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第40話 約束


 転移した先もまた戦場だった。

 広い街道辺りは大勢の人間が倒れ、見覚えのある城壁は所々崩れている。

 恐ろしい数の蜘蛛がバラバラになって城壁の辺りを埋め尽くしていた。

 その中に立ってんのは《崩国の姫》だ。

 さっきの場所で爆死したヤツより一回り小さいけど、身体に纏った毒々しい霧が強大さを増してる感じがする。そんで上半身を突き出しながら城壁の上を威嚇しているようだった。


「間に合った……とは言い難いね、うん」


 ぽつりと零すサジーさん。

 

「行きましょう!!」


「おう!!」


 マキマキの声に応じて俺も踏み出す。

 通常フォームだけど、気持ちでカバーしてやるぜ!

 

 向かおうとしたところで、《崩国の姫》の様子が変な事に気が付いた。

 ギリギリと身体がねじれている。

 なんだ?

 

「あれは……ユウゲンくん」


 ユウゲンさん?

 

「ユウゲンくんの魔素が乱れてる! ヒーはいま・・死ぬべきじゃない!」


 《崩国の姫》がギュルギュルと宙に浮いて、凄い打撃音と共に地面へ叩きつけられた。

 地面にクレーターが出来る。

 すげえパワーだ。倒したんじゃない?

 ……ダメだ。のっそり立ち上がってる。


「ユウゲンくんにこれ以上チカラを使わせちゃダメだ!! 行こう!!」


 慌てるサジーさんに促されて、右手にガイアエネルギーを集める。

 ガイアセンサーでグチャグチャに乱れたエネルギーを感知。

 サジーさんの言葉から察するに、ありゃユウゲンさんか。

 状況は分かんねえけど!

 

「旦那! いつものヤツ頼む! 連携技だ!」


「承った」


「マキマキは死んでる蜘蛛からエネルギーの補充を!!」


「ハイ!!」


「サジーさん! これ以上の人死にが出ないようにフォローしてくれ!」


「オッケーだよ、うん」


「いくぜぇ!!」


 旦那の腕に飛び乗る。

 そんでお決まりのジャイアントスイングだ。

 ぐるぐる回してもらっての……投てき!!

 両腕を前に伸ばして――


「アスガイアぁぁぁあ!! ギガガぁドぉぉぉおおお!!!!」


 アスガイアー・ギガガードは絶対無敵の防御だ。

 その硬度はアクラツ将軍の、水素爆弾での自爆も防いだくらい硬い。

 硬さは威力に比例するって! アニキが言ってた!!!!


「くらえオラぁああ!!!!」


 ドォォォォオオオオンン!!!!


 めちゃくちゃに景色が回って、気が付くと地面に身体が埋まってた。

 地面から這い出て顔を上げると、《崩国の姫》が前のめりに倒れてる。

 でも、《崩国の姫》は人部分の腕を伸ばして立ち上がった。

 アイツ硬ってぇ!


 いつの間にか、ソレガシの旦那が《崩国の姫》の八つ足の一つにしがみついている。

 

「ぬうおおおおおお!!」


 抱きかかえて踏ん張ると、旦那が巨体を放り投げた。

 城壁から少しでも遠ざけようとしたみたいだが、着地した《崩国の姫》が伸ばした腕に弾き飛ばされて城壁に埋まる。

 返す腕が俺に向けられた。

 腕をクロスして、ギガガードを繰り出しつつ衝撃に備えたけど、それより前に《崩国の姫》が吹っ飛んだ。

 吹っ飛ばしたエネルギーの放出元にサジーさんがいる。

 あの白い魔素を目いっぱい飛ばしたみたいだな。

 サジーさんやっぱ強ぇわ。


 俺は立ち上がって状況を確認。

 マキマキのエネルギーはかなり回復したみたいだ。

 ソレガシの旦那も崩れた城壁から出てきた。弱ってる様子はない。

 サジーさんの横にいる人(多分ユウゲンさん)の生体エネルギーも多少安定してきた。

 でも、《崩国の姫》のエネルギーは莫大だ。

 メイ姫の、あの宝石の光があれば何とかなったかもしれねえけど……。

 あの宝石は一度使ったあと、スカスカになってた。

 連続で使えないみたいだったし、無いものねだりしてもしょうがねえ。

 俺がやるんだ!


