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第31話 仮面の戦士


 俺は大岩の陰に隠れ、腰袋から取り出したガイアコアをヘソに当てる。


「変身」


 ガイアコアからシュルリとベルトが巻かれると、フオンという音と共にガイアスーツが身を包んだ。

 直ぐに大岩の上へ跳んでマキマキとソレガシの旦那に並ぶ。


「ぐ、オ、お、オ、お、オ」


 メサルテの貴族。ネカジャノ大伯って呼ばれてたな。

 体から煙を上げてよろめいている。

 すっかりバケモンになっちまって、全然原型がない。


「なあ、アンタ。辛かったら介錯するぜ?」


 身構える二人より一歩前に出て、話しかけてみる。


「ま! マテ! わしハまだ! 死にタクない!」


 その返答に、上げかけた拳を下した。

 あれ?


「自我がある? そうか。惜しんで飲んでいた為に浸透しきれておらなんだか……。内包魔素に目を付けて加護を与えたが、人選を誤ったな」


 ブヨークンとかいう白仮面の呟きを、ガイアイアーが拾う。

 頭を抱えて片ひざをつくネカジャノ大伯。


「ぐう、苦しいゾ……。ブヨークンめ、ブヨークンめえ! 長く共ニ過ごし、ワシは友人ニ似た想いヲ抱いてイタというノニ!!」


「ワタクシに友人と呼べる者はただ一人。そして、それは貴方ではありませぬ」


 宙に浮いたまま、ブヨークンが肩を落とした。


「はあ、やはり図り事は苦手だ……まあよい。大筋からは外れておらぬ」


 場を見守る大皇国軍約2万。

 大共和国軍約5万。

 2万の方から一人飛び出してきた。

 メイ姫だ。


「貴様がソマリを惑わせたのか! 降りてこい! マルマリ子爵家を陥れた事! 後悔させてやる!!」


 護衛の二人が武器を持って並んだ。


「ああ……生きていたのか。あの小僧は失敗したのだな。わざわざ自我を無くさせて、小僧自身に手を下させようとしたのだが……つまらぬ」


 アイツ今なんつった?

 手袋が、ギュッと鳴る。


「いよいよ思い通りにならぬものよ……はあ」


「殺してやる!! 降りてこい!!」


 メイ姫が喉を震わす。


「ふん。……ところで、お集り下さった皆様に厚くお礼申し上げまする。諸兄はそちらにいらっしゃるマルマリ家をご存じでしょうかな?」


 気持ちを切り替えたように、ブヨークンは落とした肩を上げて両手を鷹揚に広げた。


「かつて数百年もの昔。大陸が戦乱まみえる中で、小国であるマルマリ国を統治した由緒正しい家柄でありまする」


 魔力を乗せた声が響く。

 何が言いてえんだ?


「おとぎ話で聞いた事のある方も、いらっしゃるのではありませぬか? マルマリ国は当時、ある実験をしました」


 身振りを加えながら話を続けるクズ野郎。


「進化の実験。魔獣に魔素を与え続け、進化の限界がどこにあるかを探す。限界を超えると破裂するという話が事実なら兵器に、そうでなくとも強大な魔獣が生まれれば制御して切り札にしようと考えた。しかしその試みは失敗。恐ろしい魔獣はマルマリ国を滅ぼしました」


 なんでこんな話してやがる?


「しかし、民は全滅を免れた。《仮面の戦士》が天より現れて、強大化した魔獣を封印した為です。めでたしめでたし……」


 聞き入る面々。

 場の空気はブヨークンが支配していた。

 ゆっくりと、空中で丁寧にお辞儀をする。




「くっふっふ……どうも、《仮面の戦士》です」




 手を掲げるブヨークン。

 黒い渦が空に現れた。


「封印を解きます」


 黒渦から巨大な雫が落ちてきた。

 ボチャンと大地で跳ねる。

 するとその場から、うぞうぞと何かがカタチを作った。


 蜘蛛だ。

 

