33:教訓、きょ~くん、知らない人に会ったら付いて行きましょう
ガタゴト、ガタゴト・・・
オレは、いや、オレ達はいま、グルグルに拘束されて、馬車の荷台で守護隊隊舎へと連行されている。
「なぁ、解放してくれるんじゃなかったのか?なんでオレまで連行されんだよ」
荷台より馬車を操作するオデットへと不満をぶつける。
「うるさいっ!キサマが一番の重罪だ!個人的にじっくり締め上げてやるから覚悟しろっ」
あれ?
なんでこんなに怒られてるの?
むしろピンチを助けてあげたはずなのに。
その後、女騎士の呪文に巻き込まれて、気絶してしまったまでは覚えているんだけど。
怖いわぁ~、範囲呪文。
マジで普通にやられっちまった。
「末端騎士っ!こんなことをしてただで済むと思うなよ」
同じくグルグル巻きで拘束されているキールは、激オコぷんぷん丸です。
古い?
知らんし。
いま荷台の上には、オレとキールとバーバル。
そしてオデットを襲ったゴロツキ6人が連行されている。
オレとキール以外は、未だに気絶をしたままなのだが、キール氏は目を覚ました瞬間より怒りMAXの状態だ。
「まぁまぁ、どうせ後で権力使ってどうとでもなるんでしょ?いまはなに言っても聞いてくれないし、ここは大人しくしときましょうや」
正面に座るキールに向かって話しかける。
「うるさいっ!貴様なに者だ?気安く声を掛けおって」
「アンタのとこの客ですよ。間違えてあの女騎士に声を掛けたら捕まっちまったけど」
「ブハッ。貴様、正気か?守護隊の制服を見て声を掛けるなど」
正直に話したら、笑われてしまった。
「いや初めてターラゾカに来たのにそんな事情知らないよ。ちょっと離れてたけど、立ちんぼしてるから、そういうプレイなのかなぁって」
「くははは、それは災難だったな。いやいや、これは傑作だ。素直にうちの者を選んでいれば良かったものを」
「いや、全くだ。で、アンタの店、どんなシステムだったの?料金は?内容は?」
まだ諦めてなどいない。
この騒動が終われば、もう一度リベンジしてやるんだ。
それから、なぜかキールと意気投合して、新しいサービスやシステム内容をアドバイスしてると、あっという間に隊舎へと到着してしまった。
それからグルグル巻きのままで牢屋へと放り込まれ、しばらく放置される。
その間にバーバルも目を覚まし、いろいろと話を聞いていると、やはりコイツ等はクズで間違いはない。
状況も想像通り、キールの親であるボルドッホ大臣が親玉で分かり易い構図だ。
ただ一つ違うのは、キールが仕切るあの風俗街は、ターラゾカに多大な利益をもたらすことから街の外ということもあり、必要悪として黙認の事実として成立しているらしい。
ゆえに、そこに無断で騎士の手が入り、あまつさえ支配人のキールを連行したとあっては、オデットの自爆にしかならないのだという。
そんなクズ集団に馴染んで話し込んでいると、廊下の方より二つの足音が近付いて来た。
「ローランド隊長、やりました。以前取り逃がしたブブレイ商会のバーバルと、人身売買を斡旋したと思われる風俗街にいたキールです。現行犯により逮捕しました」
得意げに、嬉しさを隠しきれない子供のように報告をするオデット。
そして、その横に立つローランド隊長と呼ばれたイケメンエルフは、対照的に顔を青ざめて放心状態といった感じだ。
「?、隊長?」
「・・・オデット隊員。キミはすぐに隊舎へと戻り、命令があるまで待機しろ。あと、この事は他言無用。絶対に誰にも言うな、、、ここからは私が預かる」
「いえ、法務手続きなどで隊長のお手を煩わす訳にはまいりません、すぐに報告書を、」
「いいからっ、言われた通り待機しろっ!なにもするなっ!!分かったかっ!」
激高するイケメンに余程驚いたのか、オデットは引き吊った顔をして慌てて隊舎へと駆け出して行った。
牢屋の前で一人佇むイケメン隊長は、プルプルと震えながら膝をつき、絞り出すような声で話し出す。
「キ、キール様、、も、申し訳ございません、、、ど、どどうか、穏便に」
余程恐れているのか、冷や汗をかきながら低頭する。