「俺は救世戦士アスガイアー!! 世を救う! 不屈の戦士! 人々を守るスーパーヒーローだぁ!!」


 ヒーローっぽい事を言って、ヒーローエネルギーをチャージ。


「ふん!」


 ガイアスーツがボッと紅い光に包まれて、肩と肘のパーツ、仮面のアイシールドの部分が鋭利に変化する。


「変! 身! バトルフォームぅ!!」

 

 とか言って気合は入れたもののガイアエネルギーが少ない分大技が出せねえ。ギガガードも打ち止めだ。

 技が使えないならどうする?

 直接殴るしかねえよな。

 毒がある?

 

 関係ないね!!


 強く踏み込んで、《崩国の姫》に向かう。

 跳びあがってどてっぱらに拳を叩きつけると、蜘蛛の部分が大口を開けた。

 糸を出して攻撃される前にカカト落として、蜘蛛の口を塞ぐと身体を捻り……回し蹴りを喰らわす!!


 身体がしびれて、キッツイ吐き気が襲ってくる。

 スーツごしでもコレかよ。

 頭がガンガンする。

 でも、身体は動く!


「負けるかオラァ!!」


 拳を上げてバケモンに向かう。

 俺が先に死ぬかコイツが先に死ぬか、我慢比べだ。

 殴り、殴られ、蹴り蹴られ、また殴る。

 《崩国の姫》のエネルギー量をガイアセンサーが知覚。終わる気がしねえ心が折れそうになる。

 俺なんて、ただ貰ったチカラで戦ってきた半端モンだし、大した努力もしてこなかった馬鹿野郎だし。

 他人様に誇れるような立派なヤツじゃねえし。


 ……でもなぁ!

 誰かが困ってるときに! 自分大事にして指くわえてるようなヤツにはなりたくねえ!

 俺なんかに全てを託して! 死んだアニキを裏切るような下衆にはなれねえ! なりたくねえんだ!!

 

(俺が死んでも、マキマキが、旦那が何とかしてくれる)

 

 ギリギリまで《崩国の姫》を弱らせてやる。

 ジュエルパワーを補充したマキマキならコイツにトドメをさせるだろう。

 旦那がサポートすれば大丈夫だ。

 

 ――貴方が守る対象に、貴方自身も入っていますか?

 

 アルマの言葉が浮かぶ。

 ……入ってねえよ!


「入ってねえよ! 俺が守るのは俺以外だ! 死んでも仲間を死なせねえ! ……やってやるよクソォ!!」


 親父も母ちゃんも、俺を守ろうとして死んだ。

 アニキも命を懸けてみんなを守った。

 俺もそうするだけだよ。

 でもなんか、胸がドキドキしてきた。息がしにくい。

 ……ビビってねえぞ畜生!


「ダメですよカブラギさん。守るなら、アタシとの約束も守ってください」


 肩で息してた俺の身体を、そっと包む柔らかい感触。

 首を後ろにやると、マキマキが両手を添えて俺を支えていた。


「一緒にこの世界を周るって、付き合ってくれるって言ったじゃないですか。ね?」


 ぎこちなく、でも必死に笑顔を向ける少女に、返す言葉が出ない。


「カブラギ殿は事、戦いとなるとせっかちでいかんの。頭を使うのはわしの役目ぢゃ。任せておけ」


 マキマキの背中から顔を覗かせたアグーが軽い調子で言うと、大きく息を吸い込んだ。


「ソレガシ殿ぉ!! 時を稼いでくれい!!」


「応!!」


 旦那が大きく跳躍して、振り上げた拳を《崩国の姫》に叩きつける。


「某とて! 味方が死ぬのは看過できん!」


 たった一人でバケモンと向かい合う旦那。


「……馮習フウシュウよ。我が弟子よ。お前を救えなかった愚行は繰り返さんぞ」


 旦那は何事か呟いて《崩国の姫》に躍りかかった。

 

「サジー殿!!」


「オッケーさ、うん」


 アグーの呼びかけにサジーさんが応じると、マキマキを含めた三人で空に飛び上がって並んだ。

 何する気だろ?

 マキマキが祈るように胸の宝石を両手で包む。

 

「RGB! プリズムモード!!」


 周囲がまばゆく発光した。

 スッと光が収まると、純白の豪華な衣装に変わったマキマキに、背中で立派な翼を広げたアグーの姿があった。

 何つうか……神々しいな。


「あれは……天使か?」


 城壁辺りにいる人たちからどよめきが上がる。

 城門にいる禿げたおっさんなんか、ボロボロ泣いて跪いてる。


「天使様がお言葉を発するよ! みんな傾聴するように!!」


 サジーさんの、魔力を乗せた声が響いた。



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