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32:赤く咲いても白く咲いても薔薇は、薔薇だ






 「いやぁ、脱輪してしまって、どうしようかと途方に暮れていたんですよ。ああ、お召し物まで汚させてしまって申し訳ありません。助かりました、騎士様」


 「当然のことをしたまでです。困っている人を見過ごす訳にはまいりません。宜しければこちらもどうぞ、今朝採れたリンゴです」


 ターラゾカの森より、少し離れた街道。

 荷馬車が脱輪して困っている村人を手助けした。


 「これは美味そうなリンゴだ。重ねてお礼申し上げます。あのぅ失礼ですが、お名前を伺っても?」


 「そんな、名前だなんて(ボソッ)・・・・・あ、ボク、いえ、私はターラゾカ守護隊[月組]所属、オデット・スワントールです。道中、お気をつけて」


 ピシッと敬礼をする。


 「オデット様ですね、クックク、、、いや失礼。有り難うございました。では、私はこれで」


 礼を言って立ち去る村人を見送り、自分もまた、街へと戻る準備を行う。


 「あ、イターニ村はそっちじゃないですよ!・・・あれ、聞こえていないか。別にイターニ村へ帰るとは言ってなかったし。けど、この先にそれ以外の村なんてあったかな?・・・ま、いっか、良いことが出来て気分がいい。ボクも街へと戻るとしよう」






 「バッカァモォォォンッ!それは盗賊じゃ!この前のミーティングでなにを聞いておった!!偽装運搬の捕縛、抑止するための警邏じゃぞ。手助けした挙げ句、リンゴまで渡してお礼を言われるなど、騎士の恥じゃ!少しは反省しろっ!!」




 バタンッ。



 守護隊、大隊長室のドアを閉め、深いため息をついてしまう。

 

 また、やってしまった・・・


 半年前、念願の[守護隊]へと入隊した。

 しかも配属されたのは、憧れの[ローランド]様が隊長を務める[月組]だ。

 ボクは3年前、凄い山奥の古い田舎より騎士学校へ入学するために、ここターラゾカへと初めて出てきた田舎者だ。

 学生時代よりローランド様は、剣の腕を褒めていただき、良くしてくれたというのに・・・

 不甲斐ない。

 入隊してから、こんなミスばかりを繰り返している。


 「オデット。ハハ、聞いたぞ、またやってしまったんだってな」


 落ち込んで廊下をトボトボと歩いているボクの肩を、ポンッと掴んできたのは同期でライバルでもある[ヴィオレッタ]だった。


 「笑うなよ。本気で落ち込んでるんだからさ」


 「いや、笑ってやる。恥でも笑い話にした方がいい内容だ。キミは優し過ぎる。今回のことだって、困っている人を助けたい一心で招いた結果だ。もっと疑うことを、キミは学ばなければいけない」


