第3話 月曜日
♪(昭和のジングル)
「こんばんは。『黄昏ミッドナイト』のお時間です。
お相手は、昭和のビックリマンシール保護委員長こと、DJ蒼坂です。
さて皆さん。昔、ビックリマンチョコってありましたよね。
お目当てはチョコじゃない。シールです。
ヘッドが出た日には、学校中の人気者。
机の引き出しを開ければ、厚紙のケースに大事そうに並べていた人もいたんじゃないでしょうか。
でも、不思議ですよね。
子どもの頃は、たった一枚のシールが宝物だったのに、大人になると、何が宝物なのか、自分でも分からなくなる。
毎日仕事をして、ご飯を食べて、眠る。
何の代わり映えもしない、平凡な毎日に思えるかもしれない。それでも何かに期待してその日を待っている。
『その日』がどんな日なのかは分かりません。だけど、そんな小さな楽しみも、案外、人生を支えてくれているのかもしれませんね。
それでは最初の曲。
ラジオネーム『スーパーゼウスは最後まで出ませんでした』さんからのリクエスト。安全地帯で『悲しみにさよなら』どうぞ。」
♪安全地帯(悲しみにさよなら)
月曜日。
また一週間が始まる。
始まるというより、先週の続きが静かに再生されるだけだった。
朝礼が終わる。
パソコンを立ち上げる。
メールを開く。
いつもの仕事を、いつもの順番で片付けていく。
仕事には慣れた。
失敗もしない。
評価も悪くない。
それなのに、この先に何も待っていない気がしていた。
隣の部署から笑い声が聞こえる。
若い女性社員たちが課長の机を囲み、楽しそうに話していた。
「課長、それ絶対違いますって」
「えー?そうかなあ」
笑い声が弾む。
彼女は手を止め、少しだけ顔を上げた。
私が新人だった頃、上司とあんなふうに笑いながら話すことなんて考えられなかった。いい時代になったんだな、と思う。女性が肩書きを持つことも珍しくない。
別の課には三十代の女性課長がいる。
優秀で、他社から引き抜きの話もあったらしい。
羨ましい。
心の中で呟いて、小さく苦笑する。
もう遅い。
結婚もしなかった。
子供もいない。
ならせめて、仕事だけでも何かを残したかった。そんなことを考える年齢になっていた。
昼休み。
窓の外を見ながら弁当を食べる。
ふと思い出す。
図書館で見かけた、落ち着いた男性。司書さんではなかった。では、何をしている人なんだろう。名前も知らない人のことを考えている自分に気づき、少しだけ可笑しくなった。
その頃。
別の会社で、男は資料を見つめていた。
「課長、今日予定があるので定時で帰ります」
若い部下が言う。
「あ、私もです。彼氏が会いたいって」
「この資料だけ、まとめて帰ってくれ」
「えー、課長お願いしますよ」
笑いながら肩をすくめる。
「私が急いでやったら、この前みたいにやり直しになりますよ?」
周りも笑う。
男も笑う。
「いいから行け」
そう言うしかない。静かになった事務所で、一人キーボードを叩く。
昔の会社は理不尽だった。残業は当たり前。
怒鳴られることも珍しくなかった。あの時代には戻りたくない。そう思う。
だけど。
結局、いつも自分たちの世代が間に挟まれていた気がする。我慢しろと言われ、変われと言われ。気づけば五十代になっていた。
窓ガラスに映る自分を見る。疲れた顔だ。
資料を閉じ、電気を消す。
帰り道、信号待ちで車を止めた。ふと、県立図書館の案内標識が目に入る。
土曜日まで、あと五日。
なぜか、その数字を数えている自分がいた。
♪(エンディング)
「子どもの頃は、『次はスーパーゼウスが出るかもしれない。』
そんな期待だけで、お菓子を買っていました。
大人になると、『明日も同じ一日だろう。』そんなふうに思ってしまう日があります。
でも人生って、案外、一枚のシールみたいなものなのかもしれません。
何気なく開けた一日の中に、思いがけない『当たり』が入っていることもあります。
だから、もう少しだけ、期待して生きてみる…そういうのも案外、悪くないですよね。
それでは最後の曲です。
岡村孝子で『夢をあきらめないで』
お相手は、昭和のヘッドシール未コンプリートこと、DJ蒼坂でした。
それではまた来週、この時間に……。」




