ、こりゃ
モテる男?
デートの予約みたいだ。
あ
そういや昔、ヒマになったら連絡するねって言ってた営業先の娘がいたな。
・・・忙しかったんだな、きっと。
<はぁ~、ごっつキレイな人やね。ボクは正直イシュタルはんが一番タイプや。それにしても凄いな管理者様は。ショートワープも回復も全く理解出来ひんかったわ>
大人しくしてたのは、水面下で盗める技術を計測していたからだ。
「ふぅー、、、あんま、やり過ぎるなよ。オレ達の上司なんだから」
イエスッ、マムッ!
てなもんだ。
<で、どうする?今からでもコーヴァへと出発するか?>
傷が癒えたことで、夜中ではあるが出発可能だ。
「ふぅー、、、んなの決まってんじゃねぇか。仕返ししに行こうぜ。今度はちゃんと、オレ達でよ」
<お、ええね♪>
ニヤリと笑って、元いた店へと戻って行った。
一方、その頃。
「本当に、いいんだな?」
辞表を受け取った月組新隊長ヴィオレッタが、再度確認する。
「・・・もう、決めたの。必ず探し出して、ローランド隊長の仇をボクがとる」
不気味だった。
精霊や魔力が働いた様子も無かった。
どう思い返しても、あの重傷さが演技だったとは思えない。
なのに、
ローランド隊長は爆発した。
男は、傷など無かったかのように静かに立ち上がった。
それが全て、計算だったかのように・・・
「言いにくいんだが・・・隊長の死後、いろいろと悪い噂や物証が出てきたのはオデットも、」
「関係ないっ!・・・ゴメン、関係ないの。ただ、ボクは」
あの晩、ボルドッホ大臣が死んだ。
その息子のキールもバーバルも死体となって発見された。
無関係だとは思えない。
ボクだけが知っている。
あの日、一緒にいたあの男。
宿泊していた旅館は割り出している。
「あの男、[コーヴァのハンター]ジュンペイ・・・アイツを殺す」
それが、ボクのケジメだと思うから。




