第28話 英雄との対峙
足が痛ってえ!
超大ジャンプで戦場に割って入ったけど、ガイアスーツ着てねえと耐久力が薄いわ。
俺のモフモフ毛皮に砂ぼこりが舞う。
パンパンはたいて周囲を見渡し、ボケっと見てる連中を確認してから、
ウオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!
吠えてやった。
ビビってやんの。
正直この姿は好きになれねえけど、今は感謝だな。
ハイエナ男の恰好は恐えから。
相手を黙らせるには最適だ。
俺も最初カガミ見た時、うそんって思ったもん。
「な! なんだ! 獣人族? 違う! こんな禍々しい魔素は感じた事がないぞ!」
亜人軍団の先頭で、下半身が馬のおっさんが叫ぶ。
禍々しいって悪口じゃない?
「新種の魔獣か!? 構わん! 侵略者共々打ち取れぇ!!」
立派なワイバーンに乗った鳥型の亜人が怒鳴る。
鳥型なら自分で飛べよ。
ウオオオオオオン!!!!
ビリビリと空気を震わせて牽制し、シャキンとかぎ爪を出して、
振り回す!
爪痕がでっかく地面に刻まれた。
狼狽えてる後ろの大皇国軍にもかぎ爪を振るう。
当たんないように。
「ひ! ひぃぃ!!」
這いつくばってる角の生えたおっさんが悲鳴を上げる。
見た事あんな。
えっと……、忘れた。
取り合えず打ち合わせ通りに。
「我が眠りを妨げたのはお前たちか……」
なんてね! なんてね!
口上は得意なんだよ!
なるべく低い声でかつ、通るようにしゃべる。
「こんな魔獣の存在など知らんぞ! 超級、いや! 伝説級の危険度だ! アレは何なのだ!」
下半身が馬のおっさんがまた叫んだ。
俺の魔素を計測できるみたいだな。
じゃあ勝ち目がねえのもわかるよなぁ?
正直、聖王国の人らに比べたら弱いよ。
全員。
馬のおっさんなんて立派な鎧着て隊長面してるけど、
聖王国の文官やってるカオッツさんとかマログさんより弱い。
衝突が始まっちまって、ゼギアス大皇国の先兵に不幸が少しあったみたいだけどさ、自業自得だよな。
忠義とか国の命令でとかあるだろうけど、他人を殺すために先行したんだろ?
自覚のない悪意だ。
自分で考えねえ奴の責任だよ。
守るスーパーヒーローは万能じゃないんだ。
俺は割り切れる。
割り切れる……。
でもこれ以上はやらせねえ!
「争う負の感情が我を目覚めさせたのだ! 地獄で後悔するがいい!」
とか言っちゃって。
先ずは亜人の奴らに突っ込む。
魔法が飛んでくるけど遅い遅い!
疾走して集団に飛び込むと、
ウオオオオオオン!!!!
腕を振り回して殺さねえ程度にどつき回す。
下半身が馬のおっさん。
逆に上半身が牛の連中。
虫みたいな連中。
5メートルはあるデカいゴリラみたいなヤツ等。
鳥型のヤツ等。
その他諸々。
俺はなぁ!
大金貰ったと思ったらカジノで全部スッたり!
寝ようと思ったら起こされたり!
やれ暗躍だ、やれ交渉だ、やれ駆け引きだって小難しい事に巻き込まれて!
ス ト レ ス が 溜 ま っ て ん だ よ !!
お前らがいがみ合ってんのが全部悪いんだろうが!!
仲良くしやがれこのバカチン共がぁ!!
蹂躙に次ぐ蹂躙!
ビンタして! ゲンコツ食らわせて! ビンタして! またビンタする!
方向転換して大皇国軍へも!
人ごみに潜り込んで両腕を振り回す。
あ、かぎ爪はしまってるから大丈夫。
打撲で済むだろ。
一振りで数十人が飛ぶ。
思ったより吹っ飛んでるけど打撲で済む、よな?
大丈夫!
自分を信じる!
と、なんか飛んできた。
魔法の砲弾だ。
大皇国の魔導兵器だな。
味方が山ほどいるのに関係ないのね。
そういうトコだぞ!
全力スピードでレシーブ!
飛んでくる砲弾全部レシーブ!
腕?
痛ぇよ!
ジャンプして、フワッと上がった弾を誰もいない野っ原に叩き落としていく。
身体をギュルっと回転させて、浮かんだ砲弾全部を。
彼方で爆発音が連続で響く。
目線を落とすと、シソーヌ姫とアルマと、ソレガシの旦那が見えた。
なんか呆れてない?
