第27話 ゼギアス大皇国VSポロイス大共和国
誤字報告に大変感謝しております。
魔防都市メサルテより500キロメートル離れた大平原。
ポロイス討伐の先発隊を率いるネカジャノ大伯は、意気揚々と国境に立つ。
途中にある地方都市と庇護国の城塞国家を経由して徴収した兵は、当初の一万にとどまらず2万を数えた。
自身の後ろには大皇国の幕僚と、
大聖王国の姫君。
大聖王国大将軍の子女アルマ・エゥス・オリアノ。
ガドニア侯国にて赤龍を相手取ったという、客将ソレガシの3名が控える。
大聖王国の3名は、自分たちも当事者であるため参陣させてほしいと訴えてきた。
サンジェルマン卿がどういう目論見でこの3人を付けたかは分からないが、もはや軍を止める手立てはない。
ならば他国の要人に自分の雄姿を見せるのも悪くないと承諾したのだ。
目標とするのは、ポロイス大共和国の国境を守護する巨人族の城塞都市ジ・ガガだ。
平均身長5メートルを誇る巨人族が暮らすだけあり、堅牢で高い壁が都市を覆っている。
ネカジャノ大伯は幕僚たちを振り返り、告げる。
「では予定通り、裂炎魔石を用いた攻城作戦を開始致します。城壁に隙間が出来たならばハイウーツ鋼ゴーレム50体を先行させ、後方より魔導筒で援護。蛮族共の態勢整わぬうちに大軍で蹂躙いたします」
潤沢な資産を持つ、ネカジャノ大伯だからこそ出来る贅沢な戦術だ。
ブヨークンからの受け売りだが、大陸西部の兵は東部に比べ練度が低い。
魔王軍との実戦は大陸東部の国々が引き受け、西部は後方支援ばかりしていた為だ。
数少ない精鋭は人魔大戦で失っている。
魔人族は魔素保有量は多いが使用できる魔術が弱ければ宝の持ち腐れでしかない。
身体能力の高い亜人族とまともにぶつかれば、勝算は危うい。
近年のゼギアス皇国は危険な魔獣は冒険者が駆逐し、皇国兵の調練はほどほどだ。
国費の多くは魔導具などの新技術開発に割かれている。
兵の直接戦闘はつたないが、ドワーフ族からの技術提供でゼギアスの魔導兵器は大陸最先端を自負している。
魔導兵器の運用は金がかかるが強力だ。
特殊な能力を持つ亜人共ですら圧倒できる。
ゼギアスの貴族で一番の資産保有者は誰か?
自分だ。
つまり、大陸西部で最強なのは、
キューダ・ゲス・ネカジャノ大伯なのだ。
自信をもって2万の兵に号令する。
「諸君! 時は来た! ポロイスの蛮族共は! 機敏なる我らの行軍に未だ対応できずにいる! 奴らは我らが偉大なる皇国と! 親愛なる大聖王国との仲を裂くために! 下劣な策略を実行した!」
気分がいい。
「こちらにおわす! 大聖王国の可憐なる姫君を! 奴らは害そうとしたのだ!」
ああ気分がいい。
「誇りある皇国の戦士たちよ! 許せるか!? いや分かるぞ! 諸君の荒ぶる魂が! その怒りを! 蛮族共に叩きつけてやるのだ!!」
オオオオオオオオオオオ!!!!