 背が高く、気品溢れる美しさを兼ね揃えたカッコイイ女性だ。


 ボク達エルフの出生率は、女性8:男性2だ。

 どうしても騎士を目指す者が[男装]をするのは、都会では常識とされていた。


 「・・・間抜けなだけさ。有り難うヴィオレッタ。けど、今は一人にしてくれ。すまない」


 親友の優しい眼差しを背中に感じながら、ボクはそのまま隊舎の屋上へと向かう。


 街の中央にある[世界樹の城]と繋がった大木。

 ここはかなりの高所から街を見下ろすことが出来る。

 一人、黄昏ながら街を見下ろして、自己嫌悪する。



 「キミは学生時代から変わらないな。落ち込んだ時は、いつも高いところに上がりたがる」


 一番顔を会わせたくない人が、むこうからやって来てしまった。


 「っ、ロ、ローランド隊長っ、申し訳ありませんでしたっ!」


 慌てて振り返り、90度に謝罪する。


 眉目秀麗。

 男性エルフであるローランド先輩は、学生時代より皆の憧れの的だ。

 誰にでも優しく、時に厳しい隊長は、そんな私を無視して横へと並び、街を見下ろしながら話しを続ける。


 「そうだね、キミのお人好しやドジなところは美徳だけど、騎士として甘やかす訳にはいかない。しっかりと反省しなさい」


 「・・・はい、月組にまでご迷惑を掛けてしまい、どんな処分も、」


 ポンッ


 頭を下げたまま謝罪を続ける自分の頭に、大きな手のひらが乗る。

 恐る恐る視線をあげてみると、慈愛に満ちたローランド隊長の笑顔があった。


 「っ!」


 一気に赤面するが、目が離せない。


 そんなボクに、ローランド隊長はなにも言わずに、頭をポンポンとだけ叩いて、その場を後にする。


 「ほらっ、オデット隊員!次のミーティングを始めるぞ。遅刻したら隊舎の掃除を一人でさせてやる」


 屋上のドアに手を掛けながら、ローランド隊長が叫びあげる。


 「は、、、はいっ!すぐに行きますっ」


 ボクはそんなローランド隊長を、追いかけるように駆け出していった。







 「なぁ、悪かったって・・・けど、そんなとこで立ちんぼしてるオマエも悪いんだぜ。だから頼むよ、このロープとってくれよ」


 確保されました。

 気が付くと、芋虫のように全身グルグル巻きにされて、手頃な木にぶら下げられています。

 まるで、昭和のハンターのようです。

 モッコリだけに。


 「うるさい、少し黙っていろ。今は千載一遇のチャンスなんだ。全てが終われば解放してやらんでもない。だが、いまキサマを自由にすれば全てが無に帰す可能性がある。だから悪いようにはしないから、そこで大人しくしていろ・・・しかし、風精霊の力で、完全に気配を絶っていたというのに、キサマは」


 ブツブツと文句をもらす女騎士。


 「あ、ハリコミ中でしたか?なら、ホシはいま、洞窟の中でお楽しみ中なのですね。そして美少女のアナタは、こんな所で見張りをしつつ、いま中で行われてる行為を想像しながら出てくるタイミングを計っているのですね。どんな気分?ねぇ、いま、どんな気分?モンモンしてる?」


 <ぺーはん、流石にそれは変態やで>


 うっせぇ

 オレだって怒ってんだよっ

 どうしてくれんだよ、オレの燃え上がるリビドーを。

 ちょっとくらいウブそうな美少女の恥辱の表情を楽しんでも罰は当たらねぇだろ。


 石が飛んできた。


 罰は当たるようです。


 「だ、黙れっ!そ、そんな訳ないからなっ!!そん、」


 「しぃぃいっ!しぃぃぃっ、声がデカいって。見つかったらどうすんだよ。ハリコミ中だろ?自覚持てよ」


 「キ、キサマァァ・・・」


 正論なだけに、地団駄を踏んで悔しがる美少女エルフ。


 「で、真面目な話、そんなに切羽詰まって大丈夫なのか?見たとこオマエ一人じゃねぇか」


 「う、うるさい。キサマには関係ない」


 「いや、そいつ捕縛するまで解放されないんだろ?じゃあ、関係なくないじゃないか。最悪、失敗してオマエが負けたら、オレピンチよ?とばっちりよ」


 非常に真面目な性格のようだ。

 オレの屁理屈を、まともに受け止めている様子だ。


 「それは・・・だが、ボクも引けないんだ。どうしてもこのチャンスを活かして汚名返上をせねば、ローランド隊長に申し訳がない・・・キサマには悪いがそこで付き合ってもらうぞ、万が一でも危険が及ぶ時には、命を張ってでもキサマを解放すると約束する」


 「堅いんだよ・・・どうやら、見たまんまの独断専行って訳か。なにをヤラカしたのかは知らねぇが、その失敗を取り戻したいのね。よく有る話じゃねぇか。じゃあ、尚のことロープを解いてくれよ、逃げないよ。協力する。抱き合った仲だし♪」