まだ浮いたままの俺に、亜人たちがワイバーンに乗って向かってきた。
「ウオオオオオオン!!!!」
そいつらに吠えてやると、ワイバーンたちがビビって逃げていく。
そんで着地。
俺はゆっくりと両軍の中間地点へ歩く。
「我をこれ以上……、もういいや、メンドくせえ。もう喧嘩すんなコラぁ! 仲良くしろとまでは言わねえけどよぉ! 手ぇ出してんじゃねえよバァカ!!」
だだっ広い平原が静まりかえった。
取り敢えずは収まったみたいだな。
この大暴れは、ここに来る途中に合流したサジーさんのアイディアだ、
俺は戦場に割って入って、チカラずくで戦争を止めるつもりだった。
とはいえ流石にアスガイアーのカッコで割って入ったら聖王国に迷惑がかかる。
でもサジーさんにユーが変身を解いて、獣の格好で暴れればバレないだろうね、うん。って言うから即採用。
マキマキ達より先行した俺がここにいるって訳だ。
「これ程の魔獣……知らない、聞いた事もない。なんだ、なんなのだ!」
誰かが叫んだ。
大皇国軍も、大共和国軍も、俺を静観している。
「ミーが説明しよう」
突然辺りに魔力をのせた声が響いた。
みんなが上を向いて確認したのは飛ぶ馬。
ペガサスってやつね。
それに乗ってんのは《自分ちの庭大好きおじさん》事、サジーさんだ。
ふわりとペガサスが地面に降りる。
「あの魔獣は《大聖戦》にて地上人を追い詰めた恐怖の象徴。《黒白の狂獣》」
ペガサスから降りて両手を鷹揚に掲げる。
何その名前。
「大規模な戦闘の気配で数千年の封印が解けたんだね、うん。アレこそは大陸に住まう全ての生命の敵。今戦うべきはあの魔獣だよ。……味方同士で争っている場合ではないんだ!!」
サジーさんが魔素を乗せた声で演説する。
それに聞き入る両軍の面々。
「ミーが《黒白の狂獣》を止める。この場にいる全員は手を出さないように」
サジーさんがいつも抑えてる魔素を放出した。
ブワッと風が巻き起こる。
ガイアセンサーが使えねえから正確には分かんないけど。
このヒトめちゃくちゃ強くない?
いや、打ち合わせ通りだけどさ。
お手柔らかにお願いしますよ。
じゃあ悪者の俺から仕掛けますか、ね!
「ウオオオオン!!」
かぎ爪を出してサジーさんに向かう。
サジーさんが指をクルクル回すと地面に魔法陣が出現、クイっと上へ向けたと同時に金色のデカい板が魔法陣から飛び出してきた。
その板を素早くよじ登って越えようとしたところで、上からサジーさんが顔を出した。
右手に白くてボンヤリした魔素を集めてる。
それを俺の顔面に叩きつけてきた。
地面に打ち付けられる。
え?
痛い。スゲー痛い。
顔を押さえつつ見上げると、板のテッペンに立つサジーさんが両手の人差し指をクルクルしていた。
ちっさい魔法陣がたくさん浮かぶ。
その魔法陣から金色の刃がシュババと連続で飛んできた。
おいおい。
四つん這いで走り回りって魔法の刃を避けていくけど、コレさ。
当たったらヤバくない?
演技だよな?
戦ってるフリで時間を稼いで、両軍を退却させる。
って言ってたよな?
走りながらサジーさんの乗っかってる金板に全力タックル。
板がグラリと傾いて、落ちてくるサジーさんを迎え討とうと顔を上げると、
いない。
「後ろだよ、うん」
脇腹に衝撃。
視界が吹っ飛んで頭が、腕が、全身が土で汚れる。
口の中で鉄の味がする。
埋まった顔を上げて、痛む脇を押さえつつ立ち上がった。
「うおおおお!! 流石は生きる伝説! 《世界の救世主》の一人であらせられるサンジェルマン卿だ!!」
「何! 大陸の西に《銀伯爵》が存在するという伝説は本当だったのか!」
「魔界の神々を相手取った《大聖戦》の! かの英雄がゼギアスにいたとは!」
「勝てる! 勝てるぞ! 応援いたします英雄さま!!」
わあわあと……。
さっきまで殺し合おうとしてた連中が、一緒になってサジーさんに声援を送ってやがる。
いいよ。
いいんだけどさ。
サジーさん俺をやっつけて、つーか殺して、めでたしめでたしにする気じゃねえよな?