「・・・ローランド。貴様の命令ではないのか?一週間前だったか、貴様がまた金を借りたのは」
静かに話し出すキールは、怒り狂うより迫力があった。
どうやら、コイツ等は知り合いのようだ。
「ち、誓ってそのようなことはっ!必ず、必ずお返しいたします」
「はっ、お前が返すのはいつも金ではなく、女ではないか。ギャンブル依存の借金をいったい何人の女が人生を捨てて肩代わりしているか、キサマ、その数を覚えているのか?」
「・・・彼女たちが勧んでしてくれているので。そ、そんなことより、今回の事はアレが勝手にやったことで、オレには関係ありませんっ」
必死に無関係を主張するイケメン隊長。
はぁ~
クズだ
コイツが一番のクズだ。
キールもバーバルも、弱みにつけ込んだ手口でクズに違いはないが、最低限の筋は通している。
だが、コイツはダメだ。
本気でテメェのことしか考えちゃいない。
胸クソが悪ったらねぇぜ・・・
「で、では、こういうのはどうでしょう?オデットをキール様に捧げます。アイツはオレに惚れてますので、テキトーに薬でも盛って連れて行きます。そ、それで、今回のことも借金もチャラということで・・・」
とんでもないことを言い出した。
惚れてるからって、オデットはテメェーのもんじゃないだろうに。
「えらく調子の良い提案だな。あの女騎士はオレの方で始末するつもりだったが、まぁ、奴は手練れだし、それも一興か・・・良いだろう、ただし、手は出すな。処女のままで裏切られたと気付かれぬよう連れて来い。絶望の底に落としてやる。それより迎えの馬車を用意しろ。いつまでオレ達を、こんな所に入れておくつもりだ?」
「はい、直ちに手配します。それまで汚いですが、あちらの看守部屋でお待ち下さい。へへ、やったぜ♪」
ダメ元での提案だったのだろう。
イケメンは一気に上機嫌となり、浮かれながら牢を開けて看守部屋へと案内する。
その際キールの計らいで、なぜかオレまで解放してもらった。
さらに悪党共に気に入られてしまったオレは、店に来た時にはオレを訪ねろ、などと、VIPサービスまで約束されて、お先に一人、守護隊隊舎より堂々と街へと出て行った。
<ぺーはん、どないする気や?>
外はすっかりと暗くなったが[マナライト]と呼ばれる街灯により、日本程ではないが街は照らされている。
大通りより外れて薄暗い裏路地へと入り、タバコに火を付ける。
「ふぅー、、、どうもしないさ、オレには関係ない」
自分でも分かっていた。
そんなことを言いながら、気分は晴れずに険しい顔のままだ。
<まぁ、どうするんかはぺーはんに任せるけど、あの娘、このままやったら薬盛られて地獄に堕ちるんやろな>
「チッ、煽るなよ。言ったろ?オレには関係ない。あの女騎士にはオレもムカついてるんだぜ。乳の一つでも揉ませろってんだ」
折角の旅行が台無しだ。
時間も気分もどうしてくれんだよってなもんだ。
<せやな、けど、その乳をあのキールやバーバル等がチョメチョメするんか~。まぁ、しゃーないな」
「・・・・・」
本当は分かっていた。
オレはビビっているのだ。
鬼族のように外敵と戦うのとは意味が違う。
襲われて対処するのでもない。
自分から大胆に人を襲うのだ。
いくらクズでも、権力者達だ。
絶対、面倒臭いことになるのは目に見えている。
だが、マンガみたいに証拠を揃えて悪事を明るみにするなんて、そんなタルい手順などする気もない。
そんなことには興味もない。
ただ、気に入らない
オレが気に入らないから潰す。
そんな[傲慢]な行動を取る、覚悟が固まっていないのだ。
「ふぅー、、、それは、気に入らないな」
力はある。
今のオレには[理不尽]に事を成すだけの暴力は備わっている。
<なら、どないするん?>
すでに[川本淳平]とは決別している。
元より自重など、優先する気もない。
ただ少し、小者のオレが戸惑っただけだ。
「ふぅー、、気に入らねぇんだ・・・・・気に入らねぇんだよ」
オレはそのまま、街の闇へと消えていった。
ショックだった。
独断だったとはいえ、悪者をボクが捕まえたんだ。
ローランド隊長も褒めてくれると疑っていなかった。