 また石が飛んできた。


 「フンッ、キサマなど信用できるか。大体、ボクはキサマのような下品でいい加減な奴が大キラ、」


 「おい、誰か出てきたぞ。そいつなんじゃねぇのか?」


 オレが吊された場所からは洞窟が見えない。

 だが、マップレーダーの動きで人の流れは監視出来る。


 「なにを、、、、、ヤツだ」


 オレの言葉に疑いタップリの様子で振り返った女騎士さんだったが、どうやらビンゴだったようだ。


 「もう一人は誰だ?ボクが街でヤツを見掛けた時には一人だったぞ・・・まぁいい、二人とも捕まえれば良いだけの話だ。少し待っていろ、後で解放してやる」


 剣を握りしめ、こちらを振り向きもせずに、そのまま駆け出そうとする。


 「待てっ!そんな店先で騒ぎを、、、チッ、行っちまいやがった」


 神秘的で、吸い込まれそうなほどの美少女エルフ。

 黙っていれば凛として、神々しいほどの佇まいなのに、どこか幼く、世間知らずで視野が狭い。

 そのくせ男装までして、喋ると残念な印象だ。


 「・・・やれやれ」






 「そこを動くなっ!見つけたぞ!!」


 娼婦が周辺に多く立っているなか、洞窟の店先で青年の男性エルフと話している男へと剣を向ける。


 「おやおや、これはこれは・・・確か、月組のオデットさんでしたか?いや~、その節はどうも」


 男は慌てる様子もなく、剣を構えるオデットに一礼をする。


 「フンッ、自ら証拠となる出会いを暴露するか。いい覚悟だ、神妙にお縄につけっ!」


 「これは異なことを。はて?私がなにかご迷惑をお掛けするようなことを致しましたか?」


 「ふざけるなっ!自由都市ナニュワを拠点とするブブレイ商会の[バーバル]。すでに調べはついているぞ、我がターラゾカにおける不法採取、及び拉致による人身売買の疑いだ。ボクはもう騙されたりしないぞっ!」


 以前、街道で出会った時には見窄らしい村人のようであった。

 だが、いま目の前にいるバーバルは、成金貴族のような華美な格好をしている。


 「ほぉう、よく調べられましたね。如何にも、私、ブブレイ商会のバーバルで間違いありません。確かに私どものブブレイ商会に、そのような噂があるのは存じておりますが、噂だけで逮捕されるわけにはまいりませんな。その辺の疑いに関しましては、先日、ボルドッホ大臣にも理解していただいたはずですが?」


 悪びれる様子もなく、堂々と無実を宣言される。


 「よくもそんなことが言えるなっ!では、いま後ろに連れている、その女性たちはなんだ?ターラゾカどころか、アシノミヤ王国内では人身売買は重罪だぞ」


 そう、

 バーバルの後ろには、手錠を連結された女性等が5人連れられている。

 誰がどう見たところで、この娼館との人身売買が行われたことは明白だ。


 「それこそ偏見でしょう。ただの派遣ですよ。確かに手錠を繋ぐのは心苦しいのですが、逃げられてはご苦労いただいた、こちらの[キール]様にもうし、」


 「もうよいっ!」


 見え透いた言い逃れを話すバーバルを遮り、今まで黙って見ていた青年エルフが前へと出た。


 「いい加減にしろよ、末端騎士が。黙って聞いていれば確たる証拠もなく、我が客人を愚弄しおって。さらにはボルドッホ大臣の息子であるオレにまで人身売買の疑いだぁ?弱小の月組風情が、調子に乗るなぁぁ!」


 歪んだいやらしい表情は吊り上がり、長髪の巻き毛を振り乱しながら右手を振るエルフの青年。

 すると、すでに周辺で待機していたのか、武装した集団が飛び出してオデットを取り囲む。


 「く、ははは。舐めるなよ、女騎士。なぁ~に、殺しはしないさ。騎士の失踪など珍しい話でもない。ツラは良いんだ、薬漬けにしてしっかり可愛がってやる、ハハハ」


 高笑いをして勝ち誇る大臣の息子、キール。


 ドサッ


 一人のゴロツキが地面へと倒れる。

 そして入れ替わるように、剣を鞘へとしまうオデットの姿があった。


 「侮っているのはどちらだ?あまり月組を舐めるなよ」


 「ぐ、、、い、いけっ!もう殺してもかまわん!その女騎士を取り押さえろっ!」


 四方より襲いかかる集団。


 だが、オデットは舞うような剣術でそれに対抗する。

 6人のゴロツキは、それなりに手練れの様子だが、一人、また一人とオデットに倒されていく。


 辺りは混乱し、逃げまどう娼婦たち。

 だが、キールもバーバルもニヤニヤするだけで逃げる様子はない。


 (っ!・・・なんだ、あの余裕は?なにがあるとい、、くっ!)