 巨大な漆黒の蜘蛛が現れて、その背中から身体を起こすように、女性的な形の何か。灰色の何かが生えてきた。

 頭の部分からは八つのモヤが立ち上り、目の部分と口の部分はぽっかりと円形の穴が空いている。

 

「この地に多く存在するキラースパイダーの、究極進化形態。名はそうですな……《崩国の姫》とでも名付けましょうか。くっふっふ」

 

 《崩国の姫》の、人型の腹の部分がみるみる膨らんで爆ぜた。

 千差万別の蜘蛛の魔獣が数えきれない程出てくる。

 

 これは……やばい。


「エサ共が、おびき寄せられたとも知らずに哀れな事よな。くっふっふ……食い尽くせ」


 サジーさんが木の板、木簡? を再び出した。


「ミーが時間を稼ぐ!! カブラギくん達は両軍を合流させて!!」


 木簡が光る。


「遁甲天書、人の巻きに宿りし神通の力、石を固め、水を止め、火を滅し、山を紡ぐ!!」


 木簡が分裂して重ねり、大きな壁になった。


「守る事を許すよ!!」


 俺とマキマキ、アグーは大皇国軍の方へ、

 ソレガシの旦那は大共和国軍へ走った。


 振り返ると、サジーさんの作った壁にうじゃうじゃと蜘蛛の魔獣が群がっていた。

 サジーさんの声がガイアイアーから聞こえる。


「キューダ・ゲス・ネカジャノくん。ユーも逃げるんだ」


「お断りシマす。わしはモウ……ながくナいヨウです。ならば貴方ノ……フレンドの傍デ最後ヲ」





 大皇国軍の陣営にたどり着くと、あわあわしているだけの幕僚たち。

 実戦経験と訓練が少ないんだろう。

 とっさの判断が出来ねえんだな。


「カブラギ! マキマキ!」


 シソーヌ姫とアルマが駆け寄ってきた。

 ぴょんとマキマキの背中からアグーが離れる。


「シソーヌ姫よ! ヌシが両軍の指揮をとるんぢゃ!!」


「え? はあ!?」


「確執のある国同士! どちらかが指揮を取れば上手く機能せん! 今は第三国の! 聖王国の代表が声を出さねばならん!」


「ええ!! だって私そんなのした事ないよ!!」


「大丈夫ぢゃ! ワシがフォローする!」


 アグーがシソーヌ姫の背中に張り付く。


「マキナ!」


 マキマキが手首に触れると翠色のブレスレットが宝石に変わり、それをアグーへ放り投げる。


「はいっ! シーちゃん頑張って!」


 アグーの額に宝石がピタッとくっつくと、ギューンとシソーヌ姫と空へ飛んで行った。

 

「アルマは俺のフォローしてくれ」


「承知しました」


 さて後は。


「はーい!! ちゅうもぉぉく!!!!」


 手にガイアエネルギーを集めて、手をバンバン叩き大勢の意識をこちらへ向ける。


「逃げても追いつかれて死ぬ!! 生き残りたかったら俺についてこい!! さっきの白鎧のおっさんと迎え撃つんだ!!」


 亜人と合流するって言ったら嫌がるヤツもいるかもしれねえからな。

 旦那が岩吹っ飛ばしてんの見てただろうし、こっちの言い方のほうがいいだろ。多分。


「こちらへ!!」


 幕僚の役立たず達を促して、マキマキとアルマが馬に二人乗りして先導する。

 その中でメイ姫がヒザをついて座り込んでいた。


「仮面の英雄は……いない。いたのは外道だけ。私たちが信じていたモノは……なんでしたの……」


 ショックだったみたいだな。

 そりゃそうだ。

 でも今は!


 メイ姫に駆け寄る。


「仮面の英雄はここにいるだろ!!」


 メイ姫が顔を上げた。

 俺は声をかける。

 あの時、俺がかけられた言葉を。


 ーーその為に!! 立って!! 戦え!!!!


「立てメイさん!! 立って!! 戦え!!!!」






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