そんな隊長に怒鳴られたことより、睨まれたことの方がショックは大きかった。
茫然自失で言われた通り待機していると、ローランド隊長が部屋へと入ってきた。
そして、いきなり謝罪される。
理解が追いつかず呆然とするボクに、隊長はゆっくりと事情を説明してくれた。
どうやらあのキールなる人物は、近々行われる大規模な一斉摘発の重要人物なのだという。
ゆえに、いま捕らえてしまうと親の力で逃げられるうえに警戒されてしまう。
だからあの場ではああするより仕方がなかった。
あんな態度を取ってしまい、申し訳ない、と。
「だが、オデット隊員、いや、オデット・・・よくやった、頑張ったな」
頭にポンッと、ローランド隊長の手が乗る。
もうそれだけで、全てが報われた気がした。
けどさらに、隊長はこんなことを言いだした。
「思えば、キミとは二人で飲んだこともなかったな。今晩はオレに付き合え、これは命令だ、なんて、ハハハ。9時に時計広場で待っていてくれ、オレも用を済ませて必ず行くから」
顔を赤らめて、恥ずかしさを誤魔化すように命令するローランド隊長。
ボクはそんな隊長が部屋を出ていく姿を、身動きも取れずに呆然と見つめていた。
繁華街より少し外れた広場。
そこは待ち合わせでよく利用される場所だが、夜の九時ともなると余り人はいない。
オレは急いで知り合いのバーへと行き、この後の段取りを打ち合わせした。
オデットに、睡眠薬入りのカクテルをプレゼントするためだ。
こういったことには慣れている。
オレが女を用意して、薬を盛り、まわす。
学生時代より、もう数え切れない程の回数をこなしている。
それにしても、あのクソアマ。
余計なことをしてくれたもんだぜ。
まぁ、結果としては、そのお陰で借金とはオサラバ出来そうで良かったがな。
おっと、急がねぇと9時になっちまう。
こういうのは基本が大事だからな。
気遣いを怠る野郎は二流だ。
その辺は抜かりないぜ。
・・・10分前だってのに、まだ来てないじゃないか。
チッ、オレが誘ったんだから、30分前から待ってろってんだ。
ん、
なんだ、この野郎?
オレになんか用かよ、って、さっきのオッサンじゃねぇか。
え、キールの野郎の知り合いだよな?
ヤッベ、めっちゃ睨んじまったじゃねぇか。
あ?
オデットに手をだすな?
「なに言ってんだ?あの場に居たんだから、キールさんがご所望なのは知ってるよな?アンタ、なに者か知らんが邪魔すんなよ」
警戒レベルを上げる。
はっ、
どうやらこのオッサン、オデットを横取りする気のようだ。
あのツラに騙されて惚れでもしやがったか?
デメェーのツラ、見ろってんだ。
・・・メンドクセェ
オデットを追いかけて来たストーカーってことで斬っちまうか?
事実だし、キールの野郎も文句は言わねぇだろ。
「オッケェー、分かったよ。そんなツラすんなって。なんなら、これから一緒に飲みにでもっ!」
気安く笑顔で近付いて、話しかけながらその首を斬り飛ばす。
超高速の抜刀術
幼少期より天才剣士と言われ続けたオレだ。
[疾風迅雷]を操るオレのスピードはハンパじゃねぇ。
守護隊月組隊長の名は、伊達じゃねぇんだよ。
ん?
余りの手応えの無さに視線を上げる。
「マジかよ」
空振りだった。
オッサンはなにが起こったのか理解していない様子で、驚きもせずに身動きすらしていない。
チッ、
目測を見誤るなんて何年ぶりだ。
楽に殺れなくて済まねぇな、オッサン。
死んどけ。
殺気を隠すことなく、そのまま斬りかかった。
<な?話しかけてもしゃーないって言うたやん。こうなんのは目に見えとったで>
オレの首へとせまる攻撃予測ARを[グライドシステム]を使って体をずらし、何事も無かったようにかわす。
いやさぁ~
分かっちゃいるけど、流石にあれじゃん。
いきなり闇討ちすんのもさぁ~
初めてだし、ハードル高いじゃん。
なんか、切っ掛けとか欲しいじゃん。
<けど、ぺーはん、途中から言葉に詰まってシドロモドロになっとやん。びっくりしたわ>
うっせぇ
オレも後悔したよ
話しかけたは良いが、なんて言えばいいのか分かんなかっただよ。
けど、結果オーライだろ?
