第39話 危機おかわり
場面は戻ります。
「《崩国の姫》はもう一体おります。くっふっふ……《皇都の壁》は現在、無事だと思われますか?」
軽い調子でそう言うブヨークン。
「ふん! 虚言で我らをーー」
声を上げた魔人族のおっさんにナイフが投げられた。
でも大丈夫。キン! と気持ちが良い音が響く。
ソレガシの旦那が弾いてくれた。
「無事だと思われますかだ? 知らねえよバァカ。適当言ってんじゃねえぞ」
腕を垂らしたブヨークンが、肩を震わせて笑う。
「くっふっふ……。確かに、証拠はありませぬなぁ。ならば、えっちらおっちら呑気に帰ればよろしいかと」
くそ。腹立つなコイツ。
「サジーさん、アグー。どう思う?」
知恵袋の二人に聞いてみた。
声をかけたサジーさんから、凄い複雑な魔素が放出されてる。
「可能性はあるね。でもミーを始末したそうだったから、もう一体いるんならこの場に投入しないのは違和感があるね、うん」
「逃げるスキを伺う為にワシらを惑わしている……という事もあり得るの。逃がすわけにはいかんがな。こやつには聞きたい事が山ほどある」
サジーさんが指をクルクル回して魔法陣を出した。
そこから金色の刃をシュシュっと飛ばして、ブヨークンの両腕両足に突き刺した。
「かなり強く魔素妨害を出してるけど。一応ね、うん」
アグーがふわふわと、俺の横に並ぶ。
「チョーロクを知っておるな? 主らの、最終的な目的はなんぢゃ?」
お。
いい質問。
まあ答えが返ってくるならだけど。
「お答えする必要を感じませぬなぁ。くっふっふ」
やっぱな。
サジーさんの刃が刺さっても痛がってねえし、拷問も意味なさそう。
俺は一気に距離を詰めて、ブヨークンの白仮面を掴む。
「お前らの弱点はこの仮面だろ? 質問にハキハキ答えやがれ握り潰すぞ」
「くっふっふ。どうぞ」
……はあ。
時間もねえしな。
「みんな。もういい?」
「仕方ないね、うん」
サジーさんからオッケーが出た。
聖王国組や二大国の偉い人たちも頷いた。異論はなさそう。
コイツどんな能力を隠してるか分かんねえし、転移とかで逃げられるデメリット考えたら早めに何とかした方がいい。
「じゃあメイさん。どうぞ」
白仮面を握ってない手を首根っこに回して、メイ姫の方にブヨークンの身体を向ける。
メイ姫は護衛の中年さんからナイフを受け取り、スタスタと近づくと逆手で刃を仮面に突き立てた。
仮面がひび割れ、パリンと乾いた音をたてて砕ける。
ブヨークンをすっぽり覆っていたかたびらからボシュっと黒い煙が上がり、軽鎧だけが残った。
俺はそれをポイする。
「生身のない男か……。魔物だったのか? 魔王軍の残党でしょうか?」
緑色の亜人さんが疑問を投げかけてきた。
アグーがそれに答える。
「魔王軍の残党ならば二大国を争わせる意味は分かりますぢゃ。西側が東側へ支援をする余裕がなくなりますからの。しかし、集まった兵たちを一網打尽にしようとした理由が分かりませぬ。争わせたままの方が都合が良いはずですし、あれ程の魔獣を使役するならば、東で使って魔王軍の拠点を取り戻そうとするでしょうしの」
「そうだね、うん」
「なにより、あの話が真実ならば数百年前からヤツは存在した事になる。魔王軍がその頃から暗躍していたならば、人魔大戦までの間が開きすぎていて不自然ですぢゃ」
謎はまた謎のままね。
でも、今回の事で性格の悪いヤツ等がいるって公になったし、大陸七国ってのが協力すれば手の打ちようもあるだろ。
それより目の前の事をなんとかしねえと。
「とにかく、サジーさんの転移で早くメサルテに戻ろう」
ブヨークンの言ってた事が気になる。
「待っておくれ……フリードリッヒから念話がきたよ。……!!」
サジーさんが、チラッと緑の亜人さんと取り巻きを見た。
「えっと。ユーは軍務担当官の一人、ルウガ・ゴファルス代議員だよね?」
「はい。《銀伯爵》様」
胸に手を当てて応じる亜人さん。
「魔防都市メサルテが取り込み中らしいんだよ、うん。ちょっと被害が出てるみたいなんだ。後日、前述の連絡の際に相談する事があるかもしれない。その時は宜しくお願いしてもいいかな?」
「それは……。その時はポロイス共和国が、友好国として確約致しましょう」
「感謝するよ、うん。じゃあ、ルニア・オリ・バイカラーくん」
「ハッ! サンジェルマン卿!」
魔人族のおっさんはバイカラーっていうのね。
「軍を後退させておくれ。後日連絡をしますって約定書も書いてお渡ししておいてね、うん」
「承知いたしました」
ゴファルスさんとバイカラーさんが指示を出し始める。
サジーさんが涼しい顔をしてそれを眺め、くるっと踵を返すと一転、真顔になった。
スタスタと歩いて、いくつか立っている天幕の一つに入っていく。
ついていく俺たち。
ペガサスも入ってきたからちょっと狭い。
「すでに皇国軍5万人が壊滅したらしいよ。急ごう」
え?
「まさか……ホントに《崩国の姫》が?」
俺の疑問に頷くサジーさん
「メサルテには……ソマリが、ソマリたちがいますわ……」
メイ姫が呆然と呟いた。
「サジーさん! 転移しよう!」
逸る俺に、冷静に応じるサジーさん。
「そうだね。……でも《崩国の姫》が相手ならヘタな戦力は足手まといになる。今のミーたちで《崩国の姫》を退治できるかな?」
それは……。
「できる」
みんなが俺を見た。
できるよ。できる。
やるんだよ!!
「アタシは行きます」
「某も同行しよう」
マキマキと、ソレガシの旦那が声を上げた。
「そのメンバーがベストかもね。今戦えるのはアルもだけど、体術使いに毒で触れられない相手は相性が悪い、うん」
「マキナが行くならワシも行かねば」
「分かったよ。アグーさんもサポートしておくれ」
アグーは黙ってマキマキの背中にくっついた。
図らずも異界人組だな。
でもマキマキはかなりジュエルパワーを使ってるみたいだし、旦那もあの槍がありゃあ戦闘フォームの俺より強いけど、今は素手だ。
俺が頑張んねえと。
シソーヌ姫も頑張ったんだ。やってやる。
5人(毛も含む)並んで転移の準備をする。
「みんな……やっちゃえ」
シソーヌ姫が強い目で激励してくれる。
俺とマキマキが親指を立て、その様子を見た旦那が真似をした。
と、顔色の悪いアルマが一歩前に出る。
「待っている人間がいる事……忘れないでください。どうか、生きてまた」
それを聞いて、ハッとさせられた。
そうか……俺にはもう、この世界にも……。
視界が歪んだ。
大共和国は大皇国の先進魔術を取り入れようと必死です。
バイカラーさんも自分の派閥の長が居なくなったし、貿易で自分の力を上げて出世したいと考えています。
WIN-WINです。