 不安を感じた瞬間、

 その疑問はすぐに答えを表した。


 「、、う、動かない」


 全身が金縛りにあったかのように動かない。


 「フハハ、どうだ?この[世界樹の杖]の呪縛は。我らエルフにとっての恩恵は、加工方法によってはこんな使い方も出来るのさ」


 真っ赤な杖。

 本来、強いバフを与えることの出来る[世界樹の杖]。

 それをなんらかの方法で、デバフへと反転させたリバースアイテム。

 特に世界樹と親和性の高いエルフ族にとっては、その効果は絶大だった。


 「く、くそ、、、」


 さらにオデットは気付いてはいない。

 自身がエルフ族の中でも、特に血の濃いエンシェント・エルフの末裔だということに。


 剣を構えた状態のまま、身動きがとれないオデット。

 キールは杖を掲げたまま、勝ち誇っている。

 一度倒したはずのゴロツキ達もヨタヨタと立ち上がり、動けないオデット囲んで殺気に満ちている。


 そして、バーバルはいち早くオデットの前に立ち、その頬へと手を伸ばす。


 「キレイな顔だ・・・これは高く売れる。おや?もしかして処女ですか?く、はは、これはいいっ!いや、だが、それではおさまらん。やはり十分に楽しんでから売り払ってやる」


 頬をイヤラシく撫で回す手が、だんだんと下へと降りていき、首筋から鎖骨へと、さらに胸へと到達しようとした瞬間、


 「や、やめ、、いやぁぁっ!」


===バァッンッ!!===


 オデットの叫び声とともに、乾いた破裂音が上空で響く。

 同時にキールが掲げていた、真っ赤な世界樹の杖が弾かれるように砕け散った。


 「なにっ!」


 驚き戸惑うキール。

 取り囲んだゴロツキも周辺を警戒する。


 ゆえに、気付かなかった。

 その中心で自由を取り戻したオデットが、発動準備をしていた精霊術への最後の仕上げを行っていたことに。


 「~~~~・・・多少の後遺症は覚悟しろ、[エア・プレッサー]っ!!」


 風精霊魔法、範囲殲滅中位魔法。


 爆発的な超大気圧が周辺をプレスする。

 行使者であるオデット以外の生き物は、突然の気圧の超圧迫に、呼吸が困難となり、激しい目眩と平衡感覚の消失でその場に倒れて悶え苦しむ。

 そして、そのまま泡を吹いて気絶する。

 

 全ての者が地面に倒れたのを確認して、オデットは術式を解除する。


 「・・・ふぅー」


 流石に一番から四番までの術式を破棄して、ほぼ無詠唱で中級術を行使するのは負担が大きかった。

 大きなため息をついて、事態の終結に安堵したのも束の間、真上の枝が激しく揺れた。


 そして、


 「きゃっ」


 突然、人が降ってきた。

 しかも、あろう事か、覆い被さるように押し倒されてしまう。

 

 「い、いやぁぁぁ」


 叫びながら、必死に振り解こうとするが、ソイツはボクの胸に顔を埋めて、ガッシリと抱きついて硬直している。

 セミのようにホールドされてしまい、髪をつかんで顔だけを持ち上げてみると、先ほどロープでグルグル巻きにして、吊していたはずの男だった。


 「ま、またキサマかぁぁ!どこから沸いて出たぁぁ!!」


 すでに白目を向いて気絶しているようだが、容赦なく風精霊を暴発させて、空高くへと吹き飛ばしてやった。

 







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[一言] バフ、デバフがぱふぱふに、、、 おっと「パフ」になってますよ。
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