これで心おきなく殺れるってなもんだ。
空振りして一瞬動きを止めたローランドだが、すぐに殺気を放ちながら斬り掛かって来た。
「速っ!」
予想はしていたが、その想像以上のスピードに、慌ててバックステップで大きく立ち退きながら、[テンカウント]で作り出したナイフを投げて応戦する。
「なっ!」
そこにローランドは居なかった。
<ぺーはん、後ろや!>
サポ助の声に驚いた瞬間、[巴百式]のマントを硬質化させて斬撃を防ぐ。
「くそ、速すぎんだろ」
ギリギリの防戦に警戒レベルを高めて振り返ってみると、ローランドは距離をあけて仕切り直している。
「・・・オッサン。テメェーなに者だ?今の攻撃を防ぐってことは、最初の空振りもオマエがかわしたのか?」
どうやら本気にさせてしまったようだ。
今のローランドに油断などは感じない。
全力で殺りに来る様子だ。
<ぺーはん、舐めとった。実力は本物みたいや。アイツの速さを上方修正する>
鑑定ステータスを繋ぐ、サポ助の感覚をも上回るスピード。
舐めプだっただけに、ショックが大きい。
街の広場
いくら人は少ないとは言っても多少はいる。
すでに遠巻きに注目され、長引けば兵士達が駆けつけて来ることだろう。
本気を出す。
素早く右手をあげると同時に、デザートイーグルを[ストレージ]より取り出して発砲する。
===パスッ===
街中ということもあり[サイレンサー]は機動している。
しかし、やはりというべきか、ローランドの姿はそこにはない。
ニュータイプスキルを全力起動している緩やかな時間。
予測ARは追いつかず、大回りでこちらへと向かって来るローランドの後をARが追従している。
「くそっ」
さらに銃口を向けようとするが、間に合わずに[巴百式]で斬撃を防ぐ。
そして、ローランドは斬り抜けては、すぐに斬り抜ける。
何度も何度も多方向より素早く襲いかかるローランドに翻弄されて、防戦一方で反撃が出来ない。
<ヤバいでぺーはんっ。巴百式の防御は燃費が悪い、このまま硬質化を続けてたら、あっちゅう間にガス欠や>
超スピードを乗せた斬撃は思いのほか重く、そこに込める魔力はバカにならない。
「わーてるよ、、、こりゃ闇討ちしときゃよかった」
自惚れを自覚する。
[傲慢]な行動を選択したとたん、これだ。
気に入らねぇから、潰す。
潰せてねぇ~
オレの理不尽な力って、どこ?
全然、オレ強ぇぇぇじゃねぇーじゃねぇかっ!
四方八方より襲いかかる超スピードの攻撃。
防戦一方のこの状況を打破するため、強引に前へと出る。
<あかんっ!>
「ヒャッハ、そこなっ!」
一歩踏み出すや否や、ローランドはすでに正面より迫っていた。
===グサッ===
「ヒヒヒ、堅いねぇ~オッサン。びっくりしたよ。けど、そのマントの中はそうでもないみたいだな、クックク」
オレの耳元で囁くローランド。
「、、、オ、オデットを、巻き込むな」
わき腹に感じる激痛に耐えながら、最後の警告をする。
「ハッ、知るかよ。そんなに気に入ったなら買いに行けよ。明日にでも客を取るんじゃねぇか?クハハ、げっ、汚っ!」
口に溢れた血をローランドに向かって吐きかける。
だが、その動作を瞬時に悟ったローランドは、突き刺したオレのわき腹を、そのまま横へと切り裂いて、距離をとって回避する。
「グハッ」
気が遠くなりそうな激痛に耐えながら、溢れ出る血を少しでも抑えようと腹を抱える。
奴はもう、オレを敵とは見ておらず、服が汚れていないかチェックしている。
そこへ、
「ローランド隊長っ」
広場の端よりオデットの声がする。
「、、、くそ、間に合わなかった」
オレはそのまま、崩れるように地面へと膝をつけた。
しばらくの間、呆然としていた。
もうとっくにローランド隊長は部屋から出て行った。
でも、いつまでもさっきの言葉が信じられず、頭の中で繰り返している。
9時に時計広場?
ただの上司と部下の飲み会?
でも、あの照れた顔は、デートってこと?