手を上げ、叫び応じる2万の軍勢。
ネカジャノ大伯は思う。
(暗記してきて良かった。ブヨークン殿め、良い文を考えるではないか)
満足した気分そのままに、魔導筒へ裂炎魔石を装填するよう指示を出す。
宣戦布告などはしない。
先に手を出したのは向こうなのだ。
実際は違うが。
「恐れながら進言致す」
純白の全身鎧を鳴らして、客将のソレガシが口を出してきた。
これからという時になんだというのか。
少々気が削がれるが、相手は他国の要人だ。
無視は出来ない。
「どうされましたか、ソレガシ殿」
「多数の裂炎魔石に高価なゴーレム。堅牢な城を攻めるに足る戦力ですが、戦場はこの場だけではありますまい。某は武に多少の覚えがあります。城壁の破壊をもって貴国への援助と致しましょう」
淡々とそう提案してくる白鎧の男。
ネカジャノ大伯は本気で言っているのかと訝しがるが、ソレガシの表情は伺い知れない。
しかし、赤龍を単身相手取ったという話は聞いている。
話には尾ひれがつくものだが、本当だとすれば裂炎魔石が節約できるではないか。
本人が提案してきたのだ。
何かあっても、自国以外の被害なら士気の低下は何とかなるだろう。
むしろ軍を鼓舞する一因になるやも。
「それは心強い。必要な物はございますかな?」
「槍を一条」
「かしこまりました。オイ!」
近衛兵の一人が前に出て、槍を一本差し出す。
「精鋭に支給される、剛鋼の槍ですぞ」
ソレガシは槍を受け取ると、しげしげと眺めた。
「有難く。……一撃ならば耐えられるか?」
その足で、ガシャガシャと先行する。
「ソレガシ……」
不安げなシソーヌ姫に、ソレガシが肩で振り向く。
「心配召されるなシソーヌ姫。どうせコレでは全力を出せぬ」
ソレガシがグッと腰を落として、槍を構えた。
「絶技! ソレガシ必殺・凄い槍突き!!」
突風が吹き荒れた。
ネカジャノ大伯は自身を庇っていた腕を上げて平原に目をやる。
大地は直線状に削れ、遥か先の城壁が崩れていた。
言葉が出ない。
風の音だけが聞こえていた。
「ふう。どうであろうか大伯どの。今交渉すれば、血を流さずに済むやもしれぬ。戦力は温存すべきでは?」
粉々になった槍の、柄の部分を握りつぶしながらソレガシが声をかけてくる。
「は、はは! 凄まじい! ゴーレムを先行させろ! 都市を蹂躙するぞ! ワシに続け!」
「お待ちを! 籠城戦で城門が無ければ勝敗は決しております! 亜人たちも勧告すれば降伏するやもしれません!」
大聖王国のアルマ・エゥス・オリアノが水を差してきた。
負けるとでも思っているのだろうか?
「ははは! オリアノ殿! これは侵攻ではなく討伐なのです! ご安心なされ! 戦っても圧倒的に勝つ!」
アゴの肉を揺らし、馬を走らせると兵も自分に続いて走り出す。
士気は高い。
このまま城壁を抜けて一気に制圧してくれる。
後発組を待たず戦功を上げれば、自分にはどんな地位が約束されるだろうか。
巨人族など何するものぞ。
魔導先進国の兵器でなぶり殺してくれる!
太っているネカジャノ大伯を追い越して、兵が高声を上げつつ馬を駆る。
いいぞいいぞ!
そのまま――
バァアン!! ドォオン!!
騎兵が弾け飛んだ。
さらに秘蔵のゴーレムたちが見えない穴に落ちていく。
「な! なんだ! なにが起きている!」
(防衛用の罠か!? ブヨークンからは聞いておらんぞ!)
「進めぇ!! 侵略者から祖国を守るのだぁ!!」
大平原の側面から号令が飛ぶ。
目をやると、突然亜人の軍が現れて突進してきた。
とんでもない数だ。自分の軍以上、5万は超える。
「魔術隠蔽か! なぜ伏兵が!」
これだけの兵を伏するのは、かなり前から準備しなければ不可能だ。
討伐命令が出されたのが三日前。
自分が兵を集めたのが六日前。
情報が漏れたとしても六日でこの罠を?
いや、それより前から情報は渡っていたのだ。
自分が戦争を始める気になる前から。
誰から?
「図ったなブヨークンめぇぇ!!!!」
爆風に晒され、馬から振り落とされた。
「ひっ!」
這いつくばる自分の目前に、見知った近衛兵が血まみれで倒れてくる。
大伯は横ばいで頭を庇い後退する。
(あ、あの白騎士は何をしておるのだ!)
振り返ると多種多様な亜人が怒声を上げて迫ってくる。
どうしたらいい?
どうしたらいい?
ネカジャノ大伯は気が付いていない。
《どうしたらいい》を頭で唱えるだけで、実際には何も考えていない事に。
その時。
ドゥォオオオオオオォォン!!!!
亜人の軍勢の前に爆音が鳴り、砂ぼこりが舞い上がる。
不意の出来事にその場の生物は動く事を忘れた。
晴れていく砂ぼこり。
皆が息を飲む中、現れたのは――
白銀の獣毛に漆黒のタテガミ、鋭いかぎ爪と尖った歯牙を持つ、爛々と目を光らせた二足で立つ猛獣。
ウオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!
大平原に咆哮が響いた。