・・・・・
・・・・
・・・
きゃぁぁぁっ
え!?
なに?
誘われたの!?
いいの?
いいよね?
はっ
どうしよう、、、
仕事の飲み会なら制服でいいけど、デートってことならこんな男装してる訳には、、、
え、
どっち?
どうしよ?
ヤバッ
あと二時間もない。
と、と取り敢えず、風呂よ。
シャワーを浴びながら考えよう。
げ
ヴィオレッタ
う、ううん
な、なんでもないの
ちょ、ちょっとボクは急ぐから、なんでもないから、なんでもないったらっ!
友人に風呂場で尋問されたが、なんとか誤魔化して部屋へと戻る。
ぁぁぁ、時間がない、時間がない、時間がない。
ど、どうしよう?
ああ、考えている時間もない。
よ、よし、
こうなったら、勝負に出よう
買ってから一度も着たことのない、女の子らしいワンピースに袖を通す。
我ながら少し少女趣味だと思ったが、これしか女性らしい服は持っていないのだ。
「げ、遅刻だっ」
最低限の身嗜みを整えて、急いで部屋を出る。
形振り構わずダッシュしてギリ間に合うレベルだ。
こんなスカートで走る訳にもいかず、気持ちだけが焦って気が気じゃない。
広場が見えてきた。
中央に建つ大きな時計台が、少しの遅刻を責めるように突きつけてくる。
「ぁぁ、やっちゃった・・・あれ?なに、あの人だかり?」
急ぎ足で広場へと向かうと、入り口付近に十数名の人だかりが出来ている。
「スミマセン、ごめんなさい。ちょっと通してください」
迂回する余裕もなく、その人だかりの隙間を謝罪しながら強引に抜けて行く。
そして目に入った光景は、剣を抜いたローランド隊長と、少し離れたところに腹を抱えて前のめりとなった男性の姿だった。
「ローランド隊長っ!」
思わず声を掛けてしまった。
距離にして30m。
逆光のため、その表情は見えない。
状況から察するに、誰か、暴漢でも斬ったのだろう。
隊長に怪我は無さそうだし、問題はなさそうだけど、、、
ドサッ
相手の男は腹を抱えて前のめりのまま、土下座をするように膝をつく。
そのお腹より、血が滴っているのが分かる。
やりすぎだ。
このままでは、彼は死んでしまう。
圧倒的な実力を誇る隊長。
いつも無力化だけをするのに、こんなふうに相手を斬るのは珍しい。
隊長に向かって一歩を踏み出すと、向こうもボクに気付いた様子で、片腕を上げて返事をする。
その顔は、いつもの慈愛に満ちた笑顔だと想像はついたが、影になっているためか、なぜか険悪なものを感じてしまった。
「スミマセン隊長、遅れてしまって・・・いったいなにが、」
謝罪しつつ、慌てて足を速めようとしたその瞬間、
===ボガァッンッッッ!!===
ローランド隊長が爆発した。
「え・・・」
理解が追いつかない。
呆然と立ち尽くし、力が抜けて崩れるように座り込む。
「・・・ローランド、隊、長、、、」
気が付けば、頬に涙が伝っていた。
「・・・くそ、間に合わなかった」
オデットには見せたくなかった。
会いたくもなかった。
マップレーダーにマーキングしてあるので、間に合うと高を括っていた。
それがこのザマだ。
最悪のタイミングで、現れてしまった。
「み、見るな・・・」
声をあげることも出来ない。
誰にも聞こえない呟きでしかない。
すでに、ローランドのポケットの中には、手榴弾を忍ばせている。
===ボガァッンッッッ!!===
ローランドが爆発する。
ピコンッ
頭の中でレベルアップのチャイムが鳴り、傷が全快する。
オレはゆっくりと立ち上がり、タバコに火をつける。
頭では、速やかに立ち去るべきだと分かってはいたが、オデットへと振り向かずにはいられなかった。
「・・・オ、オマエかぁぁ!オマエがやったのかっ!!」
座り込んだオデットより怨嗟の声がする。
「・・・・・」
なにも言えず、広場より立ち去ろうと歩き出す。
「殺してやるっ!絶対だっ!!必ずオマエを探し出して、絶対にぃオマエを殺してやるっ!!」
腰を抜かして立ち上がれないオデットは、立ち去るオレの背中に、その覚悟と恨みを込めて吐き続けていた。




